酒造りで村おこし、魔王学校の学生,エルフクイーン
いままでは第3階層で働く必要がなかったけれど、人間になれば生業が必要になります。貴族が醸造業って、わりと現実でもありますね。
バラ酒作りは2度目なので慣れている。今は時間がないのでリキュールベースだが、いずれ本格的に醸造にもチャレンジしたい。バラ以外にも色んな果実酒も作りたいな。
新人の元第3階層オリヴァーとオリヴィアは、このバラ酒造りを見ていて酒造りに興味を抱いたようだ。人間になることを選んだ2人は、何かしらの生業を捜さなければならない。村の名物になるような酒を作ることができれば、村の経済は大いに潤う。俺は2人と相談して、とりあえず果実酒を試作することを勧めた。俺たちの運命を変えたスパイスマンゴーの酒ができると、村の名物になるかもしれない。俺たちは森と裏山からスパイスマンゴーを含む様々な果実を採取して、酒造りを始めた。
俺たちがエルフの村の近所で果実採取に励んでいたら、シュロマンスの魔法学生が3人やってきた。俺たちは、祭壇の間を出たあとで学生たちに助け出した女を託し、祭壇の間で何が行われてきたのかを詳細に報告したのだった。学生たちの衝撃は大きく、神官に報復することが即時に決定された。報復が済んだあとは,シュロマンスを呪われた土地として封印し、もう誰も近づけない場所にすると決められた。3人の学生3人――成人女性のヴァイプ、少年のユンゲ、少女のメートヒェン――は、すべてが片付いたことを報告しにやってきたのだった。
「で、ヴァイブよ、あの女性はどうなった?」俺は尋ねた。
「仲間が付き添って故郷へ帰しました。修道院へ入るそうです。」
「そうか、俗世は生きづらいだろうからな。」
「他の仲間もそれぞれ故郷へ帰るようです。」ユンゲが言った。
「そうか、じゃあおまえたちも...」
「いいえ、私たちは帰りません。」メートヒェンがきっぱり否定した。
「俺たちはヴァンパイアとの戦いに参加するつもりでここへ来ました。」ユンゲの思いがけない参戦表明。
「ヴァンパイアのお話を聞いたとき、われわれシュロマンスが深く事件に関わっていたことを知って、このまま見過ごすことはできないと3人で相談して決めたんです。」ヴァイプが代表格らしく説明した。
「ヴァンパイアは階層が上がると非常に強力なので危険な戦いになるぞ。」俺は警告した。
「はい、そこで...」ヴァイプが何やら策がありそうな顔で続けた。「私たちも一時的に不死身になろうと考えています。」
「なん...だと!?」俺は絶句した。何を言い出すんだ、こいつらは?
「そちらにはまだ人間化していないヴァンパイアの方がいらっしゃると思います。なので眷属にして頂ければ、人間化するまでの期間は不死身になります。戦いでやられても復活してまた戦えます。」
「俺たちは実戦の経験がありません。なので戦いで上手く立ち回れずにやられてしまう可能性が高い。そのリスクを回避する方策です。」ユンゲは聡明そうな顔で言った。
このやりとりを聞いていたオリヴァーとオリヴィアは、顔を見合わせて何やら小声で相談していた。
「わかりました。私たちが眷属にして差し上げましょう。」オリヴィアが凜々しい声で宣言した。
「ですが、私たちも食べられるようになってから3週間になります。無事に眷属にできるかどうか、やってみなければわかりません。」オリヴァーが釘を刺した。
3人は首を差し出した。オリヴァーがヴァイプとメートヒェン、オリヴィアがユンゲに牙を突き立てた。3人は倒れ、そしてしばしの後、紅く輝く目をして復活した。眷属化が成功した。それを確認してすぐに、俺は3人にスパイスマンゴーを与えた。これで確実に人間に戻れる。魔法を使える第4階層が3人、これは大きな戦力増大だ。
バラ酒が完成したので、俺たちはエルフの村を訪れた。今回は村人へのお土産も抜かりはなく、オリヴィア特製のさまざまなフルーツケーキがバスケットにいっぱいだ。さっそくエルフクイーンの謁見の間へ向かう。
「エルフクイーン様、お酒を持参しました。」俺は深々と頭を下げ持参した酒を捧げた。
「うむ、良き心がけじゃ。」ロリ婆はご満悦の様子だ。
「エルフクイーン様、実はご相談したいことがありまして...」ライツが良いタイミングで話を切り出した。
「ほう、何じゃ?言うてみい。」ロリ婆はバラ酒をグビグビ飲んでいる。
「過去に戻ることはできませんでしょうか?実は彼女が...」ライツはユラを前に出した。「彼女が殺された現場へ行きたいのです。」
「ほお。霊体か、珍しいのお。かなりの魔力も感じるぞ。」ロリ婆は興味深げにユラを見ている。
「彼女は始祖に殺されたのです。そのとき、命の炎が消える瞬間、彼女が流す涙、それを手に入れることができれば、始祖を倒すことができるのです。」俺は、焦っていたのか、かなり途中をすっ飛ばした説明をしてしまった。
「あい、わかった!」バラ酒でトロンとなった目でエルフクイーンは即答した。「付いて参れ。」
エルフクイーンが先導して案内された場所には奇妙な装置があった。
「これじゃ、時空の扉。わが一族に伝わる究極の魔法装置じゃ。」エルフクイーンは自慢げに鼻をひくつかせて装置を紹介した。
心強い仲間が3人も。そして次元を超えて過去へ! 何が待っているのでしょう?




