恐怖!ワニカンガルーとカンガルーワニ
いよいよエルフの村の向こう側へ旅立ちです。でも旅立ちの前夜は宴だね。
村へ戻ってまず鍛冶屋を訪れた。出発前までに滑車を完成させたい。鍛冶屋のその旨を伝えたら、明日の午後までには完成させて崖下に設置し、ツタロープもつなげておくとのこと。仕事が早くて頼りになる。
「さて、何を準備するかだな...」俺たちは作戦会議を始めた。
「キャンプ道具一式ね。何泊かしないといけないから。」ツァルトは計画的だ。
「武器は必須。」ミルトは脳天気だが武器マニアだ。銀のリボルバーがお気に入りのようだ。
「昆虫事典とキノコ事典。」ツァルトはぶれない。
「水着も必須。湖があるんでしょ?満月の夜にしか現れない島となると、湖畔でしばらくキャンプね。」海女姉妹はやる気満々だ。
「そんな怪しげな島が出現する湖に潜って大丈夫なの?」ツァルトは慎重だ。
「化け物が出たらこれで仕留める。」ジュースはハープーンを構えた。
ある程度話がまとまったので、俺たちは温泉に入ってから居酒屋へ場所を移すことにした。温泉に入る前におれはライツに耳打ちしてあることを頼んだ。ライツとジュースはそのまま海へ走った。温泉と居酒屋が隣接しているってホント神仕様だ。ヴァンパイアは生きてないので代謝がない。よって風呂も入る必要がない。不幸な奴らだ。温泉に入って居酒屋でビール、この最高の「あ~っ」を味わえないんだからな。いつか死ぬからこそ生きている今が輝く。俺は湯に浸かりながら実感していた。少し長湯をしてから湯を出て、まずはとりあえずビールを逃し込んでいると、ライツとジュースが女湯から出てきた。2人ともやる気に満ちている。
「へい、らっしゃい!」威勢の良いライツの声が響く。ねじり鉢巻きをしている。
「お客さん、良いネタが捕れたよ。」ジュースもその隣で活きが良い。
「じゃあ、おすすめから握ってもらおうか。」俺はわくわくして注文した。
「私はイカ。」ツァルトは自分の意見をしっかり持っている。
「俺は...えーと、お任せで良い。」ミルトはこんなもんだ。
ライツとジュースの寿司職人は手慣れた手つきで次々と寿司を握り、俺たちの前に出してくれた。店を開けるほどの腕前だ。海女姉妹寿司...最高だけど名前が長すぎる。
翌朝、俺たちはエルフ・クイーンへに渡すバラ酒と他の子たちへのお土産のお菓子を持って出発した。下にも滑車があるので崖の上り下りがすごく楽になった。今回もまた、ツタの簡易エレベーターの音を聞きつけて、何人かのエルフさんが上からのぞき込んでいる。
「やあ、お出迎えかい?ありがとう。」俺はお菓子のバスケットを渡した。
「やったー!お菓子だ!」水と太陽だけで生きている花の精でもお菓子は別腹、すごく喜んでもらえた。
「こっち、こっちー」エルフさんたちに手を引かれ、折れたとはエルフの村へ入った。ここを抜けて東の出口から出る。
「良く来たの。」エルフ・クイーンが現れた。俺はバラ酒を渡した。「うむ、これからは村を通るたびにこの酒を持ってくるように。」なんと通行料として酒を要求された。このロリ婆、伊達に500年も生きていないな。
村の出口を出るとしばらく切り立った崖の道が続き、森林地帯へ出た。森林には様々な即物や昆虫がいて、ツァルトは事典と首ったけで昆虫やキノコを採取している。
「ツァルト、キノコはともかく昆虫はどうする?」俺は心配になって尋ねた。
「飼う。」思った通りだ。
「あのな、ツァルト。俺たちはこれから遠いところまで旅をするんだ。その間に昆虫さんたちは死んじゃうだろ。」ツァルトは口をすぼめて虫かごを背中に隠したが、考え直して虫を放した。「良し、良い子だ。帰りに同じ場所を通るから、そのとき捕まえろ。な!」
森は結構大きくて、森を抜ける前に日が沈んだ。今夜はここでキャンプだ。火を起こし、鍋を掛ける。キノコとウズラのスープだ。ウズラは途中でツァルトが射落とした。
「交代で見張りを立てたほうが良いと思う。」ツァルトらしい慎重さだ。
「じゃあ俺が最初に立つ。2時間ずつな。」俺が手を挙げた。
「ちょっと、フレッセン、こういうのはくじ引きよ!」ライツの異議申し立て。そりゃそうだな。最初と最後は良いけど、睡眠の途中を2時間というのはきついからな。くじ引きの結果、ライツ、ジュース、俺、ツァルト、ミルトの順番になった。うん、俺は運が悪い。
深夜、丑三つ時、森は限りなく静かだ。夜行性の小動物が時折カサコソと音を立てるだけで、あとは遠くに虫の音がするだけだ。眠い。俺は木にもたれて眠気と戦っていた。テントからツァルトが出てきた。やった、交代か、と思ったが、そうではなく、ただお花を摘みに行っただけだった。
ツァルトがスッキリしてテントに戻ってから数分後、森の暗がりからモンスターが現れた。なんだ、こいつは?上半身がワニ、下半身がカンガルーだ。超怖い。「出た、モンスターだ!」俺はみんなを起こした。
みんな武器を構えてテントから飛び出した。ミルトの銃が火を噴き、ツァルトの矢が放たれた。しかし効かない。ヴァンパイアではないから銀は効かないのだ。俺は銀の杭を握りしめたが、刺せる気はしなかった。
「これでっ!」ライツが聖水ピストルの引き金を引いた。効くわけないだろ、と俺は思ったが、シュルシュルと霧が出て、怪物の姿が変わった。さっきとは反対で、上半身はカンガルー、下半身がワニになった。何だ、これは?
「やっぱりね。」ライツは悦に入っている。何だ、これは?俺は眉間にしわを寄せてライツを睨んだ。
「この銃には聖水の代わりにニンニク血が入ってるの。もしかして何かに変身するかなと思って。」ライツはニヘラニヘラ笑っている。
まあ確かに危険なワニの口とキックボクサー並みのカンガルーの足はなくなった。だがしかし、どうするんだ、これ?これでもやっぱり怖いよ。今のニンニク血を浴びて怒っているみたいだし。
そのときジュースがハープーンを持って前に出て、ワニカンガルーからカンガルーワニに変身した怪物に投げた。固いワニ革よりずっと柔らかいカンガルーの皮膚を貫いて、ハープーンは怪物を倒した。恐るべし、ジュースのハープーン投げ。
なんじゃ、このキメラモンスターは?自然界にふつうに生まれたものだとはとても思えない。まだまだ道は長い。苦しい旅になりそうだ。ところで、今回のリアルモードのライツとジュース、いかがです?かわいいでしょ。Soraが描いてくれたのです。さすが有料のAIは違いますね。




