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コモスタクト ―星々を結ぶ意志―  作者: パンチャー
1章 イヴリス動乱
10/30

選択の火種、報復の風

【※補足設定:融合型機械化歩兵について】


融合型機械化歩兵――

それは、機械と人間の“境界”を取り払った兵器である。


生身の兵士の神経系を直接機械に接続し、肉体を鋼鉄の外殻で包み込むことで、反応速度・耐久性・火力を極限まで引き上げた存在。

だが、その代償はあまりにも大きい。


搭乗者の意識は機械に呑み込まれ、やがて“個”としての自我すら曖昧となる。

意識と肉体が完全に“融合”した兵士たちは、戦場では精密な兵器として振る舞うが、その実態は――“人間性を捨てた兵器”。


倫理から完全に逸脱したその兵器群は、イヴリス軍内部ですら「タブー」として忌避される存在だった。

だが、第四勢力の暗躍によって、その“禁忌”が今、戦場に解き放たれる。


彼ら“融合型”は、感情すら排除した冷徹さで、命令のままに敵を駆逐する。

人間でありながら、人間であることを捨てた兵士――それが融合型機械化歩兵である。


――戦場の空気は、重く、沈黙に沈み込んでいた。


濃灰色の煙が地を這い、焼け焦げた金属と血の臭気が鼻を突く。

耳に残るのは途切れ途切れの砲撃音。だが、この一瞬だけは、不気味なほどの静寂が支配していた。


高所から敵陣を睨みつけるのは、シリウス・ヴァルトラウテ。

彼の手にはモノアイスコープ――敵の動きと編成を克明に捉える観測機器が握られている。


「……やっぱり、ジンの言う通りだ。動きが妙に遅ぇ」


通信越しにジン・ハイラルの声が応じる。

「イヴリスの別動隊ってのは予想済みだが……こいつはクセが強い。兵力、種類、どう見える?」


「千……いや、実数はもっと少ねぇ。ドローンがほとんどで、機械化歩兵が少し混じってる」


ジンの声色が冷えた鋼になる。

「“融合型”が混じってるな」


――融合型。

兵士の肉体と機械を文字通り「融合」させた、倫理を踏みにじった禁断の兵器。

義体化を超え、生体を無理やり機械に埋め込み、効率だけを追求したその姿は、もはや人間の尊厳すら奪い去っていた。


シリウスが苦々しく呟く。

「奴らはもう人間じゃねぇ……だが、未来を掴むためには、そいつらさえ越えなきゃならねぇんだろうな」


通信の向こうでジンが静かに頷く。

「倫理も理性も潰えた兵器だ。だが、だからこそ、俺たちは叛逆しなきゃならねぇ」


その“融合型”は、第四勢力――通称“クアドリカ”が禁忌技術を与えた異形。

イヴリスの陽動作戦として、中央評議会軍の指揮網を攪乱し、戦線を瓦解させる“揺さぶり”が始まろうとしていた。


シリウスが口角を吊り上げ、不敵に笑う。

「面白ぇ……だが、そうはさせねぇ」


ジンがギルドのリーダー、サーモンへ通信を繋ぐ。

『サーモン、イヴリスが“揺さぶり”を仕掛けてきた。クアドリカが絡んでる』


サーモンの声は低く鋭く響く。

『読めてたさ。奴らが泥沼に沈む瞬間――それが俺たちの出番だ』


プロメテア・ノヴァの本陣が、獣のような緊張に包まれる。

それは恐怖ではなく、獲物を狙う猛獣のような静かで鋭い高揚だった。


――そして、刻は満ちた。


イヴリス軍別動隊、第八機甲隊が前線司令部を強襲。

サーモンたちは待ち構えていた。


「今だ、ジン、シリウス!」

「任せろ!」

「了解!」

「最初の一撃が全てだ。ここで成功させなきゃ、全てが水泡に帰す!」

「気合入れて行こうぜ!」


瞬間、戦場が動き出す。

イヴリス軍ドローンの奇襲が中央評議会軍の陣形に綻びを生む。


サーモンの号令がギルド回線を貫く。

『シリウス、突破口だ。叩き割れ!』


「了解! 俺が道を作る!」


パワードスーツの駆動音が轟き、シリウス・ヴァルトラウテが突進する。

肩に担いだ高周波振動斧アヴァランチが唸り、敵の重装機兵を易々と切り裂く。


「評議会の鉄壁だろうが、ぶち壊す!」


