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【異世界ヴァンパイア最底辺】飯が食えるスキルを得た俺は何をする?

ヴァンパイアの社会も人間同様、いや人間以上にあからさまに階層による搾取構造が固定化されているようです。

 ヴァンパイアの世界はピラミッド構造だ。始祖が一番偉くて、その始祖に噛まれたのが第2階層で、第2階層に噛まれたのが第3階層、という具合に。ちなみに俺は第5階層。そして第5階層の下はない。つまり俺は最下層のヴァンパイアなのだ。

 ヴァンパイアは優雅な暮らしをしていると世間では思われているらしい。お城に住んだり、貴族風の衣装で決めてみたり。だけどそんなのはせいぜいだ第2階層までの話。第3階層と第4階層は,人間社会に溶け込んでバレないように気を遣いながら慎ましく生きている。生きている?いやアンデッドだから生きてはいないのだが、暮らしている。

 俺たち第5階層は、ヴァンパイアと名乗るのもおこがましいゴミのような存在だ。なにしろヴァンパイアをヴァンパイアならしめている「吸血」という行為が禁じられている。ではどうやって血を摂取しているのかって?第4階層からおこぼれを恵んでもらって暮らしているのだ。

 ヴァンパイア世界の経済を解説しよう。人間の世界とほぼ同じだ。搾取する側とされる側。悲しいねえ。マルクスも泣いているよ。

 俺たち第5階層は、第4階層が吸血するための餌を捕まえて連れて行く。第4階層は,その餌を好きなだけガブリチュウチュウできるわけではない。眷属にならないよう細心の注意を払って噛みつき、噴き出す新鮮な血液を献納分として3リットル冷蔵保存容器に入れる。それからおもむろに再び噛みついて吸血するわけだが、もうあまり残っていない。成人の血液量は体重の8%と言われている。体重60kgの人間なら5リットルだ。しかし5リットルすべてを吸い出すことはほぼ不可能だろう。第4階層が吸い出せるのは、餌の人間の体重にもよるが、せいぜい1~2リットルだ。それを俺たちはつばを飲み込みながら見ていなければならない。第4階層が、まあそいつの性格次第だが、残りは俺たちに恵んでやろうと思ったらようやく俺たちはチュウチュウできるわけだが、これはもう人間社会の上司の当たり外れみたいなもので、吸ってもほとんど出ない状態で渡されることもあるわけだ。殺意が湧くね。

 なら体重の重い餌を連れて行けと思うだろうが、俺たちは弱い。常に栄養失調だからな。大男なんてとても襲えない。なのでたいていは女子どもになる。女子どもを連れて行くと第4階層は不機嫌になり、殴ったり蹴ったりする。これも人間社会と同じじゃないか?成績が悪い営業はとことんいじめられる。

 冷蔵保存された3リットルの血液は第3階層に上納される。第3階層はここから1リットルだけ受け取れる決まりになっている。当然足りない。足りない分は自分で餌を見つけて補給することになる。これは第4階層も同じこと。先にピラミッド型の構造と言ったが、第4階層より第3階層のほうがたくさんの上納を受けることができる。上手く回れば、第3階級は自力で餌を探さなくても何とか暮らしていけるかも知れない。そして第2階層、こいつらは上納される血液だけで暮らしていける。株の配当や家賃収入だけで暮らしていける人間と同じだ。腹立たしい。最高位の始祖は、ありあまる餌と財宝に囲まれて贅沢三昧よ。あ、財宝と言ったが、血液以外に金銀財宝の上納義務もある。俺たち第5階層にはないが、第4階層から第2階層までは,血液以外に金銀財宝を収めなければならない。これがなかなか大変だそうだが、血液不足でいつも空腹な俺たちは知ったことじゃない。



 ある日、俺は空腹で倒れそうになりながら森の中を歩いていた。「腹が減った...」俺は知らず知らず「腹が減った」を言い続けていた。すると緑色の服を着た小さなおっさんが目の前に現れた。


