シュロマンスの激闘、始祖の正体
ユラちゃん、どんどん綺麗になって行きます。AIが贔屓しているのでしょうか。
俺は始祖に何か食わせればこっちのものだと思っていた。だが具体的にどんなものをイメージすれば良い?シュロマンスには魔法学生と悪魔神官と悪魔しかいない。この中で食い物になりそうなのは悪魔ぐらいなものだ。悪魔の心臓、悪魔の脳みそ、まったく食欲をそそらない。そんなことに苦労するよりも、ユラに始祖を焼き殺してもらうのは?そもそも自分を殺した仇だし。でも、第3階層ですら火に耐性があったのだから、始祖がワイバーンのように焼き殺されるとは考えられない。悪魔神官に相談するか?いや、相談に乗ってくれないどころか、全力で殺しに来そうだ。魔法学生に相談は?これも確実性に欠ける。うーむ、詰んだか、これは?
ワイバーンが怖くて湖に近づけなくなったので、食材から魚が消えた。その代わりジビエの種類と量が増えた。アルテミスの活躍が光る。夜目が利くユラが空から獲物の位置を知らせてくれるので、狩りの効率が上がった。夜の見張りも、睡眠を必要としないユラが引き受けてくれるので、体力的にとても助かった。ワイバーン撃破と言い、森のキャンプと言い、ユラを仲間にして本当に良かった。
満月の日が来た。ワイバーンの群れが消えていた。これはどういうことだ?そうか、満月の夜にだけ島が現れるので、その日は島への移動の邪魔になるワイバーンは遠ざけられるという寸法か。ということは、あのワイバーンはやはり何者かの支配下にあるということになる。俺たちは筏を組んで湖に乗り出した。
島に到着した。湖岸から洞窟までは一本道で、道は石畳だった。道の両側には松明が焚かれ.足下を赤々と照らした。洞窟に入ってしばらく進むと禍々しい扉があり、そこがシュロマンスの入り口だった。良し、進もう。扉に手を掛けた俺をユラが制した。
「待ってください。結界の罠があります。」ユラは扉に手を掛け何やら呪文を呟いた。「これで大丈夫。侵入者撃退用の罠を無効化しました。」さすが元在校生、良く知っている。
扉を開けて進むと、ユラが言ってたように、中は広い空間が広がっていて、横にいくつか小部屋の扉があった。
「危ないっ!」ライツが叫んだ。天井から無数のつららが落ちてきて、俺たちは後ろに跳んで避けた。
「ふっふっふ、良く避けたな...。」黒い影が立ちはだかった。「このシュロマンスに忍び込んで,生きて帰れるとは思うなよ。」
「悪魔神官です。」ユラが言った。
「お、妙な気配がすると思ったら霊体か。しかも魔力も感じる。」
「悪魔神官さん、ちょっと良いですか?」俺は中途半端な敬語で尋ねた。「俺たち教えて欲しいことがあるんだけど...」
悪魔神官の手から無詠唱で炎が伸びた。しかしユラの氷魔法が危機一髪でそれを無効化した。
「問答無用かよ!」俺は武器を取り出そうとしたが、ライツがワニカンガルーに使った聖水ピストルしか持っていなかった。こいつに効くのか、ニンニク血?とりあえず撃ってみるか。はい、効きません。ローブに紅いシミを付けただけでした。神官は服を汚されて怒った。ごめんてば。神官は怒って両手を妙な具合に交差させてすごい魔法を使おうとしている。パンッ!ミルトが撃った。神官は倒れた。そうか、こいつは魔法を使えるだけのただの人間なんだ。物理攻撃で簡単にくたばる。
「用心しないと。」ライツが警戒を呼びかける。
「神官は何人いるの?」ツァルトがユラに尋ねた。
「4人です。なので残りは3人です。」
倒せることはわかったが、これでは何も聞き出せない。魔法学生たちが敵として動員されたら厄介だ。どうする?
