全裸の海女姉妹は稼ぎ頭、そして導きのフルーツバイトの成果は?
仲間との生活も安定し、人間らしさも定着してきました。
あれから2ヶ月が過ぎ、3人の新人もすっかり人間になってしまった。この調子で残りの620人の第5階層も人間になったら、ピラミッドの最下層がなくなり、4が最下層になってしまう。4は5の5分の1の125人しかいないから、ピラミッドの血の経済はボロボロになってしまう。これを始祖が見逃すはずはない。全力で潰しにかかるだろう。反逆者を全滅させ、新しい眷属を補充し、元の体制を復活させようとするはずだ。俺たちは粛正される。まあ良いか。せっかく人間になったんだ。人間でしか味わえない喜びをたんと味わうことにしよう。
この2ヶ月で変わったことがいくつかある。ライツとジュースは海女の活動のとき、全裸ではなく水着を着用するようになった。つまり人間らしくなった。しかし、俺は相変わらずライツの風呂に付き合わされる。この場合はもちろん全裸だ、目のやり場に困るのだが、シャンプーやら耳掃除やら気を遣う作業を頼まれるので目を閉じているわけにはいかない。たまにジュースも入っていることもある。その場合は2人のお世話をしなければならない。経験を重ねるごとに「お風呂のサービス」が上手になってきた自覚がある。海女2人は「魚類時点」で得た知識のおかげで,高級食材を狙うようになった。エビ、タコ、イカ、鯛、平目、そして魚卵狙いのチョウザメ、ボラ、鱈。収益はうなぎ登りで、1回の漁でおにぎり500個分の収益になる。いい加減、おにぎりに換算するのはやめるべきだな。紺鼻荷のおにぎり1個は1バルだ。2人で1日に500バル稼ぐとなると、人間の社会ではかなりの高収入になる。
ツァルトは虫取りが趣味なので、そこから収入を得ている。市場でカブトムシやクワガタのプロレス興行を見せ、客に虫を売る。たいした収入にはならないが、子どもが喜ぶので親も喜ぶ。主収入はその親目当ての蜂蜜販売だ。昆虫の知識は蜂蜜採取にも役立つ。ツァルトは取り尽くして資源が枯渇しないように、蜂の養殖も始めた。
ミルトは乙女や乙女目当ての若者相手に、花言葉のポエムを添えた花束を売っている。市場でギターの弾き語りをしながら、集まってくれた聴衆に歌ったばかりの歌詞が添えられた花束を売るのだ。これがなかなかの人気で、花の吟遊詩人としてちょっとした有名人になった。
そんな活動をしていれば、もちろん認知度が上がり、こいつらはどこから来たんだろうと噂にもなる。いずれピラミッド組織の目にも留まるかも知れない。そう思っていたら、ある日、顔色の悪い男が市場で木の実を売っている俺のもとにやってきた。
「なあ、あんた、ひょっとしてヴァンパイアじゃないのか?」
「何言ってるんです,お客さん、そんなわけないじゃないですか!」俺は笑ってわざと奥歯まで見せた。それを見て男はガッカリしたように、「なんだ、違ったのか...」と肩を落とした。俺は少し気になったので探りを入れた。
「ヴァンパイアを捜してるんですか?お手伝いしましょうか?こうやって市場で商売をしていると色んな人と出会いますからね。」
「仕事を辞めたらやたらと元気になったヴァンパイアがいるらしいので、俺も仲間になりたいと思ったんだ。」
やった!おれは心の中でガッツポーズを取った。ひょっとしてこれは芋づるのチャンスか?仲間が仲間を呼んでというやつか?俺はかまをかけた。
「ああ、お客さんから聞いたことがありますよ。何でも血を吸う代わりに飯を食うようになったヴァンパイアがいるって。」
「何だと!飯が食えるだと?」
「ええ、あんまり腹が減っていたので森の中で思い切って木の実を食べたら、美味すぎて止まらなくなったのがきっかけだったとか。」これを聞いて男の表情が変わった。
「どんな木の実だ?」
「そこまではわかりませんが、木の実というか果物だったらしいです。」
種は撒いた、木の実だけに...。はたしてあの男はスパイスマンゴにたどり着くだろうか?そして食べることができるだろうか?精霊のおっさんが出てきてくれるかはわからんが、俺は「思い切って木の実を食べた」と言った、「思い切って」と...。
とりあえずその日から俺を除いた4人でたまにワオの散歩を兼ねて森を巡回し、わざとらしくスパイスマンゴを取って食べることにした。これを俺は「導きのフルーツバイト」と名付けた。名付ける意味は1ミリもないのだが、人間になってからそういう意味のない行動を取ることが多くなってきた。これが人間らしさなのか?
新人3人が揃ってやってきた。こういうときはたいてい何かのお願いだ。良いだろう。欲望は成長の証だ。
「どうしたのかな?何かお願いかな?」言っててなんとなくパパっぽいなと思った。
「うちにはイオとヒンとワオしかいないけど...」「もっとたくさん...」「動物さんが欲しい...」「小さいのも...」「大きいのも...」
そう来たか。たしかにもっといれば賑やかになるし、癒やされる。ひょっとして人間が増えるかも知れないし、癒やしは大事だ。良し、増やそう。
「どんな動物が欲しいんだい?」
「猫!」とミルト、「牛!」とジュース、「モフモフ!」とツァルトは種族名でないものを言った。ジュースは果たして愛玩したいのか実用目的かわからない。
「わかったわかった、一度に全部は無理だから、とりあえず入手しやすい猫からにしよう。」
数日後、「導きのフルーツバイト」が成功した。あの男がスパイスマンゴーの場所にやってきたところにツァルトが遭遇。「思い切って」を教えてあげたら、男は見事に食える男に変身した。仲間にも教えてやるとのこと。この調子で食えるヴァンパイアを増やそう。狙いは第5階層の集団離脱だ。
仲間が増えたらどうなるのでしょう。でも仲間が増えれば、それだけピラミッド組織の捜索も苛烈になるでしょう。さあ、どうするクーエル村の仲間たち?




