エルフの村とエルフクイーン,女だけの村の秘密
バラのお酒が完成しました。さあエルフの婆さんに会いに行こう。
バラの酒が完成した。見た目が綺麗だ。香りも良い。女子チームは試飲したせいか、みんなとろんとした顔になっている。
「美味かったか?」俺は訊いた。
「おいひかった。」ジュースは酒に弱いっぽい。
「我ながら美味しく作れたわ。」ライツはシェフであり板長なのだが酒造りマイスターのジョブも得たようだ。
「甘みと色の調整に苦労したけど、会心の作に仕上がった。」ツァルトは研究熱心だ。
「うひょ~、美味い!」ミルトは勝手に飲み始めた。
「どれ、それではこれを綺麗なバスケットに詰めて婆さんのもとへ行こう。」
エルフの村の近くの崖道は、ツタロープの簡易エレベーターで上がれるのだが、今は上に滑車を回す人がいないので使えない。俺たちはツタをたどって登った。崖の上からエルフたちがこっちをのぞき込んでいる。
「持ってきたぞ、バラのお酒。」俺はバスケットを掲げた。
「わあ、綺麗な色!」エルフはボトルを受け取り微笑んだ。そして婆さんを呼んだ。「お婆さん、お酒が来たよ~!」
「どれどれ...」エルフの婆さんが...って、婆さんじゃないじゃないか。なんだこれ、たまにゲームやアニメに出てくる「ロリ婆」というジャンルか?
「ほお、良い香りじゃ。」ロリ婆はボトルの栓を開け香りを嗅いだ。「これはなかなかのできばえじゃ。どれ、ゆっくりと村で味わうことにしよう。では、さらばじゃ、人間よ。」
っておい、酒だけ受け取ってとんずらかよ!「ちょ、待って!」俺は呼び止めた。
「エルフのお婆さん、ちょっと待ってくれ。話を聞きたいんだ。」
「何じゃ?わしはすぐにでもこの酒を飲みたいんじゃが。」
「飲みながらで良いから話をしてくれ。」俺は土下座の気分で手を合わせた。
「仕方ないの。では特別に村へ入れてやろう。」
やった!一歩前進だ。俺たちは婆さんに連れられ結界の先にある村へ入った。始めて見るエルフの村。色とりどりの巨大な花が咲いている。見とれていると.婆さんが「触るなよ!ばい菌が入るからな。」と失礼なことを言った。
「おまえらは知らんだろうけど、これらの花からわしらの次世代が生まれてくるんじゃ。花が熟すまでは100年以上かかる。獣に触れると雑菌が入って花が枯れる。」
「は、花から生まれてくるんですか...?」俺は息をのんだ。
「そうじゃ、わしらはもともと花の精だからの。」
ここに来て突然の異世界ファンタジーかよ。花の精だと?少女マンガでもそんな恥ずかしげな設定はなかなかないぞ。
「花の精のエルフさんは、ふだんはどんな暮らしをしていらっしゃるので?」敬語が乱れたが仕方がない。
「働いたりはせんの。」
「それじゃ食べていけないのでは?」ライツが食いつき気味に訊いた。
「何、わしらは水とお日様があれば食うに困ることはないんじゃ。まあ、たまに果物や木の実を味わうことはあるがな。」ロリ婆は美味そうにバラ酒を飲みながら言った。
「気楽で良いですね。」いかん、何か皮肉っぽく聞こえることを言ってしまった。
「うむ、楽ができるのが一番じゃ。苦労は美肌に悪いしな。ふぉっほっほ...」この顔でこの口調はアンバランスなんだが。
「ところでお婆さん、俺たちは困っているんです。お知恵を拝借できないでしょうか?」
「何じゃ、言ってみい。500年生きておるから,たいていのことはわかるぞ。」
「実はヴァンパイアの始祖が攻撃してくるかも知れないのです。」
「何?ヴァンパイアの始祖だと。あやつは知っておる。まだ人間だったころの話じゃが。」
「本当でござりまするか?」驚きすぎて敬語が時代錯誤の壊れ方をした。
「おお、あやつは魔道士になりたいと抜かして東のシュロマンスへ向かっての、そこでどうやらヴァンパイアになったようじゃ。」
「シュロマンスとは?」俺は色めき立った。
「この山の彼方のもっと先に湖があっての、そこに満月の夜にだけ現れる島がある。その島には洞窟があって、その洞窟の名がシュロマンスじゃ。」
やばい。精霊さんの言ってた話とぴったりビンゴだ。
「そのシュロマンスで魔道士の修行をしたのですか?」俺は興奮して続けた。
「知らん。わしは行ったことがないからな。行くならこの村の東の出口から進むがよいぞ。わしは止めん。危なそうだがの。」
「わかりました。準備を整えてまた来ますので、そのときはどうか村を通してください。」
「あい、わかった。また酒を持参するが良い。」
これで行き先が決まった。村で用意を調えよう。この谷の行き来がしやすいように下にも滑車を付けて,上下で簡易エレベーターを上げ下げできるようにすると便利になるな。村に戻ったら鍛冶屋と相談しよう。
何と!エルフのロリ婆さんは始祖を知っていたとは!そして緑のおっさんの話とも符合する謎の洞窟シュロマンス!次回はいよいよ出発です。




