青いエーテルの泉がある洞窟を捜して
青いエーテルが攻撃魔法を封じる唯一の手立てだ。しかしエーテルという捉えどころのないものをどうやって持ち出すか?
「それを島から持ち出すことはできないのですか?」俺ははやる気持ちを抑えきれずに訊いてしまった。いかん、これは失礼だったかも知れない。この島を青い島ならしめているものを持ち出そうとは。
「できなくはありません。これに溜めて持って出ることは可能です。」魔法使いは複雑な形の魔道具を取り出した。「ただし、青のエーテルが湧き出している泉を見つけ出さなければなりません。」
「見つけ出す...のですか?」俺は希望が遠のくのを感じながら尋ねた。
「はい、その泉がある洞窟は島のどこかに出現するのですが、出現するたびに場所を変えるのです。」魔法使いは静かに答えた。魔法使いの瞳にも、かすかな青の光が宿っているのを俺は見逃さなかった――まるでこの島そのものが彼女の一部であるかのように。
「青のエーテルがその源泉から湧き出ているのなら、源泉を宿す洞窟は他の場所と比べて一層青く輝いているのですね?」
「はい。ですがそれを探し出すことは極めて難しいと思います。人間の目は目の前にあるものしか見ることができませんから。」
「わかりました。でも人間の目でないのなら目の前のもの以外にも見ることができるかもしれません。霊の目なら。」俺はユラを指差した。ユラの瞳はもともと深い夜の色をしていたが、この島の空気に触れてから、どこか澄んだ水面のような光を湛えているようにも見えた。
「なるほど、この目なら空から洞窟の出現を観察できるかも知れません。」魔法使いはユラの手を取ってじっと彼女の目を見た。
魔法使いはユラの目を覗き込み、その奥に広がる霊的な視界を読み取ろうとしていた。ユラは最初は戸惑ったようだが、やがて魔法使いの真剣な眼差しに静かに応じるように、自分の意識を集中させていく。集中して一度閉じた瞳がやがて再び開いた瞬間、その瞳は淡い青の輝きを帯びていた。
魔法使いの顔に、徐々に驚きと確信の色が浮かび上がる。
「これは……確かに。この目なら、この島の物理的な障壁を超えて、エーテルの流れ、その源泉たる青い輝きを捉えることができるかもしれません。」魔法使いはユラの手をそっと離し、彼女の顔を見上げた。「しかし、それにはユラさんの集中力と、この島のエネルギーとの同調が必要です。簡単なことではありませんよ。」
ユラはきゅっと唇を結び、まっすぐに魔法使いの目を見返した。
「やってみます。みんなのために。」
俺はユラの言葉に、胸の奥が熱くなるのを感じた。希望が、再びこの島に満ち始める。
「ですが、エーテルが湧き出している泉を見つけ出すのはあくまで第一歩です。そこから魔道具にエーテルを溜めるには、さらに別の、複雑な工程が必要となります。」魔法使いは複雑な形の魔道具をもう一度取り上げた。「その工程には、この島に満ちる『調和』の力を理解し、それと一体となる感覚が求められます。焦りや強い欲求があると、かえってエーテルは逃げていってしまうでしょう。」
俺たちは互いに顔を見合わせる。攻撃魔法の無効化という大きな目標は目の前にあるが、道のりは依然として険しいようだ。しかし、ユラという希望の光が、その道を照らし始めたのは間違いなかった。俺たちは空中のユラについて行くことにした。
しばらく進んで森を抜けると青い泉があった。青い魚が泳いだり飛び跳ねたりしている。すると水の中から、透き通るような青白い光を纏い、まるで水そのものが命を宿したかのような姿をした泉の精が現れた。きっとこの島の青のエーテルを司る神秘的な存在に違いない。泉のさざ波のような静かな響きで彼女は言った。
「あなたたちが落としたのは、魔王をも一撃で粉砕するこの摩滅のトライデントですか、それともあらゆる攻撃を無効化するこの救済のオーブですか?」
うわ、なにこれ?どっちもめっちゃ欲しい。やっぱりここはオーブ一択かな。そう考えて口を開きそうになったミルトを制して俺は言った。
「欲しくないと言えば嘘になります。ですが、俺たちはどちらも落としていません。欲しいからと言って嘘をつけば心が汚れます。」
それを聞いて泉の精は静かに微笑み、満足そうに消えていった。
え?それで終わり?普通ならこの正直な心は報われるものじゃないのか?ユラが降りてきて、俺の背後から絡みつき、頭を撫でた。いかん、油断してると取り憑かれるやつだ。泉の精の清らかで美しい姿を思い出して心を落ち着かせよう。
「良く言ったね。偉いぞ。」ユラは頭を撫でながら耳元で囁いた。「あそこで嘘をついていたら、焦りや強い欲求があると思われてエーテルは逃げてしまうところだったわ。」
「はい、そこ、離れてね。」ライツが割って入った。「イチャイチャはそこまでよ。たぶんこれは試練だったのよ。合格したようだから、次行きましょ。」
ユラの誘惑を泉の精の姿を思い出すことで上書きしようとするフレッセンは、やはりあまり道徳的に褒められた存在ではありませんね。




