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空からの強敵ワイバーン、そしてユラの魔法

新しい仲間がだんだん馴染んで行くのはうれしいですね。

 しばらく歩いてようやく湖に到着した。満月の夜までしばらくここでキャンプだ。ちなみにユラは浮遊状態だった。足はあるけど見えるだけ。そして服装は自由にチェンジできるらしい。そりゃそうだよな。いつも同じ死装束ではかわいそうだ。まだなんとなく幽霊っぽいけど、さみしげな美人さん風になった。


挿絵(By みてみん)


 まだ三日月なので,シュロマンスに突入できるのはずいぶん先だ。魚を毎晩食べるのも飽きるな。2週間近くあるからな。動物性タンパク質と油脂だけというのも少し辛い。界隈で食材リサーチするか。ツァルトの持ってきたキノコ事典が役に立つ。まずわかりやすいのは山菜だな。ワラビ、ゼンマイ、フキ...あと水場だからレンコンも見つかるかも。そうだ、地下茎だよ,地下茎。大地の栄養ごちそうさまってな。食える男は発想が豊かだね。俺が大地を這いずり回って土を掘り返している間、ライツとジュースはくノ一のように木から木へ飛び回って果実や木の実を集めていた。役割分担、それは美しい...のだが、なぜか少なからず敗北感を感じた。


 ユラは退屈じゃないのかな?俺は新しい仲間を気遣った。なにしろ一緒に飯が食えない。一体感の外側にいる。人間じゃないので仕方がないが、仲間だからな。俺は湖畔を見渡したが、さっきまでいた場所にユラの姿がない。あっちだ、なんと湖上の上を浮遊して楽しそうだ。そうか、いままでずっと温泉の中に潜っていたから、自由にふわふわ飛び回れるのが嬉しいんだ。たぶん、ぼそりぼそりと会話するのも内心は喜んでいるのかも知れない。何百年もひとりぼっちだったからな。


挿絵(By みてみん)



 食材が集まった。海女姉妹が捕った魚、ツァルトが射落とした鳥、山菜、レンコン、山芋、キノコ、久しぶりに栄養の偏りのない食事が摂れる。ユラは湖上を飛び回っている。風の精霊のように。


 何日か経つうちに、最初は少し透き通っていたユラの身体がだんだん実体のように見えてきた。近くに寄ると存在感や重みのようなものを感じる。触れてみたい欲望が頭をもたげたが、背面に跳び蹴りを食らった仲間がいたことを思い出して思いとどまった。


「ねえ、ユラはどうしてあの場所にいたの?」気になっていたことを俺は尋ねた。


「シュロマンスで魔法を学んでいました。」驚愕の事実だ!魔女だったのか?


「えーと...その...魔法は使えるので?」俺は期待を隠さずに訊いた。


「黒魔法を少し...」


 !!!!なんだと!!!ハイレベルの仲間じゃないか!もうRPGか異世界ファンタジーじゃないか。「なろう」のラノベの世界じゃないか!いままで地道にやってきたのに、終盤になってチートキャラが仲間入りかよ!プレイヤーも読者も納得できないぞ。


「レベルいくつです?」俺は恥も外聞もなくハイテンションで訊いた。


「レベルって何です?」ユラは不思議そうに首をかしげた。


挿絵(By みてみん)


 

「私は黒魔法の課程は修了しましたが,ネクロマンシーには手を染めていません。実は私、シュロマンスから逃げ出したんです。」


「逃げ出さなければならないような事情があったの?」


「はい、あのまま続けていれば、いつかは生け贄として悪魔に捧げられてしまう。シュロマンスでは魔法学生を悪魔に捧げて加護を受けているのです。そして悪魔には処女を捧げるという規則があります。あのとき私の周りは男ばかりだった。なので私は隙を見つけて脱出したのです。」


「そしてあの男と出会った...と。」俺はユラの表情をうかがいながら尋ねた。


「はい、あの男は言いました。処女を奪ってやろう、処女でなくなればシュロマンスの追っ手もやってこないだろう、と。それで私は身を任せたのです...でも...」ユラは言葉を止め、悔しそうに唇を噛んだ。「でもあの男は私を抱きしめ,牙を突き立てたのです。鮮血が吹き出し,気が遠くなる私の耳元であの男は囁きました。これで眷属になれる、と。だけど私は死んでそのまま骸になり、やがて腐って塵になりました。だけど、魂は残っていて、変わり果てて塵になる自分の身体を見ていたのです。」


 なんということだ。始祖は最初の犠牲者を眷属にできずに殺してしまったのか。しかし、眷属にされることと人間として死ぬこと、簡単にどちらが良いとは決められないな。そもそも眷属も死者だ。悪をなす死者だ。ユラの清らかな心は自らが眷属として悪をなすことに耐えられなかっただろう。俺が思い悩んでいると、空から「ギャ~!」という謎の鳴き声が聞こえた。大きな鳥か?いや、違う。あれは小型のワイバーンだ。やばい、この湖畔には俺とユラしかいない。そのときユラが動いた。なにやら口の中で小声で朗唱すると、右手から火の魔法を発動してワイバーンを攻撃した。始めて見た。黒魔法だ。


挿絵(By みてみん)


 ワイバーンは最初の一撃は旋回して避けたが、次の炎をまともに食らってしまい、火だるまになって湖に落下した。


挿絵(By みてみん)



「フレッセン、ユラ、こっち!」森の中からライツが俺たちを呼ぶ。「そっちの開けた場所だと空からの攻撃に弱いわ。ここは高い木々が尖塔のように上に突き出しているから安心。でも、他の敵も出るかも知れないので油断はできないわ。」


 俺たちはキャンプ地を森の中へ移した。湖の上空から複数のワイバーンの鳴き声が聞こえる。あんなのに集団で攻撃されたらひとたまりもない。俺たちはとんでもない場所に来てしまった。ここに来たことで始祖の秘密の一端は聞くことができた。しかし決定打に欠ける。それにしても、あのワイバーンの群れを回避してシュロマンスへ侵入することができるのだろうか?


「なあ、ユラ、シュロマンスの中はどうなっている?」俺は今後のために尋ねた。


「大きな空洞になっていて、いくつかの小部屋があります。最奥部にまた洞窟があって,その奥に悪魔の祭壇があると言われています。」


「見たことはないんだな?」


「はい、祭壇に近づくことが許されているのは少数の悪魔神官だけです。」


「魔法学生は何人いる?」魔法学生が敵になったときのために訊いておかなければ。


「定員は10名です。ただ10名揃っていることは少ないそうです。私のときも7名しかいませんでした。魔法を習得する過程で魔力暴走などを起こして死んでしまうのです。」


「もし俺たちが乗り込んだら戦闘になると思うか?」


「なるでしょうね。不法侵入者は皆殺しにされるかと。」



ホント、これで大丈夫なんですかね?黒魔法なんて発動しちゃって。それにしても、シュロマンスに入って行っちゃうの?始祖よりやばくない?

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