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【決起】反逆の狼煙、革命の始まり

人海戦術、良いですね、自分がその人の海に沈まなければ。

 124人いる第4階層は飢えているはずだ。餌を運んでくる第5階層が大量に離脱したのだ。第3階層への上納分も含めて血はすべて自前で用意しなければならない。おそらく血眼になって人間を狩りまくるだろう。そうなっては、せっかく愛の歌で人口を増やそうと思っていても、減ってしまう。これは対策が必要だ。俺は工作が得意な100人村の住人とともに携帯式の対ヴァンパイア武器を開発した。聖水ピストルと聖餅手榴弾だ。持ち運びには細心の注意が必要だが、効果は抜群だろう。ただ、果たして町の人間が素直に買ってくれるかどうか...?


 俺たちは100人村の代表とも話し合って、町の夜回りパトロールを実施することにした。パトロール隊は聖水ピストルと聖餅手榴弾で武装した3人組とする。第4階層が人間を襲うとき,通常はソロで狩るだろう。3人で連携を取れば勝てない相手ではない。ふっふっふ、じっくり熟成した聖水と聖餅を浴びて滅びるが良い。


 やはり100人も味方が増えるとできることが増える。俺たちはある野望を実現するために会議を開いた。その野望とは「温泉村計画」である。あの洞窟の温泉を村まで引いてきて大浴場を作る。そうすれば風呂上がりの一杯が楽しめる。そうだ、大浴場の隣に居酒屋を作ろう。最高だ、最高すぎる!俺は会議で熱弁した。100人村の代表者たちは、最初あまり乗り気にはなってくれなかった。それはそうだろう。彼らは温泉を知らない。そこで俺は、影響力のありそうな代表3人を伴って、山頂近くの洞窟を再訪した。温泉は地下から浸みだしているらしく、溢れた湯は洞窟の中を流れて川に注いでいた。俺はさっそく服を脱いで久しぶりの温泉に浸かった。代表者たちも俺に続いて湯に浸かり、初めての温泉の心地良さを実感した。誰もが「あ~」という声を漏らした。俺は彼らが必ず計画を支援してくれると確信した。


 夜回りパトロールにジュース、ミルト、ツァルトが出た晩、市場に通じる横町で襲撃事件が起こった。悲鳴を聞きつけ現場に急行した3人の前で、今まさにヴァンパイアが若い女の首に牙を突き立てようとしている。ツァルトは躊躇なく聖水ピストルを撃った。飛び出した黄色みを帯びた聖水がアンモニアの匂いとともにヴァンパイアの腕にかかる。ジュッと音がしてヴァンパイアの腕が焼け、痛みに顔をしかめながらヴァンパイアは女を離した。ピストルで威嚇しながらミルトが女を助け出して自分の背後に匿った。餌を奪われた第4階層は怒りに牙を剥きだし,目を赤々と輝かせた。人間になったジュースたちにとって、その姿は恐怖で威圧するのに十分だった。しかしジュースが前に出た。「くらえっ!」聖餅手榴弾が投げられた。激しい臭気とともに怪物の姿は煙を上げて吹き飛んだ。禍々しい瘴気とお馴染みの臭気が入り交じる横町に人が集まってきた。みんな鼻をつまんでいる。「安心してください。ヴァンパイアは滅しました。」ツァルトが静かに宣言した。人々は鼻をつまんでいた手を離して息を止めて拍手した。



 翌日、市場で俺たちは大々的に対ヴァンパイア用武器を販売した。もちろん詳しい取扱説明書付きだ。装填する聖水と聖餅の作り方は、特に念入りに説明した。日常の食生活が聖餅の性能にどのように影響するか、恥も外聞もなく詳細に記述した。何よりも命が優先する。恥じるな、恐れるな!なお、取り扱い注意武器なので,決して子どもたちの手が届くところに保管しないようにと念を押した。子ども、特に男の子は、こういうものが大好きなので注意が必要だ。



 数日後、困った事態が生じた。町で踏み絵ならぬ踏み聖水が実施されたのだ。聖水ポストると聖餅手榴弾で武装した町の自警団の前で、1人1人が聖水の入ったバケツに足を入れる。これはひどい。人権蹂躙だ。俺はこんなことはやめるように自警団に言ったが、何よりも命が優先するということで聞き入れてもらえなかった。



 山頂から村まではかなりの距離があるが、人海戦術で瞬く間に村までの温泉パイプラインが完成した。30~40人が入れる湯船が2つ、男湯と女湯が作られた。誰もが俺たちのように混浴を平気で楽しめるわけではない。そして、これからここを町の人間たちも訪れるだろう。施設はしっかりと整備しなければならない。この温泉施設が村の経済の要になるだろう。


 そんな慌ただしい日々を過ごしていたが、ある日、俺のもとに食えるようになったヴァンパイアがやってきた。そうか、そうだろうな、俺たち第5階層は625人もいるんだ。まだまだ増えるはずだ。


「やあ、みなさん、クーエル村へようこそ。」


「素晴らしい村ですね。私たちは数日前に食えるようになったばかりの新参者です。ただ、食えるようになったものの、十分に食えるようになっていないのが現状です。私たちは貧しい。なので腹一杯食えないのです。」


確かに男は血色が悪い。血を吸わず飯も食えないとなると、衰えるばかりだろう。まだヴァンパイアのうちは衰えて動けなくなるだけだが、人間になると命を失う。これは何とかしてやらないと。


「皆さんはどんな暮らしをしているのですか?」


「町に住んでバイトで凌いでいます。使い走り、子守、紺鼻荷の店員、ユニーク呂の棚卸し、居酒屋の店員...などです。」


 なるほど、これまでと全く違う暮らしを余儀なくされれば,慣れない仕事で苦労するわけだ。何か手はないか?そうだ!


「皆さんはかつての上司だった第4階層を知っていますよね?」


「はい、あのドケチ腐れ外道の顔は忘れようにも忘れられません。」


「心から同情します。俺も同じ思いではらわたが煮えくり返っていました。」


「殺せるものなら殺してやりたい...」男は唇を噛んだ。


「できますよ。」


「え?」


「殺せますよ。でも、その前に一緒に町へ行きましょう。町長に提案があります。」


 俺は男を伴って町へ行き、町長に面会を求めた。受付には、ヴァンパイア問題の解決策が見つかった、と告げたので、町長はすぐに現れた。


「町長、こちらは...」俺は連れてきた男を前に出した。「ヴァンパイアハンターの代表者です。どうです、彼の仲間たちにヴァンパイア退治を依頼するつもりはありませんか?対象となるヴァンパイアの数は把握しています。123人です。それを一掃できる絶好のチャンスです。彼らは町から町へ遍歴しながら、ヴァンパイアを討伐して暮らしているのです。今を逃せば...」


「ぜひ頼もう。」町長は俺が言い終わる前に食いついてきた。


「報酬は一括契約で20万バルです。」


「良いだろう。それでやっかいなヴァンパイア問題を解決できるなら安いものだ。さっそく秘書課を通じて財務課で契約書を発行してもらおう。」


 俺はポカンとした顔の男を伴って役場を出た。


「さて、君の仲間は何人いるのかな?」


「300人ちょっとです。」


「そうか、ではその人たちを連れて明日クーエル村へ来てくれ。」




300人もの元ヴァンパイア、いやまだ人間化していないので現役か、食えるヴァンパイアが揃って何を始めるのでしょう?まあ予想は付くと思いますが。20万バルって、おにぎり20万個...

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