敵陣が警告音を発するより早く、斧は制御コアを叩き潰し、重機の爆散が合図となり味方が一斉に突撃した。


「ジン、援護頼む!」

「右側面にEMP弾幕展開! 行くぞ!」


無数のEMPドローンが電子の嵐を撒き散らし、敵のセンサー網を麻痺させる。

光学迷彩を纏ったノクター・ヴェインが敵の懐へ斬り込む。


「こじ開けるぞ、シリウス!」

「任せろ、砕いてやる!」


ノクターはふと、目の前に立ちはだかる“融合型”を見て、拳を強く握りしめた。

――俺たちと同じ“兵士”だったかもしれない奴らを、こうして切り伏せるしかないのか。


「……構ってられねぇよな。ここで止まるわけにはいかねぇ」


迷いを振り切り、刀を振り抜く。

その斬撃と、シリウスの斧撃が重なるたびに、中央評議会軍の前線は崩壊していく。


彼らはプロメテア・ノヴァの破城槌。

その一撃が、新たな道を切り開く。


『突破成功。全隊、展開準備!』


サーモンの号令が響き、旗が戦場に翻る。

「セラ、ジン、EMパルスで敵ドローンと機械兵を無力化しろ!」

「了解!」

「ノクター、マリア、ルディア、俺と共に前線司令部を制圧する!」


サーモンは甲龍銃を構え、敵を一掃しながら進軍する。

右翼部隊が猛反撃を仕掛けてくるが、彼のHPはすでに半分を切っていた。


その瞬間、サーモンの甲龍銃が“霊光の四護”を自動発動する。

それは敵に鈍足と暗闇を付与するが、真の恐怖は隠された効果にあった。

四つの効果がすべて発動した瞬間――敵全体への“即死効果”が放たれる。


「お前ら、何が起きたかもわからねぇだろうが……これが叛逆ってやつだ!」


一瞬にして、右翼の大部分が壊滅した。


サーモンたちはそのまま前線司令部を制圧する。


一方、中央評議会軍指令本部――

巨大ホログラムに映し出される異常事態。

通信途絶、指揮系統の断絶、そして第三勢力による制圧報告。


通信士の震える声が響く。

「前線司令部……陥落しました」


重苦しい沈黙。

だが、その中心に立つ総司令官テミス・アレクシオスは微動だにしない。


「……“プロメテア・ノヴァ”か。やってくれる」


参謀たちが顔を曇らせる。

「奴らの存在は織り込み済みだが、ここまでの活躍は想定外です」


テミスは冷徹な笑みを浮かべ、指を組み直した。

「法を破るならば、同じ“法”で裁く。中央評議会の名の下、奴らの“存在”ごと消し去る」


彼が指示を飛ばす。

要塞都市〈カーディナル・ネスト〉全域に緊急指令――

機動艦隊の出撃準備、大型殲滅兵器の稼働、特務部隊“鋼牙”の召集。


そして、静かに吐き捨てる。

「民間区域? 構わん。叛逆者を根絶やしにするには、多少の犠牲はつきものだ」


その瞬間、参謀たちの表情が凍りついた。

――この男は、本気で都市ごと潰すつもりだ。


テミスは冷たく微笑む。

「小手先の叛逆ごっこに終止符を打つ時が来た」


――こうして、〈プロメテア・ノヴァ〉への苛烈な“報復劇”の幕が上がる。


制圧された前線司令部に、静寂が訪れる。

瓦礫の中、仲間たちがサーモンへ視線を向ける。


彼は甲龍銃を担ぎ、未来を射抜くその瞳に揺るぎはない。


「これが……俺たちの“選択”だ」


拳を固く握りしめ、その声に誰にも折れぬ決意が宿る。


「未来は誰かに与えられるものじゃない。俺たち自身の手で掴み取る。ここから――時代を変える」


仲間たちは無言で頷く。

ノクターは刀を収め、マリアは胸元で手を組み、セラは微笑み、ジンは指を鳴らす。

シリウスは豪快に笑いながら肩を竦めた。


「叛逆の火種はまだ消えねぇ。燃え続けるんだ」


その背後で、プロメテア・ノヴァの旗が戦場の風を捉え、ゆっくりと翻った。

新たな時代の幕開けを告げる旗印のように。


――しかし、彼らはまだ知らない。

この制圧が、冷酷な総司令官テミス・アレクシオスの“本気”を引き出し、

やがて惑星ウラニア全土を焼き尽くす苛烈な戦火の序章となることを。

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