表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コモスタクト ―星々を結ぶ意志―  作者: パンチャー
1章 イヴリス動乱
8/21

運命に抗う叛逆者たち 〜プロメテア・ノヴァ始動〜

まだ太陽が昇っていない、仄暗い時間帯だった。

東の空がわずかに白み始めるその瞬間、空を覆うように、それは現れた。


敵の奇襲攻撃——。

鋼鉄の羽音を響かせ、無数の攻撃機が編隊を組みながら空を埋め尽くしていく。

その圧倒的な物量と迫りくる死の気配に、人々は悲鳴を上げ、逃げ惑った。


サーモンは、その混沌のただ中で立ち尽くしていた。

何かを叫ぼうにも声が出ない。ただ、目の前で繰り広げられる惨劇が、彼の心を過去へと引きずり込む。


——あの日。

まだ「北見拓人」と呼ばれていた、少年時代の記憶。


何の前触れもなく、授業中に非常ベルが鳴り響いた。

教室の空気が一瞬で凍りつく。近くの工場で火災が発生したという報せに、生徒も教師も混乱の色を隠せなかった。


その工場には、彼の両親が勤めていた。


駆けつけた現場で、拓人が目にしたもの。

それは、黒く焦げ、もはや人の形をとどめていない「何か」だった。

「お父さん、お母さん」と叫んでも、返ってくるのは燃え盛る炎の音だけ。

抱きしめようと手を伸ばせば、焼け焦げた衣服が、音もなく崩れ落ちた。


その瞬間、拓人の心は音を立てて砕け散った。


——力がなかった。

守る術も、抗う力も、何一つ持たない自分がそこにいた。


施設に預けられ、行き先を指し示すものもなく、流されるままに生きてきた日々。

だが、今は違う。


サーモンは、炎と煙に覆われた空を見上げた。

鼻腔を刺す焦げ臭さが、あの日の記憶を鮮明に蘇らせる。

だが、心の中で疼く痛みを、今の彼は押し潰さなかった。

それを、覚悟へと変える。


「もう二度と……あの時のような無力な自分ではいられない」

唇を噛み締め、握り拳に力が入る。震える膝を抑え込むように、サーモンは一歩を踏み出した。


「俺は、俺の意志で切り開くと決めた。だから——俺はこの戦争に第三勢力として介入する!」

彼の瞳には、炎にも負けぬ強い輝きが宿っていた。

決意が、揺るぎない形となって彼の全身を包み込んでいく。


一方、戦況は激化の一途を辿っていた。

イヴリス軍は戦いの火蓋を切るべく兵を動かし、中央評議会軍もまた、それに対抗する準備を進めている。

そして、サーモンは——己の信念に共鳴する者たちを集め、新たなギルドを結成していた。


サーモンは仲間たちを見渡す。

傷だらけの者、怒りに燃える者、迷いを抱えながらもここに立つ者。

その一人ひとりに、サーモンは確かな想いを込めて言葉を紡ぐ。


「俺は、俺たちは……この惑星の未来を、このまま滅びの道へと放置するつもりはない」

サーモンの声が、重く、そして静かに広がる。

「イヴリスでもない。中央評議会でもない。俺たち自身が選び、切り拓き、滅びの運命から反逆するんだ」

彼の拳が、静かに、しかし確かに震えている。それは恐怖ではない——熱だ。


サーモンは拳を強く握りしめ、その指先が白くなるほどに力を込めた。

瞳に宿る光は、希望というにはあまりに鋭く、誰もが言葉にできない「何か」を感じ取っていた。


「守るためだけじゃない……俺は、この惑星のすべてを“掌握”する」

その言葉に、仲間たちが一瞬息を呑む。だが、サーモンは続けた。

「誰かに委ねた未来など、何の価値もない。ならば、この手で、すべてを“支配”してでも……正しい未来にしてやる」


狂気に似たその宣言は、だが確かに“覚悟”だった。

誰一人として異を唱えない沈黙の中、彼は静かに笑った。


「だからこそ……俺は、この戦争に第三勢力として叩き込む!」

「この手で未来を切り開くために!」


その宣言に、誰一人として異を唱える者はいなかった。

それぞれが、それぞれの理由で、この男の言葉に心を預けた者たちだった。


サーモンは視線を仲間ひとりひとりに合わせていく。

怒り、悲しみ、迷い、希望——様々な感情を抱えた仲間たちの表情を、しっかりと目に焼き付ける。


「今こそ……俺たちのギルド〈プロメテア・ノヴァ〉が動き出す時だ!」


その言葉を合図に、仲間たちが一斉に拳を突き上げた。

彼らの叫びが、まだ白みかけた空に響き渡る。


——ここからが、俺たちの戦いだ。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

もしこの物語が「面白い」「続きが気になる」と感じていただけましたら、ぜひブックマーク・評価をしていただけると嬉しいです。

あなたの応援が、次の話を書く大きな励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