運命に抗う叛逆者たち 〜プロメテア・ノヴァ始動〜
まだ太陽が昇っていない、仄暗い時間帯だった。
東の空がわずかに白み始めるその瞬間、空を覆うように、それは現れた。
敵の奇襲攻撃——。
鋼鉄の羽音を響かせ、無数の攻撃機が編隊を組みながら空を埋め尽くしていく。
その圧倒的な物量と迫りくる死の気配に、人々は悲鳴を上げ、逃げ惑った。
サーモンは、その混沌のただ中で立ち尽くしていた。
何かを叫ぼうにも声が出ない。ただ、目の前で繰り広げられる惨劇が、彼の心を過去へと引きずり込む。
——あの日。
まだ「北見拓人」と呼ばれていた、少年時代の記憶。
何の前触れもなく、授業中に非常ベルが鳴り響いた。
教室の空気が一瞬で凍りつく。近くの工場で火災が発生したという報せに、生徒も教師も混乱の色を隠せなかった。
その工場には、彼の両親が勤めていた。
駆けつけた現場で、拓人が目にしたもの。
それは、黒く焦げ、もはや人の形をとどめていない「何か」だった。
「お父さん、お母さん」と叫んでも、返ってくるのは燃え盛る炎の音だけ。
抱きしめようと手を伸ばせば、焼け焦げた衣服が、音もなく崩れ落ちた。
その瞬間、拓人の心は音を立てて砕け散った。
——力がなかった。
守る術も、抗う力も、何一つ持たない自分がそこにいた。
施設に預けられ、行き先を指し示すものもなく、流されるままに生きてきた日々。
だが、今は違う。
サーモンは、炎と煙に覆われた空を見上げた。
鼻腔を刺す焦げ臭さが、あの日の記憶を鮮明に蘇らせる。
だが、心の中で疼く痛みを、今の彼は押し潰さなかった。
それを、覚悟へと変える。
「もう二度と……あの時のような無力な自分ではいられない」
唇を噛み締め、握り拳に力が入る。震える膝を抑え込むように、サーモンは一歩を踏み出した。
「俺は、俺の意志で切り開くと決めた。だから——俺はこの戦争に第三勢力として介入する!」
彼の瞳には、炎にも負けぬ強い輝きが宿っていた。
決意が、揺るぎない形となって彼の全身を包み込んでいく。
一方、戦況は激化の一途を辿っていた。
イヴリス軍は戦いの火蓋を切るべく兵を動かし、中央評議会軍もまた、それに対抗する準備を進めている。
そして、サーモンは——己の信念に共鳴する者たちを集め、新たなギルドを結成していた。
サーモンは仲間たちを見渡す。
傷だらけの者、怒りに燃える者、迷いを抱えながらもここに立つ者。
その一人ひとりに、サーモンは確かな想いを込めて言葉を紡ぐ。
「俺は、俺たちは……この惑星の未来を、このまま滅びの道へと放置するつもりはない」
サーモンの声が、重く、そして静かに広がる。
「イヴリスでもない。中央評議会でもない。俺たち自身が選び、切り拓き、滅びの運命から反逆するんだ」
彼の拳が、静かに、しかし確かに震えている。それは恐怖ではない——熱だ。
サーモンは拳を強く握りしめ、その指先が白くなるほどに力を込めた。
瞳に宿る光は、希望というにはあまりに鋭く、誰もが言葉にできない「何か」を感じ取っていた。
「守るためだけじゃない……俺は、この惑星のすべてを“掌握”する」
その言葉に、仲間たちが一瞬息を呑む。だが、サーモンは続けた。
「誰かに委ねた未来など、何の価値もない。ならば、この手で、すべてを“支配”してでも……正しい未来にしてやる」
狂気に似たその宣言は、だが確かに“覚悟”だった。
誰一人として異を唱えない沈黙の中、彼は静かに笑った。
「だからこそ……俺は、この戦争に第三勢力として叩き込む!」
「この手で未来を切り開くために!」
その宣言に、誰一人として異を唱える者はいなかった。
それぞれが、それぞれの理由で、この男の言葉に心を預けた者たちだった。
サーモンは視線を仲間ひとりひとりに合わせていく。
怒り、悲しみ、迷い、希望——様々な感情を抱えた仲間たちの表情を、しっかりと目に焼き付ける。
「今こそ……俺たちのギルド〈プロメテア・ノヴァ〉が動き出す時だ!」
その言葉を合図に、仲間たちが一斉に拳を突き上げた。
彼らの叫びが、まだ白みかけた空に響き渡る。
——ここからが、俺たちの戦いだ。
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