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犬の血の悲しみと海鮮の恵み

なんでしょうね、ピラミッド組織のブラック企業感。実際にこんな会社ありそう。マンガでしか見たことがないけど。

 第4階層は必死になって2人のあとを追っていた。立ち回りそうなところ...,しかし彼は2人をただの餌運搬人だとしか認識していなかったので、立ち回り先の情報がない。5人いるうち残りの3人に聞いても良くわからない。市場で黄色い果物を売っていたということだけは掴んだ。市場でいろいろ聞き込みをしたが、目が紅く輝いて体中から怒気と焦りを発散していたので、人々は足早に立ち去った。しばらく歩くと見慣れない店があった。「夢スパイス亭」。何か情報がないかと店内に入ると、むせ込むような濃厚な匂いが立ちこめていて気絶しそうになった。なんだ...これは...?魔界の瘴気か?「いらっしゃいませ!」セレナさんが笑顔で出迎えた。ダメだ、声を出すと息とともに致死性のガスを吸い込んでしまう。第4階層は息を止めて店外に出た。


 店外に出てしばらく走ると、ようやくふつうに息ができるようになった。「ふう、何だったんだ,あの店は?われわれが知らない魔物の巣か?第3階層に報告しておこう。おっと、もうこんな時間か。家に帰って用意をしてバイトへ行かないと。くそっ、腹が減って力が出ない。」



 海は広い。水平線の彼方には何があるんだろう?階層がない世界があれば良いな。潮の香りだ。ものが食えるようになってから、食欲を刺激する香りにも反応するようになった。外れスキルだと最初は思ったが、なかなか良いものだ、これは。そして、ライツと一緒というのも最高だ。2人で食べる飯は格別だからだ。緑の精霊さん、ありがとう。


「フレッセン、見て、釣れたよ!」ライツが釣った魚を持ってきた。なかなか大きい。「さっそく捌いて食べよう!」ライツはまな板に魚を載せ、包丁で頭をたたき切った。次に尻尾をたたき切った。なんか違う気がするが、俺もよく知らないので口は出すまい。「よし、じゃあ焼くから火を起こして。」「お...おう!」俺は火を起こした。ライツは小枝に魚を刺して焼き始めた。魚の焼ける良い匂いが漂ってきた。ライツがそこへ醤油をかけた。ジュワッ...。なんだ、この至極の香りは?食欲がピークになりよだれが流れる。「じゃあ、はい、アーン!」ライツが棒に刺さった焼き魚を俺の顔の前に持ってきた。かぶりつく俺。「美味いっ!」初めて食う焼き魚に俺は感動して涙を流した。ライツもかぶりついて感動している。


「ねえ、フレッセン...浜辺に住む人たちって幸せだね...」

「ああ、こんな美味いものを毎日食えるなんてな。」俺はそう言って漁村だった廃村を見た。「なんで滅びたんだろう?」


 焼き魚を5匹堪能したあとで、俺たちは海で泳いだ。海の中にはたくさんの生き物がいた。ライツはいくつか捕獲した。どうやらあとで食べる気のようだ。俺たちヴァンパイアは、あまりたくさんの空気を必要としないようで、長い間潜っていられた。ただし深さが5~6メートルを超えると水圧が厳しいので、あまり深みにははまらないよう気をつけた。



 交通整理のバイトを終えた第4階層は、ようやく血液補充の時間を得た。今夜狩りを成功させないと,回復不可能なほど弱体化する。彼は餌を求めて人通りの少ない夜の路地を歩いた。いた、手頃な女がいた。第4階層は静かに近づくと、背後から女を羽交い締めにして血を吸おうとした...が、女の強烈な肘打ちを脇腹に食らってしまった。思わずかがみ込んで脇腹を押さえる彼を女は容赦なく蹴りつける。顎を蹴られた第4階層はもんどり打って仰向けに倒れた。その顔を女は何度も踏みつけた。脳がしびれて意識が遠くなった。