「おぬし、腹が減っておるのか?見たところ栄養が足りておらんようじゃ。どうじゃ、飯が食いたいか?」


 俺は無我夢中で「食いたい!」と答えてしまった。「なら好き嫌いを治してやろう。栄養が偏ると身体に悪いからな。」おっさんはなにやらぶつぶつ唱えると、ぱっと目を見開いて、「さあ、これで好き嫌いは治ったぞ。肉でも魚でも野菜でも、どんどん食って栄養を付けるが良い。」と言った。


「おっさん、ひょっとして願いをかなえる系の魔法使いか?」


「まあ精霊みたいなものじゃな。」


「だったらやり直してくれよ。好き嫌い治すとかいらんから、もっと何かチート級の...」


「ダメだね。やり直しははできない。そもそもおぬしが腹減ったと言ってたから願いをかなえてやった。いちおう訊いたぞ、食いたいか、と。」


やっちまった。取り返しのつかないチャンスを逃すやつ。くそっ、だったら食ってやる。


「だったらなんか食えるものくれよ。」


「ほれ、飴玉と小銭だ。飴舐めながら町へ行っておにぎりでも買え。じゃあな!」


 おっさんは器用に木に登ってどこかへ消えてしまった。飴を口に入れた。甘い!いや、甘いという感覚は初めてだ。そもそもいままで味なんて感じたことはなかった。血液?甘くはなかったな。どんな味だったんだ?甘いと身体に活力がみなぎる気がする。次は町へ行っておにぎりか。楽しみになってきた。ヴァンパイアにとって「食う」ってのは、血を吸うことだ。でも俺は第5階層なのでまともに血を吸う機会もなかった。残りかすでスカスカの、干し肉みたいな肉をしゃぶるだけ。たまに血のついた服をしゃぶったこともある。くそ、第4階層のドケチどもめ。「食える」ということは味わえるということなんだ。悪くない、悪くないぞ、このスキル。


「あら、フレッセン!お元気?」


 途中で同じ第5階層のライツに出会った。こいつは第4階層の覚えめでたく、おこぼれをたくさん恵んでもらっているらしい。そのせいか色艶も良い。噂では、餌の首にストローを2本刺していっしょにチュウチュウしてるという。腹立たしい。


「何かお口でペロペロしているみたいだけど、それなあに?」


「血のついた骨を拾ったんで、それをしゃぶってんだよ。」俺はぶっきらぼうに言い放った。こんなやつに食えるスキルをバラすわけにはいかない。


「ふうん...ねえ、チュウしてあげよっか?」ライツの目が紅く輝く。やばい、こいつは魅了のスキル持ちだ。「いらねーよ、バーカ、第4階層の汚え歯でも舐めてろ!」俺はそこからソッコーで離脱した。


 町に到着した。おにぎりはどこで買えるのだろう?通行人に訊くか?今の俺は飴のエナジーで活力が保たれている。人間とふつうに会話するくらい朝飯前だ。いや、まさに朝飯前だ、まだ朝飯を食ってないからな。


「すみません、このあたりでおにぎり売っているお店、知りませんか?」


「おにぎり?それならそこの紺鼻荷にあるはず。」


「ありがとうございます。紺鼻荷ですね。」


 ピンポンパンポンピンポンパンポンパンポンピんポン♩


 ドアを開けると妙な音が鳴ったが、そんなことは気にならない。店内に入ると、いままで嗅いだことのない匂いが鼻腔を直撃した。なんだ、これ?美味しそうという未知の感情がわき上がったぞ。ともかく今はまずおにぎりだ。


「おにぎりください!」俺は小銭を掴んでカウンターの女に叫んだ。


「そちらの棚にありますから、お好きなのを選んで会計してください。」


 選べと言われても皆目見当がつかないので、右端にあったのを掴んだ。「これください!」


「少し足りません。」女は笑いをこらえるように言った。


「どれなら足りるんですか?」


「その真ん中のおかかですかね。」


「だったらそれにします。」俺は無我夢中だった。



吸血すら自由にできない第5階層のフレッセン。「飯が食えるスキル」を今後どう活かして行くのでしょう?

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