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エルフさん、こんにちは、青い地獄の材料はどこ?

まだ敵は残っている。だけど殲滅の報酬は受け取ってしまった。


 村に町長の使者が来た。例の一括契約20万バルを持ってきたのだ。それは嬉しいが,俺は少し焦った。まだ全員を倒していない。第5階層が250人、第4階層が65人。そして第3階層が13人残っている。こいつらについては名前も住所もわからない。未知の第5階層が食えるに目覚め、第4階層の情報を教えてくれるなら対処のしようもあるが、今のところ何の動きもない。人海戦術で「導きのフルーツバイト(the leading fruits bite)」を実施していればいつかはヒットするだろうか?


 りあえず300人をいつまでも村の空き地に放置しておくわけにはいかない。あまりにも大人数なので、森と裏山と町に分散して住んでもらうことにした。20万バルを三等分すると割り切れないので、6万バルずつ渡して家の建設資金などに宛ててもらう。ウンピにはこのままこの村に留まってもらおう。


「ということでウンピよ、おまえにはこのままこの村に住んでもらうぞ。生業は何が良い?」


「海に長いこと沈んでいたので海の仕事、漁師をやろう。初めての人間飯が海鮮宴会だったしな。」


「そうか、海のことはライツとジュースに訊けばわかる。励めよ。」



 それにしても、次の戦いはもっと厳しいものになるだろう。食えるヴァンパイア新人たちには、もう頼るわけにはいかない。人間化の進行には個体差がある。人間になってしまったときに敵の反撃で無力化されたら、それはもう不可逆的な死を意味する。何とか俺たちだけで勝たなければ。まず防衛設備をリニューアルだ。とりあえず現在着手できる対策は、聖水聖餅トラップの増設と血の池地獄の増設だろう。他に何か打てる手はないか?



「なあ、ウンピ。前回はニンニク血の池地獄で敵をフナムシに変えて撃退したけど、他に何か有効な地獄がないかな?」


「地獄か...そうだな、俺が知っているのは、海地獄、 坊主地獄、かまど地獄、ワニ地獄、白池地獄、龍巻地獄だな。」


「なんだ、その魅力的なラインナップは?」


「これは前世の俺が新婚旅行で行った...くっ...」ウンピは嗚咽を上げ始めた。


「あ、無理に思い出さなくても良いからね。」俺は先回りして面倒くさい思い出話を封じた。


「うむ、血の池地獄と正反対なのは海地獄だな。血の池は赤、こちらはコバルトブルー。海のように青々として美しいが温度は高い。青くて高温か。色と内実のギャップがあるな。それに気づかず近づくと、たいていの動物は瞬時に茹で上がる。これは使えそうだ。」


「少なくとも第4階層には効果があるだろう。」ウンピは最近までの自分のことなので良くわかっている。


「青くて高温、どうやって仕込もう?」



 翌日、俺は夢スパイス亭への納品を兼ねて町へ行き、図書館で調べ物をした。海地獄の仕組みが知りたい。海地獄の青色は硫酸鉄という成分のせいだという。その性質は強い酸性でものを溶かす。なるほど、高温で溶解性か。これは使える。温泉の源流を調査すれば手に入れられるだろう。


「なあ、ミルト、俺に付き合って山頂の洞窟に行かないか?新しい地獄を作る材料を探すんだ。」


「オッケ~♩」微妙に歌うように答えやがった。


「私も行くよ。」ツァルトがアルテミス・スタイルで加わった。大丈夫、山に人魚は出ない。


 温泉洞窟に到着した俺たちは、とりあえず源泉の湯を楽しんだ。うむ、やはり山登りしたあとの温泉は格別だ。ミルトとツァルトは完璧なハーモニーで即興の温泉ソングを歌っている。


 山頂は、当然のことだが、円錐に近い形をしている。俺たちはツルハシを持って、その円錐をらせん状に下りながら土壌調査をした。掘ってみると様々な色の土が現れる。地温が上昇した。俺たちは慎重に掘削調査を続け、ついに青みがかった地層が露頭した。おそらくこの奥に高熱の硫酸鉄があるのだろう。問題はどうやってそれを村まで安全に運ぶかだ。人海戦術に頼るとしても、まずは容器の確保だ。山の地図を改定し、目印をつけて下山した。こちらのルートからの下山は初めてだ。見たことのない風景、見たことのない植物。何か珍しいものに遭遇しないかな。こないだは人魚に遭遇したし。海に人魚なら、山には...山姥?うわ、それは遠慮したい。


「きゃっ!」小さな驚きの悲鳴。なんと俺たちはエルフに遭遇してしまった。何だ、ここは異世界なのか?



挿絵(By みてみん)



「大丈夫だよ~♩怖くないよ~、ぼくたちは~♩」ミルトが優しく歌いかける。いや、歌っていないで語りかけろよ。


「私たちは」「私たちは」「山のエルフです。」最後は完璧なユニゾンだ。双子なのか?


「あ、どうも!」俺は挙動不審気味の笑顔で挨拶した。「このあたりにお住まいで?」


「私たちの村は」「村は」「この先の森にあります。」「でも人間は」「人間は」「結界があるのでは入れません。」


「あ、はい、了解しました。ところでここから楽に下山する方法はありませんか?」


「私たちは」「私たちは」「山を下りたことがないのでわかりません。」「だけど」「だけど」「あっちの谷から」「谷から」「飛び降りれば」「飛び降りれば」「きゃはは!」エルフたちは走って行ってしまった。


 なんだ、あいつら?まあ見るだけ見てみるか、その谷を。飛び降りないけどな。山の斜面に沿ってしばらく歩くと、切り立った谷があった。そしてその谷には太いツタが絡まっていた。俺は考えた。このツタをつたって降りられるんじゃないか?ツタだけに?グフッグフッ...俺は気持ちの悪い含み笑いをした。


「ねえ、フレッセン、このツタすごく頑丈そうだから、谷の上に大きな滑車を設置して、硫酸鉄の入った容器をツタのロープに結わえて下ろせるんじゃないかな?」さすがアルテミス、頭良いな。あれ?アルテミスって頭が良い女神だっけ?ちょっと違うような。あ、違ったわ。頭が良いのはアテナだった。まあ良いだろ,同じアで始まるし。


「ツァルトよ、君は天才だ。これからはアルテミス・アテナと名乗るが良い。」


「絶対やだ。」


 降りる前に俺たちは考えた。手順が大切だ。単純にツタをつたって降りるより、ある程度の長さのツタロープを身体に結わえてバンジーし、中間停止の場所でまたツタロープを結わえ治して次のバンジー、これを繰り返せば早い。上に滑車を設置すればツタエレベーターで簡単に上ることもできるぞ。エルフさん、ありがとう。


前回は人魚、今回はエルフ。ちょっとだけ登場って「カメオ出演」と言うんだっけ。ところで皆さん、登場人物の名前、実はフリーレンみたいに全部ドイツ語なんですよ。Fressen「食らう」、Reiz「魅力、刺激」、Süß「甘い、かわいい」、Mild「穏やか、柔らか」、Zart「繊細、優しい」。

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