「おっと、死んだか?おや、この牙、ヴァンパイアか。ならば死なねえな。」女は3回スタンピングを食らわせてからつばを吐きかけて去って行った。


 1時間後、横たわる第4階層を小さな野良犬がクンクン匂いを嗅いでいた。餌になるかどうか確かめているようだ。頬の肉に噛みついたところで第4階層は目を覚まし、「ふざけるなっ!」と犬を持ち上げて首を噛んだ。野良犬の鮮血が吹き出したので、第4階層は音を立てながらすすった。通行人が遠巻きにしてざわめいていた。


「くそっ、犬の血をすすったせいか...。」第4階層は自宅で床に伏せっていた。体調を崩した。ヴァンパイアには珍しく吐血した。これは人間のゲロに当たる。犬の血が身体に合わなかった。「く、誰か新鮮な餌を持ってきてくれないか...」彼は残った3人の下僕に期待した...が、彼の元を訪れたのはゴールドのネックレスをジャラジャラさせた第3階層だった。


「おい、上納が遅れてんぞ。」


「あ、すみません。体調を崩しまして...。」


「体調だあ?!いっちょ前にずいぶんと偉うなったもんやな!そういうのはしっかり結果を出してから言う言葉や。半人前が一人前の真似をするんやないわっ!」パシンパシンパシン!第3階層は伏せっている第4階層に3連発の平手打ちを食らわせた。「ええか、今日中にしっかり上納しないと、次は平手じゃなくて拳で行くからな!」第3階層は帰って行った。



「ねえ、フレッセン、金だらい見つけたよ。これにさっき採ってきた海産物を入れて火にかけたら、なんか美味しそうなものができあがる予感がする。海水をいっぱい吸い込んでいるから、お水だけで行けるんじゃないかな。味が薄かったら醤油を足そう!」ライツは元々活き活きしているが、海に来てからますますその傾向が強まった。こいつ、アンデッドだということ忘れてるんじゃないか?そのうち子どもを産んでお母さんになるんじゃないか?


 ライツの提案した料理はとてつもなく上手かった。おれはこれを「海の恵みのたらい鍋」と名付けた。こうして食生活が満たされてくると、他の生活品質も向上させたくなる。衣服も欲しいし、部屋と寝具も充実させたい。それに、海に潜って塩だらけになった身体も風呂で洗い流したい。いろいろ作るか。でもそのためには町へ行って材料を集めないとな。だけど第4階層に出くわしたら面倒だな。


「変装して町へ行こう!」俺はライツに提案した。「廃村のゴミの中から使えそうなものを捜して変装するんだ。」

「私は髪の毛が目立つから頭巾で覆わないと。あと、色が付いた服を着てみよう。」

「うん、俺も帽子と色の付いた服だ。」



 俺たちは廃屋を1つずつ漁って使えそうなボロ布を集めた。針と糸も見つかったので簡易的な服を作った。完璧だ。少し怪しいピエロの男女みたいになったが、誰も俺たちとは気づかないだろう。町に行く途中でスパイスマンゴーも収穫してアルマンさんたちに届けてあげよう。



 客でごった返している夢スパイス亭。俺は声を潜めてセレナさんを呼んだ。


「セレナさん...持ってきましたよ、スパイスマンゴー。」


 声を潜めているのと妙な恰好に変装しているので、セレナさんは察して俺たちをバックヤードに呼び込んだ。


「まあ、ありがとう。そろそろ残りが心配になっていたところだったの。」


「ちょっと人に追われていまして...」


「まあ、でもそんな恰好だとかえって目立つわよ。ちょっと待って....」セレナさんは奥の自宅から衣服を持ってきた。「はい、これ、私と主人のお古だけど、ユニーク呂で買った品なので目立たないと思うわ。これに着替えてからカレーを食べていってね。」



最下層のフレッセンとライツは生活を向上させて、中流下の第4階層はボロボロ。搾取構造で固められた社会は、最下層がサボタージュすると崩壊が始まるのでしょう。

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