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黄色い果実と超絶極旨カレー。食い過ぎ注意。

ライツは木登りが得意だったんですね。不足を補い合って協力するのは良いことです。

 俺たちは森に来ていた。森なら果物が見つかるかも知れない。食うことを覚えてから、未知の食い物への興味が大きくなった。ライツは樹上を見上げ、何か綺麗なものがないか捜しているようだ。こいつも食えるようになれば良いのにな。そうすれば第4階層のご機嫌取りをせずに済むだろう。いや、そうもいかないか。組織から抜けた者はいない。たぶん抜けられない仕組みなのだろう。


 そもそも俺たちは階層の規則から自由になれるのか?あれは始祖が定めたものだ。俺たち第5階層が勝手に吸血できないのは、これ以上ヴァンパイアが増えることを防ぐためだという。ピラミッドの裾野がどんどん広がると、人間とヴァンパイアの需給バランスが崩れる。始祖が考えたのは環境保全だ、持続可能なヴァンパイア世界だ。まあ頂点に君臨していれば,当然そう考えるだろう。俺たち最下層が支える綻びのない強固な世界。永遠の平和と繁栄が続く世界。上の奴らにとっての理想郷だ。


 噛まれた順番によってこんなに大きな格差が生まれるとは。ああ、腹が立ったら腹が減った。果物がどこかになってないか、と木の枝をチェックして歩いていたら、あった。黄色い実がたくさんたわわに。俺は木に登って取ろうと思った。だが登れない。考えてみれば、記憶をたどる限り木に登ったことがない。


 そんな俺の苦闘を見ていたライツがスルスルと木を登り、難なく果実を手に取り口元に持って行ってクンクン匂いを嗅いでいる。「ライツ!それをこっちに投げろ!」俺は懇願したが、ライツはちらっとこっちを見ただけ無視し、果物を注視してはクンクン匂いを嗅いでいる。そして、「食べたい食べたい...」と呟き始めた。すると、何と言うことだろう、あの緑の服を着た小さなおっさんがライツの近くに現れたではないか。「おぬし、食べたいのか?」俺はその瞬間叫んだ。「ダメだ!ライツ、食べたいよりもっと良い願いをするんだ!」だが、ライツは素直に「食べたい」と答えてしまった。「そうかそうか、ならば...」おっさんは短い呪文を唱え、「よし、これで果物でも野菜でも肉でも魚でも、何でも食べられるようになったぞ。良かったの。」そう言って器用に樹上に登って消えてしまった。


挿絵(By みてみん)


 それを聞いたライツは目を輝かせて果実に齧り付き、破顔一笑、「なにこれ、美味―い!」と歓声を上げた。2個、3個と連続で平らげてからやっと俺に気づき、「フレッセン、食べる?」と1個投げてくれた。ああ、ライツも最大のチャンスを逃して外れスキルを選んでしまったか。まあ、ないよりマシだ。これから2人でグルメを極めよう。それにしてもこの果実、めちゃくちゃ美味いな。いや、他の果実を食ったことがないので比較はできないのだが。こんなに美味いなら市場でも売れるんじゃないか?「おい、ライツ!市場で売るから、果実をもいで投げてくれ!」


「とりあえず100個ぐらい集めたな。」

「まだまだあるよ。」ライツは4個目を囓っている。


「あした市場で売ろう。おっと、その前にだ、ライツ。大切なことをおまえに教えておかなければならん。」俺は世界の真実を語る賢者の顔になった(と自分では思った)。


「ライツよ、おまえは果実を4個体内に取り入れたな。それが明日になると体外へ排出されたがって暴れるのだ。股間の前の穴から水が噴き出し、股間の後ろの穴から臭いカレーのようなものが噴出する。これを処理するためにはトイレという場所に行かなければならない。紺鼻荷にある。そこに行くと穴の空いた椅子があるので、下半身を覆うものをすべて脱いで,その椅子に座るのだ。さすればおのずと....」パシン!ライツの平手打ちが炸裂した。「な...なんだよう。大事なことだぞ。これを知らないと大惨事になるんだぞ。」パシン、パシン...ライツの平手打ちが2発炸裂した。



 翌日、市場で果物の値段を調査し,それに合わせた価格で黄色い果実を売り始めた。色合いが良いのでぽつりぽつりと人が買い求めてくれ、1個食べて美味しかったからとすぐに数個を買い足してくれる客もいて、午後には無事に完売した。おにぎりが300個買えるくらいのカネが手元に残った。


「すごいな、ライツ、これだけあれば...」とライツに話しかけようとしたらライツがいない。周囲を探すと、あの装飾品の店にいた。売り上げのカネを持ってさっそく装飾品を買っていやがる。しかたがない。木に登って果実を取ったのはライツなんだ。カネはライツのものだ。


「フレッセン!」ライツは買い物から戻ってきて俺に装飾品の首飾りを渡した。「私とおそろいだよ。付けてね。」なんだか照れたように顔を赤らめている。


「果実5個余ったから、カレーをごちそうしてくれた奥さんに持っていってあげよう。」俺は提案した。腹が減ってきたので,ひょっとしたらまたごちそうになれるかも知れないという期待もあった。なにせ今回はライツが一緒だ。きっと興味を持ってもらえるだろう。こいつはそういう女だ。



「奥さん!」俺は呼び鈴を鳴らした。「こんにちは、フレッセンです。きょうは友だちのライツも連れてきました。こないだのお礼に果物を持ってきました。」


 満面の笑みで奥さんが玄関に現れた。「あらあら、あのときの食べっぷりの良い兄さんね。主人も喜んでいましたよ。あら、かわいいお友だち!」


「ライツと申します。フレッセンとはもう300年...」「も一緒にいたって言っても良いくらい仲が良いんですよ。」俺は焦って割って入った。


「きょうはこないだのお礼にこの果物を持ってきました。」


「あら!」奥さんの顔が明るく輝いた。「それは珍しい伝説の果実スパイスマンゴーじゃないの。これをカレーに入れると、もうこの世のものとは思えないほど美味しいカレーになるのよ。」奥の部屋から旦那さんも出てきた。「なに?スパイスマンゴーだって?いますぐカレーを作って食べよう!君たちも食べて行きなさい。」俺は心の中でガッツポーズを決めた。


 ああ...、これは、美味いという形容が雑すぎて申し訳ないほどの味だ。至高と究極を足して2で割らないで二乗したような味だ。


挿絵(By みてみん)


 ご主人は目を細めながら食べて、急に立ち上がってライツとフレッセンに向かって宣言した。「私はこの味を提供する店を出したい。そのためには君たちの協力が必要だ。どうか、スパイスマンゴーを定期的に提供してくれないだろうか?うちの指定納入業者として働いてくれないだろうか?十分な報酬ははずむ。」奥さんも立ち上がって、「お願いします。店を出すのは私たちの夢だったんです。ごめんなさい、今まで名乗っていませんでしたね。主人はアルマン、私はセレナです。」旦那アルマンが力強く拳を上げた。「そしてこれから開く私たちの店は、夢スパイス亭だ!」




緑の小さいおっさんのおかげでライツも食べられるようになり、トイレにも行かなければならなくなりました。パシンパシン!

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