2章プロローグ
――要塞都市カーディナル・ネストを揺るがした「イヴリス動乱」の終結から、わずか一週間。
絶対的な管理者であった惑星統合管理AI「アテナ・シグマ」の機能停止は、ウラニア全土を覆っていた“偽りの秩序”を根底から叩き潰した。
中央評議会の長く冷酷な圧制をその血と火線によって撥ね退け、悲願の完全独立を勝ち取った新興国家イヴリス。その歓喜の歌声が響く一方で、動乱の最大の功労者であるギルド「プロメテア・ノヴァ」の手に渡った要塞都市カーディナル・ネストでは、焦土からの復興を告げる重機と溶接の火花が昼夜を問わず飛び散っていた。ヘパイストス工業都市との電撃的な合同国家の建国。それはウラニアの歴史において、既存の二大陣営の喉元に「第3の極」という名の巨大な楔が打ち込まれた瞬間でもあった。
だが、この世界に訪れた平和は、あまりにも薄氷の如く脆く、そして短い。
管理者を失い、完全にタガが外れた人類の野心は、各国家の暗部で静かに、しかし貪欲に国力を蓄え始めていた。
動乱によって甚大な損害を被り、その覇権に致命的なヒビが入った中央評議会は、失墜した影響力を力づくで回復すべく、狂ったように残存艦隊の再編成と経済制裁の画策に血眼になっていた。対するイヴリスもまた、掴み取ったばかりの自由を評議会の牙から死守すべく、国境線への重防衛線の構築と、次なる戦術を冷徹に練り上げていく。
しかし、世界の誰もが気付いていなかった。その激動する表舞台の陰で、最も悍ましい変革の足音が近づいていることに。
旧宗教都市ネメシス――。
アテナの消失に伴う権力の空白、そして上層部が文字通りの血の粛清によって全滅したその最果ての聖域を拠点に、謎に包まれた第四勢力「クアドリガ」が不穏な胎動を本格化させていた。彼らが掲げる歪んだ大義、そして急速に膨れ上がる軍事力は、ようやく形を変えて安定しようとしていた世界のパワーバランスを、内側から粉々に爆破せんと暗躍の触手を伸ばしつつある。
アテナが最期に遺したバグノイズ混じりの警告――『惑星の真の危機』とは、一体何を意味するのか。
新国家プロメテア・ノヴァの指導者となったサーモンたちは、バシリスクの破壊という奇跡の余韻に浸る間もなく、押し寄せる政治の荒波と、見えない敵の気配にヴァルテクスを構え直していた。
惑星ウラニアは今、多極化する国家間の傲慢な緊張と、闇夜に交錯する暗殺のプロトコルが支配する、前章を遥かに凌駕する凄惨な『新たな戦乱の胎動』を、その産声と共に迎えようとしていた――。
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