初めての人間飯はおにぎりとカレーだった。血よりずっと美味い!
おにぎりにありついて、フレッセンは新しい喜びに目覚めましたが...
おにぎりを手に入れた俺は、店を出て公園でかぶりついた。今まで首にかぶりつく以外の摂食行動を取ったことがないので食い方が良くわからないが、飯粒を大量にこぼしながら食った。微妙な塩気が生き血を思い出させた。美味い、と実感するまもなく食い終わってしまった。これまで味わったことのない幸福感が湧き上がってきた。「もっと食いたい!」しかし小銭というものがなければ紺鼻荷でおにぎりは入手できない。
「小銭が...いやカネが欲しい!」俺は思わず大声で呟いてしまった。だが緑色のおっさんっは現れないし、周りの人間たちは遠巻きにしてざわめいていた。「飯が食いたい、だがカネがない!」俺は周囲の奇異な視線にかまわず呟き続けていた。
「ちょっと、フレッセン、大声で何を呟いているの!?」
目の前にライツが立っていた。
「なあ、ライツ、カネ持ってないか?」
「はあ?第5階層が持っているわけないでしょ。」
「どうやったらカネを手に入れることができる?」
「働いて稼ぐか奪うかでしょうね。」
「奪うのは犯罪か?」
「そりゃそうね。」
「餌の確保以外の犯罪は厳禁で海に沈められる。」
「だから働いて稼ぐ以外の選択肢はないわね。」
「どうやって働く?」
「私の上司の第4階層は、夜に強いから夜間の工事の交通整理をしてるわ。上納金を貯めるのが大変なんだって。」
「俺もそれやる。」
「現場が被ったら面倒なことになるわよ。」
「じゃあどうすれば良い?」
「そもそもなんでカネが欲しいの?いらないでしょ、私たち。」
「....うるせえ!」
「は?なにそれ!?人が親切に相談に乗ってあげているのに。」
「カネの作り方を教えろ!」
「人間が欲しいものを売るのが一番なんじゃない?」
俺はライツと別れて町の盛り場へ来た。次から次に人に訊いて回る。「あんた何が欲しい?」「カネが欲しい。」「何が欲しい?」「カネが欲しい。」これの繰り返しだ。カネを作るために欲しいものを訊いているのに「カネが欲しい」だと?どうなっているんだ?カネを売ってカネを作るのか?謎すぎてついて行けねえ。くだらないことに時間を費やしている間に、第4階層に餌の人間を納める時間になった。どこかに弱そうなのはいないか?
「おい、おまえ!」
「な、何ですか?」買い物帰りの主婦らしい女は怯えていた。
「悪いが一緒に来てもらおう。」
「これからご飯の準備をしなければいけないので無理です。」
「何?ご飯だと?」
「きょうはカレーライスです。」
「それはどんな飯だ?」
「お肉や野菜を煮込んだカレーをご飯にかけた....」
「俺にも食わせろ!」
「主人が来客好きなのでかまいませんが...」
カレーライス、何だこの悪魔のような食い物は!スプーンで掬って口に運ぶたびに幸せが俺の芯を溶かす。俺が俺でなくなって階層のしがらみも忘れてしまう。女の夫も愛想良く勧めてくれたので3皿も食べてしまった。腹が重くて動けない。第4階層の餌?知ったことか!カレーライスを堪能し尽くした俺は、重すぎる腹を抱えたままソファに横になった。まるで天国だ。いや、ヴァンパイアは不死なので天国にも地獄にも行けないが、この幸福感はまさにそれだった。
その夜、俺は第4階層に献上するための餌の確保をすっぽかし、公園のベンチで夜空を見上げていた。餌か...腹が膨れていると餌の必要性が感じられない。もういいや、勝手に飢えてろ。
美味しいもののにありつくたびに目覚める新しい欲、これは悪魔の仕組みなのでしょうか?