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【完結】引きこもり魔公爵は、召喚おひとり娘を手放せない!  作者: 文野さと


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36 腕の中へ

 美玲は苦もなく扉を開けると、腰を屈め、ぽっかり空いた空間へと進んだ。

 体が吸い込まれるようだが、少しも違和感がない。

 そして不安もまた──。

「ふふ」

 案の定、真ん中に光る文字のようなものが浮かび上がっている。

 立つことができないので、その文字の中へ体を横たえ、耳を澄ませた。

 光る文字がゆっくりと美玲の体を包み込む。

 体が伸びやかに沈み込んでいく感覚。

 そして、遠くから呼びかける声。


『……れい……美玲、まだ届かぬのか? こんなに幾度も、そなたの名前を呼び続けているのに……美玲、返事をしてくれ。私の元へ戻ってきてくれ』


 ああ、この声だ。

 相変わらずいい声だなぁ……


『美玲! 我が元へ戻らぬか! この意地っ張り勤労娘!』

 声が次第に大きくなる。


 もう。

 意地っ張りだけは余計だよ…………様


『美玲!  愛しておるのだ! 私の美玲!』

「はい! リュストレー様!」

 美玲は元気よく返事をした。

 その途端、体全てが光に包まれ、美玲の体は別の空間へと沈んだ。

 驚くべき、そして懐かしい浮遊と落下の入り混じった感覚。

 恐怖はない。

 美玲は光に包まれながら、ゆっくりと落ちていく。

「わっ!」

 出し抜けに光が収まり、美玲は今度は物理的に落下した。

 懐かしい、暖かい胸の中に。


「……ただいまです」

 思いがけない姫抱っこに、嬉しいよりも照れてしまった美玲は、我ながら間抜けな挨拶をした。

 リュストレーは光の強い銀色の瞳で、美玲をただ見つめている。

「み……れ……」

「遅くなりまして」

「ほんとう……に?」

「本当です。お待たせしました」

 美玲はリュストレーの首に腕を回して顔を隠した。恥ずかしすぎるのだ。

「そうだぞ……この馬鹿娘!」

「すみません。こっちでも色々あったもんで」

「私が何万回、そなたの名を呼んだと思っている?」

 抱きしめる腕が締まる。床が遠い。

リュストレーは立ったままなのだ。

「わかんないですけど、私もずっと扉を探していたんですよ……きっと時空の狭間のなんちゃらとか、条件が全て整わないといけないとか。きっとあるんですよ。私にはこの設定、全く理解できないけど」

「設定とかそんなこと、どうでもいい……」

 もと設定オタクはそう言い放ち、ずいと顔を近づけた。

「よく帰ってきてくれた……美玲」

 おずおずと触れるようなキス。

 この人はこんなに素敵なのに、異性の扱いに慣れていない。


 私もだけど……。

 でも、そこが可愛いんだわ。


 唇を擦り合わせるようなキスのあと、リュストレーの喉の奥から嗚咽のようなうめきが聞こえ、美玲の頬に彼の頬がピッタリくっついた。

 やがて、その隙間に暖かい水が入り込もうとするのは、きっと多分……。

「美玲……美玲……」

 変わらない美声が、ちょっと鼻にかかっていた。


「うん……リュストレー様、もう下ろして」

「下ろす? ああ、ずっとこうしていたのか……」

「そうですよ。重かったでしょう」

「それがそうでもない」

 リュストレーはそっと美玲を床に下ろした。

 ここはあの執務室だ。最初にこの世界に来た時に、落ちた部屋である。

 美玲は、ちょっと赤くなった彼の目元を見ないように気を遣いながら、懐かしそうに部屋の中を見渡した。

 部屋の中は驚くほど綺麗になっていた。かつて締め切られることが多かった窓は、帷も新しくなり、書物はきちんと本棚に収まっていて、雑多な資料もかなり少なくなっている。

 代わりに増えているのは、体を鍛える道具だ。

 木剣や、鉄の棒(鉄アレイ?)、吊り下げ式の砂袋(サンドバッグ?)などが部屋の隅に置かれている。

「リュストレー様、筋トレを始められたんですか?」

「きんとれ? 冬場は雪の日が多いから、部屋の中でできる鍛錬の道具を揃えただけだが」

「……」

 リュストレーはぴったりとした黒い部屋着を着ている。日本で言うならコットンタートルのような、体の線が出るものだ。

 見ると、今のリュストレーの体つきはすっかり変わり、胸板は厚くなり、細かった二の腕には上腕二頭筋とか言われるものが、かっちりとついている。

「体つきもそうですけど、あの時はびっくりしました。なぜ髪を切ったのですか?」

「似合わぬか?」

「お似合いです。でもなんでかなって」

 あの時は切ったばかりだったのか、ざんばらとしていた髪だが、今では綺麗に整えられ、なかなかのニュアンスヘアになっている。

 はっきり言ってものすごくサマになっていて、美玲がしばし見惚れた。

「そうだな。まずはそなたに詫びねばならない。そもそも、最初から最後までそなたを翻弄し続けたのは、この私なのだから」


 そして、リュストレーは話し出した。




「ただいま!」の段。

ここでお言葉いただけないと、作者めっちゃ凹みますから〜!

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― 新着の感想 ―
[一言] お待たせしましたあ! やっぱり主人公には、幸せになってほしい。 この続きで、髪を切ったことや、お母様のことも語られると思います。
[一言] 良いですな。 このまま突っ走ってくだせい。
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