「私もまだ見たことがありませんが、悪魔の祭壇の間に行ってみましょう。何かわかるかも知れません。」ユラは命知らずだ。まあ命はもうないので惜しむ必要はないのだろうが。
俺たちは武器を構えて奥へ進んだ。俺も鞄から銀の拳銃を取り出した。ユラは魔法で前方を明るく照らし、足下の安全と索敵を確保した。大洞窟の奥に小洞窟があり、そこに入ってしばらく歩くと地下水の川がある。そしてその川には大理石の橋が架かっていて奥の祭壇へと続いていた。
「ユラ、扉の罠は?」
「何も感じられません。そのまま開きます。」
「よし、突入だ!」俺たちはギャングのアジトに突入する刑事のように拳銃を構えてドアを開けた。
悪魔はいなかった。祭壇の部屋は饐えた匂いが充満し、酒瓶が転がり、飲み散らかしたグラスが乱雑に並んでいた。治安の悪い裏町の安酒場といった風情だ。こんなところが祭壇の間なのか?カタリ...部屋の奥から物音がした。なんだ、隠し部屋か?いや、隠し部屋ではなく、ふつうのドアがあってもうひとつの部屋に続いている。俺たちは用心してドアを開けた。
「もう勘弁して...!」懇願する弱った女の声がした。「もう....こんなこと...」女の嗚咽が小部屋に響く。小部屋には大きなベッドがあり、その上に裸同然の痩せた女がいた。なんだ、ここは?
「あなたはひょっとして...」ユラが前に出た。「悪魔に捧げられたの?」
「いえ、悪魔なんていないんです...。悪魔より忌々しいあの神官たちが...」女は泣き出して話を続けられなくなった。
「おまえたち、そこで何をしている!」背後から男の声がした。どうやら神官のようだ。
「助けて!この汚いケダモノから!」女が叫ぶ。男が魔法を発動する前に俺は撃った。躊躇なく撃った。事情は飲み込めた。
銃声を聞きつけて神官が2人踏み込んできた。ユラが魔法封印の魔法を放った。ドラクエのマホトーンのようなものだ。不意を突かれた神官たちは攻撃手段を封じられた。ユラ、GJ!
「さあ、吐いてもらおうか、どういうことか!」俺は拳銃を突きつけて神官に迫った。
「こいつらは悪魔へ捧げると騙して私をここに連れ込んで...陵辱の限りを尽くしたんです...」女は絞り出すようにこれだけ言うと、また嗚咽に沈み込んでしまった。ライツとジュースが優しく撫でて慰めている。
「ま、魔法を教えてやったんだ...このくらいのこと...」神官は震えながら俺を睨んだ。
「そうか...ともかくこの悪事は魔法学生全員に知らせる。おまえたち2人はここに拘束する。あとは生徒たちに任せよう。」
「ま、待ってくれ。助けてくれ...何でもする...」神官は汚らわしい手で俺を掴んだ。蹴り飛ばしてやろうと一瞬考えたが、ここに来た理由を思い出した。
「なんでもするって言ったな?」俺はできるだけドスのきいた声で詰め寄った。
「は、はい、なんでもします...」
「ならば知っていることを吐いてもらおうか。このシュロマンスとヴァンパイアの関係を。」
「私たちは黒魔法の他にネクロマンシーの研究もしております。死体を蘇らせる魔術です。蘇らせると言っても、死者を生者に戻すことはできません。死者のまま動けるようにするだけです。死してなお死んでいない者、不死者として。まあ、必要がないのでめったに試したことはありませんが。ところが数百年前にここで恐ろしい事件が起こったのです。私どもの先達がここで...その...お楽しみを...はい...女子学生への不適切な関係を持っていたところに、ある学生が祭壇への興味が抑えきれずに侵入してしまったのです。学生は瞬時に状況を悟って神官と戦闘になりました。神官は女の陵辱に精も根も尽きていたので、格下の学生に負けました。しかし、神官の加虐的な陵辱のため女は学生の目の前で息を引き取りました。学生は慌てて、覚え立てのネクロマンシーで女を復活させようとしました。しかし、ネクロマンシーとはアンデッドを生み出す魔術です。女は彼の目の前でアンデッドとして復活し、彼を襲って首を噛みました。学生は薄れ行く意識のまま黒魔法で女を焼き殺しました。しかし...アンデッドに噛まれた彼はアンデッドになってしまい、眷属となる瞬間に主を殺した希有な存在となったのでございます。」
「なるほど、良い話が聞けた。で、その希有な存在とやらの弱点はないのか?」
「自分が殺した人間に殺されることです。しかし、殺された人間はもう殺すことはできない。なので,論理的には無敵と言えるでしょう。私たちにもどうにもできません。」
「なるほど、良くわかった。ではあとは学生たちと良く話し合ってくれ。」
俺たちは女を助け出し、神官たちを残して部屋を出た。そうか、やはりユラが鍵か。
ユラが良いところを全部持って行くので、ライツの存在がかすみがち...本命彼女ポジなのに...




