始祖との戦いに備えて、相談相手に会いに行こう
始祖との戦いは避けられません。でも、これまでのように行かないはず。どうする?
ここまでは上手くやってきた。仲間も増えた。設備も充実した。だが俺は不安だった。最終的には始祖を倒さなければ,すべて元の木阿弥だ。第2階層1体を相手にあの苦戦だ。その第2階層もあと4人残っている。そもそも始祖は倒せるのだろうか。ヴァンパイア相手に有効とされてきたさまざまな攻撃手段が果たして始祖に通じるのか誰もわからない。町の図書館から得られる知識はすべて学んだ。それを超える知恵を伝える古文書や記録があれば良いのだが。そういった情報を与えるのは古老や仙人と相場が決まっているが、残念ながら町にはそのような人はいない。いるとすれば....山や森だろう。俺は一縷の希望を抱いてあの谷の絶壁を目指した。
「おーい、エルフさん!お土産持ってきたよ!」おれはバスケットいっぱいのスパイスマンゴーを掲げた。
「フルーツだ!」「美味そうだ!」「お土産だ!」エルフさんたちが現れた。どこから現れるのかわからないが、突然現れた。たしかこの先に村があって、結界があるので人間は入れないと言っていたな。
「ねえ、エルフさん、君たちの村に何でも知ってるお爺さんとかいないかな?」
「お婆さんならいるよ。うちら女だけの村だから。」
女だけの村...?どうやって世代をつなぐ?まあ良い。今はそんなことは関係ない。何としても現状を打開するヒントだけでも教えてもらわないと。
「ぼくもそのお婆さんに会いたいな。」
「お婆さん、お酒が好きだから、持ってくれば会えるかも。でもお花のお酒しか飲まないよ。」
「わかった。今度お花のお酒を持ってくるよ。じゃあ、またね、エルフさん、またお土産持ってくるからね。」
「きゃははは、またね、お兄さん!」エルフさんたちは消えるように去って行った。
さて、お花のお酒か。まったく見当が付かない。仲間に相談してみよう。
「なあ、ライツ、お花のお酒って知ってるか?」
「うーん、知らないわね。でも醸造すれば何でもお酒になるんじゃない?」
「色が綺麗なのが良いわね。バラとか。」ジュースは良いセンスを持っている。
「なるほど、バラをつけ込んで醸造...ってそんな時間はない。」
「ここで醸造するのは無理ね。町から特定の匂いがしないシンプルな蒸留酒を買ってきて、そこに花をつけ込んで、砂糖か蜂蜜で甘みを付けるのはどうかしら?」ツァルトは賢い。
「よし、では材料はバラと蒸留酒と蜂蜜だ。試作品を30本作って,その中で一番美味しいのをエルフクイーンに献上しよう。」俺はエルフの村の婆さんを勝手にエルフクイーンと命名してしまった。
酒造りを女子3人に任せて,俺とミルトは森へ向かった。夢スパイス亭への納品も必要だし、俺にはわずかな期待があった。ただ俺は木登りができない。木に登らないと果物も採れないし、あの精霊さんに会うのも難しい。頑張ってみるか、木登り。
4回トライして落下、5回目にしてようやく成功した。やればできる子。擦り傷だらけん胃なったが、痛みは生きてる証拠だ。とりあえず初めて自分でもいだスパイスマンゴーでエネルギー補充だ。ミルトも登ってきていっしょに食べれば良いのに、下でニヤニヤしながら落としてもらうのを待っている。そうか、俺はいつもこんな風に上から見られていたのか。さて、精霊さんは出てこないかな。呼んでみるか。
「おーい、緑の精霊さん、いるなら出てきてよ!」
「なんじゃ、うるさいの。」精霊さんが面倒臭そうに上から降りてきた。この木の上はどうなっているんだ?葉っぱが茂っていて先が見えない。
「精霊さん、お久しぶり。」
「おまえか。しばらく見ないうちにずいぶんたくましくなったな。」
「人間は不老不死ではないかわりに成長するからね。」
「わざわざ苦労して木登りまでしてここまで来たということは...」
「うん、相談があるんだ。ヴァンパイアの始祖を倒す方法、何か知ってるか?」
「ずいぶん唐突だのう。何か切羽詰まっておるのか?」
「うん、俺たちこれまで上手くやってきたんだ。仲間も増やしたし、設備も整えた。ふつうのヴァンパイアが攻めてきても負ける気がしない。だけど、始祖、こいつだけは得体が知れない。今までの対ヴァンパイア戦術で戦えるかどうかもわからない。」
「なるほどな。未知なる敵は怖い、そういうことじゃな。」
「ああ、怖い。敵は始祖1人だけ残ったとしても、また組織を作り直せる。」
「しかし、わしは荒事にはとんと疎くてのう。食い物のことしかわからんわい。」
俺は諦めかけた。しかし、そこであることを思いついてしまった。
「なあ、精霊さん、ふつうは血を吸うだけでものは食わないヴァンパイアでも食いたくなるものってないか?見ると食わずにいられなくなるもの。」
「うむ、あるにはあるが、捜すのは難しいかもしれん。山の彼方のさらにその先に大きな湖があって、その湖に満月の夜にしか現れない島がある。その島にある洞窟では様々な種族の魔道士が黒魔術やネクロマンシーを学んでおるのじゃ。そいつらならその食べ物のことを知っている可能性がある。」
うわ、来たよ、RPGでよくあるやつ。行くのが大変な場所で何か試練に耐えないとアイテムが手に入らないやつ。
ゲームっぽくなってきましたね。昔のゲームでラストダンジョンにセーブポイントがないという鬼仕様のものがありました。しんどかった...




