赤ビキニの女、お姉様の館
洞窟が隠れ家だなんてワイルドな第2階層ですね。
ユンゲが指さす方向を見ると、赤いビキニを着た女が手を振っていた。
「こっち、こっち~!」
なんだ、この場違い感は!
「ねえ、エラのこと助けに来てくれたんでしょ?」
くっ、文字面がユラと似ている。視力が悪いと、あるいはフォントが小さいと、区別が付かない。しかし、ビジュアルは正反対だ。なんだ、この清楚の真逆のようなあざとい赤ビキニは?
「捕まってたのよ、あのドスケベ親父のヴァンパイアに。エラちゃんはかわいいから血は吸わないよとか言って、さんざんセクハラしまくりで、マッサージごっことかやって最低だったんだから。まあ...おかげで命は助かったんだけどね。やっぱりカワイイって最強じゃん。みんな大事にしてくれる。」
俺はすぐに察知した。こいつは世に言う「サークル・クラッシャー」だ。ミルトなど一撃で沈む。ツァルトのアルテミス・ショットが奴の桃色心臓を撃ち抜く。ウンピも危ないかも知れない。ミナモよ、どうする?そして、こういう文脈に登場しそうもないオリヴァーだってどうなるかわかったものじゃない。いや、何よりこの俺が...、いや!そんなことがあってたまるものか、俺にはユラが...,違う!ユラは肉体のない精神だ、幽霊だ。俺の嫁になるのはライツだ...。
「ねえ、お兄さん、ここから連れ出してくれるよね♡?」俺に頼むのか?他にも人がいるだろうに。
「もちろんだ。エラ、おまえは仲間だ。」俺に代わってオリヴァーが力強く宣言した。オリヴィアがオリヴァーの背中を強めに叩いた。ほらね、こうなるから。
俺たちは財宝と赤ビキニを伴って洞窟を出た。今回は何の邪魔も入らなかった。町で財宝を換金して、村の設備を増設することになった。オリヴァーとオリヴィアの醸造所、ウンピとミナモの店や居酒屋もリフォームした。
「私もお店したい。」満面の笑みでエラが手を挙げた。
「何の店をしたいの?」ライツが少し不審そうに尋ねた。
「カフェ、かわいいカフェ!」エラは屈託ない笑顔で答えた。
「カフェね...本当に普通のカフェ...?」ライツは警戒している。
「カフェか、それなら...」ツァルトが半分乗り気になりそうだ。
「スイーツも充実するの?」ジュースは8割乗り気だ。
「うーん、それも良いけど、まずスタッフね。」エラは夢見るように答えた。「可愛い子を揃える、これが一番大切!そしてコンセプト!」
は?可愛い子とコンセプトって...それはカフェではなくて,その前にコンが付くやつじゃないの?エラはこの平和な村に水商売という新しい業態を持ち込むつもりなのか?
「ねえ、ライツとジュースも可愛いから手伝ってくれるよね?」エラは何の遠慮もなくタメ口だ。そしてここでツァルトだけ外したのは何か意図があるのか?俺は胃が痛くなってきた。
「うちらは海女と寿司をやるから無理だよ。」ジュースが即答した。
「じゃあツァルトとユラは?」エラに失礼という概念はないのだろうか?
「接客は苦手」「人間じゃないので」が2人の答えだった。
「じゃあ、ミナモさんとオリヴィアさんは?」さすがにこの2人には「さん」を付けるんだ。
「私はかまいませんよ」「私も」えっ!?お姉さん2人はやるんですか、コンカフェ?
とんでもないことになった。村で初めての水商売がエラ、オリヴィア、ミナモのコンカフェで始まることになった。男たちは活き活きとしている。活き活きとして夜を待っている。村に活気がみなぎった。しかし...良いのか?
俺は寿司を食いながら酒を飲んでいる。美味い。幸せだ。ライツとジュースが活きの良い魚を捌いて美味い寿司にしてくれる。「はい、お待ち!」と出してくれる。幸せの極地だ。う~ん、そろそろ帰ろうかな。「ごちそうさま、お愛想お願い!」俺は支払いを済ますとまっすぐに家に帰った....はずなのだが、なぜか俺は家ではなく、コンカフェ「お姉様の館」に来ていた。今日で連続5回目だ。
「いらっしゃい、フレッセンくん!」エラは親しげな笑顔で俺の手を引く。「毎日来てくれないと弟くん養分が足りなくなるんだぞ。」と意味がわからないことを言って、彼女は俺の頭を胸に抱きしめる。お胸が顔の左右に当たる。弟くん、なんて甘美な響きなのだろう。お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん!抱っこしてもらって頭を撫でてもらって、全部を肯定してもらう。エラだけではなく、オリヴィアもミナモもぼくのお姉ちゃんだ。撫でてもらえる。こうして毎晩80バルほどのお支払いになるので、だんだん財布の中身が寂しくなって行く。
「ねえ、フレッセン、良いかな?」ライツに呼び止められた。
「はい、なんでしょうか?」なぜか敬語になる俺。
「あんた毎晩行ってるんでしょ、コンカフェ?」
「あ...何というか...たまに休もうとは思っているのですが、弟養分がですね...」
「ふつうにキモいんだけど。まあ付き合ってるわけじゃないからどうでも良いんだけどさ。」ライツはこれ以上ないってくらい冷たく「付き合っているわけじゃない」と言った。
そういえばミルトとウンピはお姉様の館でかち合ったことがないな。あいつらだって毎晩来そうなものだが。
「やあ、フレッセン、なんか元気ないな。」ミルトがギターを背負ってやってきた。
「ああ、ちょっとな...」
「コンカフェ通いは楽しいか?」少し小馬鹿にしたような顔でミルトが尋ねた。
「お、おう。おまえは行かないのか?」
「行くなら死ぬ気で行ってこいと、弓を構えたアルテミスに脅された。」
「ウンピは?」
「あいつは初日に出禁にされたよ。スタッフの家族はダメだって。」
みんな危うい平和を享受している。俺はかなりマズい。ここはライツにすがりたいが、さっきの様子だととりつく島もなさそうだ。ううう、どうしよう?自由意志ではどうにもならない。
あかんやつです...毎晩通ってしまう...




