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甘い果実と臭い血液、選ぶのは君だ、さあ、どっち!?

連れ出した第4階層部隊、どうなるの?

 俺たちはイオとヒンに乗り、第4階層の5人を連れて森を進んだ。騎乗の俺たちと徒歩の奴ら、かつての上下関係がひっくり返っているのが愉快だ。たまにイオとヒンは植物素材の排泄物を奴らの前にプリプリと落としてくれる。最高だ。スパイスマンゴーの木の下に来た。ライツはヒンの背中から樹上に登り、果実をもいで俺に投げた。俺たちはジューシーな黄色い果物を囓りながら血色の悪い第4階層に「食べますか?」と言った。ふっふっふ、意地悪の快感がたまらん。


 森の出口が近づいて来た。そろそろ仕掛け時だ。俺はライツに目配せして手綱を緩めた。ロバの速度が上がった。「おい、待て」と言いながら第4階層が駆けてくる。俺とライツは銃を抜いた。ロバが馬ならまるで西部劇の悪役だ。出口が近づいたところで発砲し――と言っても端から見れば水鉄砲だが――第4階層にダメージを与える。怒って駆け足で迫り来る奴らを上手く誘導しながら森を抜け、前方に100人村が広がる場所に出た。俺たちはロバの腹を蹴り駆け足で右側へ離脱した。それを追う第4階層に森の出口の左側から大型の聖水砲が火を、いや水を吹いた。第4階層のひとりはまともに食らってその場に倒れ込んだが、残りの4人は避けて俺たちを追う。そして罠の場所に着いた。俺の合図で落とし穴が開き、4人の第4階層が落ちた。穴の蓋が閉まり、グググ、ドバアという音とともに内部で大量の聖水と聖餅が奴らに浴びせられた。蓋を開けて確かめる役は罠を担当する技師たちに任せよう。


 穴に落ちる前に聖水砲を食らって倒れた第4階層を拘束して,俺たちは上司の第3階層の名前と住所を聞き出した。情報を漏らしたからと言って許すわけはない。彼女――女の第4階層だった――は、仲間と同じ穴に落ちるか、岩のおもりを付けて海に沈むか選ばされ、後者を選んだ。ジュースが筏で投下地点まで運んでくれた。


 これで第4階層の数は138人になったが、まだ道は遠い。そもそも森の出口の罠は大量の敵を屠るための施設だ。4~5人を飲み込むのでは効率が悪い。俺は一計を案じた。100人村の住人と集まった300人に質問状を送り、自分が属していた第4階層の名前と住所を聞き出し、それぞれに果たし状を書いてもらった。「○月○日、これまでの恨みを拳で精算するので尋常に勝負しろ。場所は森を抜けた丘陵だ。」果たし状の宛先は全部で118人。かなりの数だが、まとめて聖なる臭い穴に落として始末してやる。


 

 ピラミッド組織は緊急会議を開催した。


始祖:「第4階層が1隊5名、全滅したそうだ。どうなっている?」


第3階層B:「は、どうやらうちの部下のようです。上納が止まりました。」


始祖:「どう対処する?」


第3階層B:[敵の居場所を突き止めて粛正いたします。]


第3階層C:「うちの第4階層に果たし状が届きました。同じ敵かと思われます。」


第3階層D:「うちにも来ましたよ。決闘の場所は森を抜けた丘陵です。」


第3階層E:「なら同じ敵でしょう。うちにも来ましたから。」


始祖:「愚かな敵だな。個別撃破ではなく全面対決を選んだか。潰せるな?」


第3階層全員:「はっ,必ずや一網打尽に!」



 俺は思い出していた。初めての第3階層との戦いを。あのとき俺はライツと一緒に入念に炎熱の罠を構築したあとで、突然「第2の矢」が閃いた。今回はそのかつての第2の矢だった聖水と聖餅が第1の矢になる。これをすり抜けた敵にどう対処すべきか。白兵戦になればかなりの死傷者が出る。お○っことう○こ、もとい聖水と聖餅以外に、人間として何が出せるか?俺は悩んだ。考えた。ダメだ、それ以外は奴らの好物にして食物である血液ぐらいしか出せない。詰んだか?いや、待てよ。これは確かめてみる価値がある。俺は浜辺に待機している集団に相談に出かけ、それからライツとジュースとともに筏で沖合に出た。


「このあたりかな。」海上には目印がないので俺はとまどった。


「目印がないからよくわからないけど海の中で探せばきっと見つかるよ。」


海女は頼もしい。数分後に2人はロープで拘束された第4階層と第3階層を引っ張って浮上した。2人は海水でふやけてボロ布のようになっていた。



「まだ女の第4階層が残っているよ。次に来るときのためにブイを浮かべといたら?」ジュースは抜かりない。


「どうせなら発泡スチロールで面白ブイを作ろう。」ライツはいつもライツだ。


 ボロ布のヴァンパイアを筏に乗せて俺たちは浜に戻った。浜では実験の準備をして集団が待っていた。


「それでは始めよう。」


俺は干からびたあとで海水を吸ってふやけた2人に集団献血で得た血をコップ半分ほど口から流し込んだ。2人とも閉じていた目を開きうめいた。だが拘束されているので動けない。


「さて君たち、まだ空腹かな?」俺は余裕の笑みで尋ねた。2人はすごい勢いで頭を縦に振った。


「では、こっちは美味しい黄色い果実、こっちはちょっと臭い血液だ。The Choice is yours.さあ、どっちにする?ただし選んだあとで俺が良いと言うまで口にしちゃダメだ。」


 2人はほぼ同時に決断した。第4階層は果物を、第3階層は血液を。


「なるほどね。悩まず選んだね。それじゃ、行っちゃって良いぜ。」


 第4階層はスパイスマンゴーにかぶりつき,少しむせた。だが初めての咀嚼を体験して目に喜びの色が浮かんだ。美味さがわかったようだ。第4階層はすごい勢いで囓り続け、スパイスマンゴーはすべて奴の腹の中に収まった。一方、第3階層はちょっと臭い血液を嬉々として飲み干した。目に歓喜の色が浮かび身体に活力が蘇ったように思えたが、すぐにそれは苦悶の表情に変わり、やがて身体が崩れ始め、無数のフナムシとなって地上で蠢いた。フナムシはゾロゾロと海へ向かって行進し、それを狙って多数の魚が波打ち際まで押し寄せた。第4階層は呆然とそれを眺め、そして少し安堵したように微笑んだ。成功した。俺は果物を食べた第4階層に声を掛けた。


「なぜこっちを選んだ?」


「こっちを選べば違う自分になれる気がした。」


「ヴァンパイアを辞めたいのか?」


「もともと好きでなったわけじゃないしな。あの闇金おっさんに噛まれたんだよ。借金が返せなくなって。」(本物の闇金だったんかい!)


「これからどうする?」


「人間に戻れるよう精進します。」


「よし、では生まれ変わったおまえの名前はウンピだ。」俺は親切にも名前を付けてやった。良かったな、ウンピよ。


「ええっ?それなんかやだ。ルネとかジャンにしてよ。」


「ダメだ。一度決めたらもう変更不可能だ。我慢しろ、ウンピ。」




ウンピと名付けられた男。アルファベットにするとき悩むよね。NかMで。

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