表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】引きこもり魔公爵は、召喚おひとり娘を手放せない!  作者: 文野さと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/39

17 刹那の攻防

残酷な表眼があります。

 それは燃え盛る炎ではなく、盛りを過ぎて鎮火(ちんか)に向かいつつある火。

 だが、十分に明るかった。

 だから見えた。

 広場に倒れる女、子ども、老人の死体が。

 小さな集落だった。彼らは緋熊の国の人間ではなく、国境の森に昔から住む少数民族だ。

 夕食時の家から引きずり出されて斬られたらしく、小さな子どもの死体にはスプーンが握られているものもある。

「な、なんで?」

 しかし、戦場となった森の東からはかなり離れているはずだし、緋熊軍の進軍ルートではないから、普通なら村人達が巻き込まれることはない。

 丸太でできた家は焼け落ち、すでに炭化しているものもある。畑や家畜小屋も見る影もない。村は無惨な姿で滅んでいた。

「誰か! 誰か生きている者はいないか?」

 小さな村だから、探し回るのは容易だ。燃えるものを燃やし尽くした火は、周囲の森の生木を燃やすほどの勢力はない。

「誰か!」

 村の一番奥の大きな小屋──おそらく村長の住まい──だけは、さすがに頑丈な造りで、まだ全ては燃え尽きてはいなかった。裏手に回ってみると、裏口の扉が外れているが、まだ燃えていない内部がわずかに見える。

「誰かいるか!」

 リュストレーは入り口に向かって叫んだ。

「誰だぁ、お前は」

 左の茂みからぬっと現れたのは、緋熊の軍服を着た男だ。暗い森を背に、その姿は異様なまでに大きい。更に背後に二人いる。

「その銀色の長い髪。ははぁ、わかった。お前、銀獅子の王族だろう。お殿様は戦が怖くて逃げ出したかぁ」

「だがこれは我らにとって好都合」

 男の指摘はある意味正しく、リュストレーは反論できない。

「お前たちが村に火を放ったのか?」

「ああ?」

 彼らは、リュストレーを取り囲んでいたが、やがて最初に現れた男が、嫌な笑いをその髭面に浮かべた。

 炎の灯りを受け、その姿はまさに緋熊の名の通りだ。

「ああ、そうだ。俺らが焼いた。東の戦いじゃ、もう少しで勝てる戦況だったのに、いきなり現れた銀獅子援軍に陣形の横を突かれ、浮き足だったこの村の民兵どもが後先も見ずに逃げ出したのさ。おかげで、この村の男どもを率いていた俺の部隊は総崩れ、俺の出世も台無しになった」

「……」

「まぁ、逃げた奴らも多分銀獅子の弓兵にやられちまったが、俺はこの森をよく知っていてな。獣道(けものみち)を伝って、うまくここまで逃れてきたってわけだ」

「出世の希望が消えた腹いせに、同じ村の女や子どもを殺し、村を焼いたのか?」

「そうさ。まぁ、小せぇ村だから、大した数じゃあなかったが、ちょっとスッキリしたところ……」

 男の鼻先にリュストレーの抜き身があった。

「この鬼畜が!」

「おーお、この王子様、本意で俺たちとやる気だぜ! ちょうどいい、敵の大将首とやりあえるなんてな! お前、指揮官だよな!」

 髭面が笑った。

「見ろよこのお美しい姫将軍様をよ! さぞかしお強いんだろうぜ!」

「この首持って帰りゃ、民兵率いるよりよっぽど褒美がもらえる」

 他の二人もリュストレーを嘲笑いながら、剣を抜いた。刃から血が滴り落ちる。

「お顔だけは勘弁してやるぜ!」

 左側に回った男が切り付けた。リュストレーが右利きと見ての判断だろう。戦い慣れている。

 なんとか躱したが、すかさず右の男が脇腹を狙う。

 リュストレーは焦っていた。

 士官学校で厳しい訓練を受け、成績は優秀だったが、そこに立場に対する配慮がなかったとは言えない。何より、彼には今回が初めての実戦で、経験が少なく、直接敵兵と切り結んだこともほぼなかった。

「そらっ!」

「くっ!」

 完全に彼を舐めきった二人の兵士は、交代で攻撃を仕掛けてくる。髭面の男はそれを大笑いで見ていた。

 リュストレーは次第に押され、まだ燃えている村長の家の正面まで後退させられる。

「もうめんどくせぇな、一思いにやっちまえ!」

「そうだな。お姫様にしちゃ頑張ったほうだしな。褒めてやる……うお!?」

 不意に男の体が大きく揺らぐ。

 家の中からずるずると這い出してきた老人が、自分の杖を男の足に絡ませたのだ。これは完全に不意打ちだった。

 そしてリュストレーはそれを見逃さなかった。

 傾く男の胴を勢いよく払うと、その勢いのまま体をひねり、返す(やいば)で驚いて固まったもう一人の頭を、真上から割った。

 リュストレーの白い軍服に、真っ赤な返り血がざぶりとかかり、二人の男が一瞬でどうと倒れる。

「……やるじゃねぇか、クソ王子様が」

 緋熊の大男がのそりと近づいてくるのがわかる。手にはリュストレーの倍くらいありそうな大剣を引っ提げている。

「まぁその前によ!」

 男は二歩で小屋に迫り、倒れながらも睨み上げる老人の背中に刃を突き立てた。老人はうめき声も立てずに絶命する。

「こいつが村長さ。叩っ斬ったはずなのに、しぶてぇ爺いだ」

「……おのれ」

 顔に流れる血を袖で拭いながら、リュストレーの瞳は銀色に光った。

「おお! いい目をするじゃねぇか。人殺しの目だ。だが!」

 髭男は大剣を振りかぶった。

 重さと膂力(りょりょく)で押そうというのだろう。リュストレーは自分がこの男の攻撃を受け切れるとは、とても思えなかった。


 ……ここまでか。だが!


「死ねぇ!」

「炎よ! 飲み込め!」

 二人が叫んだのは同時だった。

 瞬間、大男の姿はかき消え、続いて燃える小屋の中から叫び声が聞こえた。

「なっ、なんだ! 何が起こった!」

 老人の死体の向こう、燃える小屋の中央に男が踊り狂っているのが見えた。足元から腰えと炎が這い登っていく。

「ぎゃあああ! 何をやりやがった! この王子様よう! 待ってろ、今すぐ……」

 怒り狂った男が、リュストレーの方へと踏み出した瞬間、大きな音を立てて小屋が崩れ落ちた。

 煙と火の粉が辺りを明るく照らす。

 その只中に、リュストレーは呆然と立ち尽くしていた。




すみません。なかなか甘くならなくて、でも、ちゃんとしますんで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いやいや。 切迫した闘いの場面。 イチャイチャは、いりません。
[一言] 私的には大分好みです。
[一言] ほんと、描写がリアルです〜 毎日朝に更新されているので、朝の通勤でうおーって思いながら1日過ごします(笑) ダメダメヒーローとしっかりヒロインの甘々が待ち遠しいです。 完結したらもう一度じっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