過去へ跳び涙を手に入れたが,その間に村は襲撃に遭った
エルフの時空移動装置を使って過去へ跳び...ユラの殺害現場を目撃する。
俺たちはエルフクイーンが導くままに装置に入り、やがて周囲が白く輝き始めた。耳の奥がキーンと鳴って軽い頭痛がそれに続いた。そして...目を開けると、あの温泉の近くにいた。戦前のユラが温泉の縁に腰掛けている。疲れているようだ。そして...森の中から男が現れた。始祖だ。始祖はユラの背後に近寄り、何やら耳元で囁いている。振り返るユラ、目を紅く輝かせ牙を剥く始祖。俺は耐えられなかった。このままむざむざユラが殺されるのを黙って傍観しているのに耐えられなかった。俺は銀のピストルを構えた。殺してやる!だがその瞬間、ユラが俺を制した。
「ダメ、邪魔しちゃ!」
俺は驚いてユラを見た。このままだと殺されるのに、助けてはいけないのか?俺の目はそう語っていた。
「ダメです、邪魔しちゃ。私はあのまま殺される運命なのです。」
「なぜだ?助けたい!」俺は悲痛な声で訴えた。
「たとえそこで撃っても始祖は復活します。だけど私は消えます。ここで死んで霊体になるはずの私が、助けられることによって存在しなくなります。それだけではありません。シュロマンスの死闘も,私がいなければみなさんは負けてしまっていたでしょう。私の存在のために、私はここで殺されなければならないのです。」
俺は固まった。俺はユラが殺されるのをむざむざここで見ていなければならない。歴史に介入してはいけないということはこんなにも辛いことなのか?ユラが目の前で、あの忌々しい始祖の、文字通り毒牙にかかるのを、この目で黙って見なければならないのか?
始祖の牙がスローモーションのようにユラの白い首筋に刺し込まれた。鮮血が吹き出し、ユラの身体がガクンと崩れ落ちた。その瞬間、霊体のユラが飛び出して流れ落ちる涙を掬い取った。涙色の光が輝いた。霊体のユラの手に1本のダガーが握られていた。殺された生体のユラは鮮血に沈んだ。霊体のユラはその姿を見て、「作戦は成功です。さあ戻りましょう!」と毅然と言い放った。
俺たちはゲートを通って元の時代へ戻った。これでラメント・ダガーが手に入った。これで始祖を滅したらユラはどうなるのだろう?この世に留まる理由をなくして消えてしまうのだろうか?俺は出口のない問いに苛まれながら村へ戻った。
村へ戻ると騒然としていた。いくつかの建物が損壊しており、何らかの襲撃があった痕跡になっていた。俺は防衛班へ急いだ。
「どうした?何があった?」
「襲撃です。第2階層1体、第3階層5体、第4階層10体が押し寄せました。激しい戦闘でしたが、新しく加わった魔道士たちのおかげで何とか対処できました。オリヴァー様たちが捕らえてきて人間化を選んだ元第3階層の方々も活躍なさいました。こちらの被害は全部で13人です。人間化した仲間は海辺の霊園に埋葬しました。オリヴィア様、そして魔道士のユンゲ様も倒れられましたが、さきほど復活なさいました。」
なんと、留守中に大きな襲撃があったとは。しかもこちらの甚大な被害も出ている。だが、第2階層が1名減ったので、これで敵の第2階層は合計3名。少しずつ減っている。始祖はユラで倒す。作戦計画がしっかりしていれば、こちらの勝利は間違いないだろう。ん、待てよ?今回の敵は第2階層とその下部組織の単独行動だ。とりあえず撃破できたのなら、第2階層が貯め込んでいる金銀財宝を頂きに行くべきではないのか?俺はともかく新参の魔道士3人組に戦いの詳細を尋ねに行った。
「ヴァイプ、戦いはどうだった?」
「フレッセン!ヴァンパイアの第2階層は化け物でした。通常の黒魔法はほとんど無効化され、銀の弾丸の効果も限定的です。私たちは黒馬砲の無効化の状況を観察し、奴がその都度エレメントの耐性を変化させていることに気づきました。つまり火の耐性が強いときに火は効果がなく、氷の耐性が強いときは氷が効果がない。なので私たちはランダムにエレメントとを変化させて攻撃することにして、効果があったときにエレメントとは無関係な電撃魔法で体力を削る戦法を採りました。この作戦は上手く行ったのですが、敵は防御力が強くスピードも速いので、ユンゲがやられてしまいました。攻撃しながら反撃を避ける動きが実戦経験不足の私たちにはまだうまくできなかったようです。」
「ヴァンパイア化して不死身だったのは何よりだった。」
「はい、オリヴィア様もさきほど復活なさいました。」
「これで敵の第2階層は3人。こちらは元第3階層が4人に元第4階層が10人、そして新装備の練度が高い防衛班、そして切り札のユラもいる。勝てない戦いではない。」
俺は今回の襲撃でトラップに落ちた第3階層を拘束して尋問した。
「おまえたちの上司は死んだぞ。」
「ふん、ならば次は俺がその座に座るまでのこと。」
「どうだろうな、青イソメになる未来しか見えんが。」
「そ、それは困る...。」
「そうだろ?だったら美味しいスパイスマンゴーでも食うか?おまえの仲間はみんな青イソメよりこっちを選んだぞ。」
「わかった...食う...食わせてくれ!」
「ならば死んだおまえらの上司の家を教えろ。」
味方の元第3階層はこれで5人になった。順調な戦力増強だ。俺は戦費調達のため、魔道士3人とオリヴァー&オリヴィエ、そしてユラを連れて死んだ第2階層の家に向かった。これだけの護衛を付けて行けば、たいていの荒事は無事に切り抜けられる。
今度の第2階層の家は町外れの洞窟の中だった。警戒しながら足を踏み入れると、奥へ続く通路は思ったよりも広い。
「何か罠があるかもしれません。注意して進みましょう。」ヴァイプが周囲に警戒しながらそう言った。
俺は銀のピストルを構え、いつでも撃てるように準備した。オリヴァーとオリヴィアは左右を固め、ユラは俺の背後を漂っている。彼女の霊体としての感知能力は頼りになる。洞窟の奥へ進むにつれて、空気はさらに重苦しくなってきた。時折、床に乾いた血痕のようなものが散見される。普通は自分で狩りをしない第2階層だが、こいつは特別だったのかも知れない。自分の手で屠ることに喜びを見いだす根っからのハンター。
やがて、広い空間に出た。中央には積み上げられた金貨や宝石が、薄暗い洞窟の中で鈍く光を放っている。間違いない、これが第2階層が貯め込んだ財宝だ。その量は、想像をはるかに超える。すごい量だ。しかし、警戒を怠るわけにはいかない。財宝の周囲には、明らかに人工的に作られたと思われる罠がいくつか仕掛けられている。床には見えない糸が張り巡らされ、天井からは鋭利な刃物がぶら下がっている。
「私が解除します。」
メートヒェンが前に進み出た。彼女は罠の解除が得意らしく、目を輝かせて慎重に魔法を操り、一つずつ罠を解除していく。
そのとき周囲の気配を探っていたユンゲが、奥に何者かの気配を察知した。「奥に、何かいます。」
順調に敵の数を減らしてきたが...




