食えるヴァンパイア仲間が3人増えた!
謎の白い光線が入るお風呂シーン。
「それ、そっち、もっと引張れ!」
「く、臭―い!息ができない、力が入らない!」ライツは息を止めているのでホントに力が入らない。
「仕方がない、イオちゃんとヒンちゃんに手伝ってもらおう。」
ロバの力を借りてやっと第3階層の身体を聖なる穴から引っ張り上げることができた。このままロープで拘束して筏に乗せる。月明かりの下、聖なる香りに包まれて朽ちたヴァンパイアを投下地点まで運ぶ、うむ、実に風流だ。「あばよ、おっさん、もう目も見えねえか。この月がおまえが最後に地上で目にする月だったのに残念だな.」俺はそう言うと、臭い巨体を静かに海に投入した。
「ねえねえ、ちゃんと力を入れて洗ってよ!我慢して付き合ったんだから。」ライツは気持ち良さそうに湯船で俺に身を預けて洗ってもらっている。
「ねえ、なんでそっぽを向いて洗ってるの?ふざけてんの?真面目に洗ってよ!」
「いや、月があんまり綺麗なものだから...」俺は女の子座りになって太ももを閉じた。
まさか第3階層まで朽ちて消えてしまうなど、ヴァンパイアのピラミッド組織は想定していなかったろう。このままなし崩し的に第2階層を送ってくるとはとても思えない。これまでは厳格な鉄のルールで、上下だけの関係で動いてきた。5人の第5階層が第4階層に仕え、5人の第4階層が第3階層に仕え、というように。何か問題があれば、3が4を、4が5をシメるということで片付けてきた。しかし3が5に倒されたとあっては、もはやこれまでのやり方で解決できると思わないだろう。始祖判断で、横の協力も取り込みながら、組織全体で問題解決に全力を尽くすというように方向転換を図るに違いない。
「なあ、ライツ、あの海に沈んだ第4階層の下僕は俺たちの他に3人いたよな?」
「ええ、名前だけは知っているわ。まずジュース。女の子で髪の毛はオレンジ。あ。この3人の年格好は私たちと同じよ。第4階層の好みで選ばれたから。次がミルト、男の子で髪の色はグリーン。最後が女の子でツァルト、髪の色はシルバー。」
「なるほど、で、上司が消えてどうしているんだ?」
「わからない。困っているかも。だっておこぼれもらえなくなったし。」
「そうか、いっぺん話を聞いてみようか。町中だと目立つから、いっぺん森で集まろう。」
俺たちはスパイスマンゴーが採れる木下に集まった。俺とライツ以外の3人は顔色も悪く痩せ衰えていた。思った通りだ。おこぼれがもらえなければ、このままエネルギー切れで朽ちてしまうだろう。3人は恨めしそうな目で俺たちを見た。
「あんたら、どこで血を吸ってるの?」ジュースが探るような目で訊いた。
「吸ってないよ。必要ないから。」ライツは笑顔で答えた。
「嘘つけ!ならなんでそんなに血色良いんだよ!」ミルトが指を指して叫んだ。
「こっちはエネルギー切れでダウン寸前...」シルバーが消え去りそうな声で言った。
「ちゃんと飯食ってるからな。」俺は連中から目をそらさず答えた。
「だからどこで血を吸ってるのと訊いたのよ。」ジュースが食い下がる。
「あのな、血を吸うことイコール飯じゃないんだよ。」
3人はポカンとして俺たちを見る。俺はライツに目配せした。ライツはスルスルと木に登り、スパイスマンゴーをもいで投げてくれた。俺はそれをキャッチしてかぶりついた。あいかわらずジューシーで美味い。樹上ではライツも美味しそうに果実を食べている。3人はよだれを流しそうになりながら俺たちを見ている。
「食いたいか?」俺は連中の目を見て言った。みんな頷いた。「食いたいなら食えば良いじゃないか。ライツに言えばもらえるぞ。」ライツは果実を3個抱えて木から下りてきた。
「はい、どうぞ!」ライツは3人にスパイスマンゴを渡した。3人はそれぞれ果実の匂いを嗅いで舐めてみる。
「食いたいか?」俺はもう一度尋ねた。
「ならば...目を閉じろ!」俺は命じて3秒後に手を叩いた。「さあ食え。もう食えるはずだ。」3人は果実にかぶりついた。爽やかなスパイスマンゴの香りが周囲に広がる。
「ほっほっほ、よくわかったな!」樹上から緑の衣装の小さなおっさんが降りてきた。
「食おうと思えば食えるものなのじゃ。わしは何の魔法も使わなかった。背中を押してやっただけじゃ。良いか、おぬしらは食えないという暗示がかかっていて、食おうという意思が封じられていた。自分たちは最下層で、おこぼれを恵んでもらってカツカツの暮らしをするしかない、そう信じ込まされていただけなのじゃ。自分で食えるようになる、これがどういうことかわかるか?一人前になって自立できるということじゃ。良く言うではないか、あの家の息子は大工として一人前になって食っていけるようになったなどと。食えるはずがない、おこぼれをもらうしかない、そう信じ込んでいては、いつまでたっても食えるようにはならん。わしは...」おっさんは俺を指さして言った。「こいつを見ていて歯がゆくてな、何でも食えるようにしてやったと嘘をついて背中を押してやったんじゃ。そしたらこれが予想外に上手くいってな、何でも自分で切り開けるようになった。」
3人はこの不思議なおっさんを見て首をかしげていたが、すぐに意味を理解し、残った果実をむさぼるように食べた。そしてねだるようにライツを見つめる。
「あんたら誰も木に登れないの?」ライツは挑むように3人を見た。
「私、登れる。」ジュースがスルスルと登った。残った2人もジュースに続いた。どうやら木に登れないのは俺だけのようだ。
みんなこれで食べていけるようになりました。




