表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】引きこもり魔公爵は、召喚おひとり娘を手放せない!  作者: 文野さと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/39

38 リュストレーの話 2

『しばらくでいい、私にあの娘を預けよ。よいか、これは国王としての命である』


 国王ライオネルは、リュストレーに向かってそう言い放った。

 父と息子の視線が正面からぶつかる。

 リュストレーはしばらく父を見つめていたが、やがて立ち上がった。

『お断りいたします』

『なに?』

『断ると申し上げたのだ。我が陛下。今の言葉で察しはついた。ミレは母の離宮に運ばれたのですね』

『……異界の人間は、元の異界で暮らすのが一番の幸せであろう。そしてそなたは、国のため、民のため、そして父のために国政に戻るのが義務であり、幸せなのだ』

『幸せとは、自分以外のものが決めるものではないと存ずる。そして、私はもう見つけた』

『異界の娘と暮らすが幸せというか!? リュストレーよ』

『そうです。私はミレ……美玲を取り戻す! 陛下の命には従いかねます』

『それは反逆ともとられる言葉であるぞ!』

 王の声が強張る。

『そう思われるなら、どうぞ私を背中からお斬りなされ。私は抵抗致しませぬ。ミレのいない世界に未練などない』

 リュストレーは、晴れ晴れと笑った。

『そこまで申すか』

『はい、国王陛下。私は今までのお慈しみに深く感謝申し上げるとともに、公爵位を返上いたしまする。私はもう貴族ではない。王太子ではもちろんない。国を、家族を愛しているが、一人の恋する男である。だから私はこうする!』

 そう言って、リュストレーは上着の奥から小さな、しかし鋭い小刀を取り出した。

 驚いたアリオンが一歩踏み出すが、止める間もなく、リュストレーは美しい髪を引っ掴み、横に刃を引く。

『なんてことを!』

 銀色の光が中空を舞った。

 最後の光が落ちる前に、リュストレーは小刀を投げ捨てる。

『御前失礼致します! さらば!』

 リュストレーは踵を返した。

『リュストレー……』

 ライオネルは呆然と息子の名を呼ぶ。

『兄上!』

 その背に呼びかけたのは、王太子アリオンだった。

『ご決意のほどよくわかりました。もう何も申しませぬ。どうぞ行ってらっしゃませ。騙し討ちのようなことをして申し訳ありませんでした』

 王太子アリオンが深々と腰を折る。

『ですが、あなたはいつでも私が心よりお慕いする兄上です。どうぞ兄上と呼ぶことだけはお許しください。父上、そして兄上から託されたこの国を、微力ながら守ってゆきますゆえ」

『アリオン……いや、次期国王陛下。不出来な兄を許されよ。父上と共に、この銀獅子国を頼みましたぞ!』

 そしてリュストレーは走り出した。

 愛する娘、恋しい美玲を救うために。


   *****


「へええ〜、そんなことがあったんですか?」

「そうとも。彼らは私のそなたに対する執着を甘く見ていた。美玲さえいなくなれば、私が王宮に戻ってくると思っていたのだろう。物語も書き終えたことだしとな!」

 その時のことを思い出したのか、リュストレーは秀麗な眉を激しくしかめた。

「……そなたを救うには後一歩間に合わなかったが」

 リュストレーは鼻を啜り上げながら言った。その髪は今は綺麗に整えられている。

「確かにあの時は、めずらしく絶望してしまいました。でも、あの時のあなたの顔や触れ合った時の感覚が忘れられなくて……」

「私もだ……美玲」

「ぐ……」

 頬ずりは、かなり恥ずかしい。

 今は夕刻でほんの少しちくちくするのは、普段全く目立たない髭だろうか?

「だけど、王様に会うのに、武器を持って行っていいんですか?」

「普通はだめだ。身体検査をされる。だが、私には護身用もあって、小さな小刀を持つことが許されていた。それで髪を切り、父上と弟の前にばらまいてやったのだ」

 リュストレーは、どうだ、と言うように美鈴を見下ろした。褒めてもらいたさが顔に滲み出ている。

 あとで掃除の人が大変だったろうな、と美玲は、誰とも知らない召使いに同情する。

「それは……かなりかっこいいけど、ちょっとやり過ぎでは? 万一あなたが衛兵とかに殺されちゃったら、こうして会うこともできなかったんですよ」

「それは戦略だ。卑怯な言い方だが、私が殺されることはないと思っていたからな。これでも元軍人だ!」

 リュストレーは厚みの増した胸を張った。

「嬉しいけどずるい……お父様の愛を逆手にとってぇ」

「だから髪を切った。縁を切ったのだ。この長い髪は王族の証であり、王家の伝統であり、そして頸木(くびき)でもあるのだから」

「くびき、ですか」

 今の日本では死語だが、意味はわかる。戒めということだ。

「ああ。戦場では味方を鼓舞するため、そしてたとえ敗れたとしても、敵に首を取られる前に自害するため。だから頸木なのだ。呪いと言ってもいい。王家は矛盾だらけだ」

「矛盾とは?」

「父は母を愛しながらも、過去と異能者と交流できるその能力を恐れていた。だから、あの離宮という名の廟を、結界とした。なのに、私が異能の宿命から逃れて長らえたと見るや、王宮に取り込もうと画策し、母を使って私の美玲をニホンに送り返そうとした。勝手なものだ!」

 

 あ、この人、本気で怒ってる。

 私のためにずっと怒っていてくれたんだな。

 そして、ずっと呼びかけ続けてくれた。


「だから断ち切ったと?」

 美玲は広い胸に頬を添えて尋ねた。高くて早い鼓動が流れ込んでくる。

 心地のいい音だ。

「そうだ。父も母も私に期待しすぎなんだ。少し人より輝きの強い髪や、瞳を持っただけのこの私に。これは明らかに呪いだろう?」

「まぁ、あなたを見ていれば、誤解を与えてしまうのは仕方ないでしょうね」

 美玲にはもう理解できた。

 この男が子どもの頃から、期待に応えようとしたことを。

 それはきっと血の滲むような努力だったに違いない。おそらく人知れず、誰にもわからないところで学問に勤しみ、武芸の鍛錬をしていたのだろう。

 国のために働く良い王太子でいるために、周囲の期待を裏切るまいと。

 けれど異能のせいで、罪を重ねたと自戒し、心を閉ざしてしまった。


 誰よりも純粋で、頑張り屋で、優しい人。

 だから私はこの人のところに帰ってきたんだ。

 帰ってきたかったんだ。


「それでもう許してもらえたんですか? 王家とのつながりを断ち切ることを」

「当然だ。私はやるときはやるんだ。ついでに公爵の位も返上した」

「え? じゃ、じゃあ。もう貴族でもないんですか?」

「ないな」

 リュストレーはしれっとしている。

「あのぅ……生活はどうするんです? お屋敷は? お屋敷の皆さんは? 念のために伺いますけど、あなた個人の収入はあるんですか」

 美玲は恐る恐る尋ねた。

「生活? 収入? そんなもの今まで通りできるのではないか?」

「できるかーい!」

 美玲の絶叫が響いた。


 あかーん!

 やっぱりこの人、生活力ナッシングのおぼっちゃまだった!




あと、1話で完結です!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いやあ、公爵様、いやリュスさん、 後先考えず突っ走っちゃいましたね。漢だねえ。 美玲ちゃん、ダメ男に生活力をつけさせるには、君のスキルが活きてくるのでは?がんばれ! 最後の1話が、楽しみです…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