親切な魔導書、モアレさん
1人の魔女と1冊の魔導書がどうやら世界を救うらしい冒険譚。
寝る前に読んでほっとする作品を目指しています。
よろしくお願いします。
妹を殺したのは私でした。
自分に妹がいたことすら都合よく忘れて生きていたことを思い出させるために母親は焼かれたのだろうか?
思えば永い時間この世界に閉じ込められている。もう何分、何時間、何日、はたまた何年この理解不能なところに閉じ込めれている。
私は今現在、何歳になったのかも分からない。
私が元々住んでいたところでは、その地域で遙か昔から信じられてきた神とされる存在への信仰を守るための儀式として魔女狩りをすることが美徳とされていました。
魔女は神とされる存在に叛逆するため生まれた邪悪だと小さな頃から教えられます。
大人の口グセは「悪いことをすると魔女になるぞ」です。
私が7歳の誕生日を迎える前日、母親は魔女であると村の儀式で指定されその日のうちに魔女狩りとして焼かれました。
私はこの世界に来るまでは魔女が何なのか分からなかったし、死ぬことがなんなのかも理解してませんでした。
この世界では私の姿は誰にも見えていません。
過去現在未来、色々な時間と空間がありますが私の意思と関係なくこの世界のコントローラーは私をあっちこっちに放り込むのです。
あるときは、宗教を信じる人たちを見ました。
また、宗教のために戦争する人たちを見ました。
奴隷たちが結束して権力者に叛逆し、みんな死んでしまうところを見ました。
感染症で大量に人が死ぬところを見ました、そこでは医学が発達しておらず死神と呼ばれる存在が人の命を奪うんだとみんな信じていました。
生まれ持った特性を他人から理解されず、ただひとりで孤独と戦う強い人を見ました。
この辺りから私は難しい言葉や人が持つ感情を少しずつ理解出来るようになりました。
この世界が何をさせたかったのか、ずっと考えてましたが「魔女」である母親が生前私に施せなかった教育をここで実施してるのでは無いかと推察していました。
精神と時の部屋 とでも名付けましょうか?そんな場所がどこかにあると聞きました。これ、メタいですね。
そう思った矢先に見せられたのは、私が妹を殺したその日その時間の光景でした。
映画でも見てる気分でした。
でも、登場人物は私と私の妹の2人です。
安楽椅子探偵の出番も必要ありません。
世界中どこまでも追いかけてくる日本の刑事も必要ありません、犯人は私、ここにいて逃げる気も言い訳もありません。
私がやりました。
あの時の私は母親をひとりじめしたかったんです。
妹が私から母親を奪ったとあの時、認識を間違えてしまったんです。
私が犯人です。
ごめんなさいでは済まないことをしていたことを忘れていた、ありがちな都合のいいストーリーです。
「なんで私だけ死ねないのよ」
この世界では自分で死ぬ方法がありません。誰にも見えないし何にも触れない。
もういっそ死にたかった。人が死ぬところを延々と見せられてる時もずっと精神的には限界だと感じて。
人間は生きる意味を渇望しています。
楽しみたい。
気持ちよくなりたい。
愛されたい。
必要とされたい。
死にたくないから。
生きる意味を何もかも失った時がその人の死である可能性について、みんな薄々気づいていると思うんです。
人を音も光もない空間に閉じ込める実験は拷問です。1時間で人は狂うらしいです。
私はある意味でそのような場所に時間の感覚が無くなるまで放り込まれてる状態なんです。
「これは罰だったんだ」
私は、あの時の私が行ったことを見ました。
妹が大事にしていたぬいぐるみを地下倉庫に隠し、隠した場所を教え取りに行った彼女を地下倉庫のドアを外から鍵をかけ閉じ込めているのを。
両親には妹があの日、1人で外へ出るのを見たと嘘をついた。
彼女は失踪したことになっていましたが、私の嘘のせいで彼女は地下倉庫から出られないまま亡くなりました。
「これはきっと罰です」
目の前の光景は、何も食べられず外にも出られず誰にも助けられないまま孤独に死んだ妹の亡骸のまま長い間留まっています。
彼女の名前は。
「Mary……ごめんなさい…ごめん…」
謝っても許されないことは理解してますがもはや私はそれをすることしか出来ません。
「Frances、今あなたはあなたの妹の名前をようやく思い出しましたね…d」
知らない声に呼ばれました。
言葉の最後に変な語尾が聞こえた気がしましたがうまく聞き取れませんでした。
「すみません、どちらさまでしょうか」
私を知ってるのに私が知らないのは失礼だと感じたので今思いつく限り丁寧に尋ねてみます。
「アタシはあなたにとって最も都合の悪い存在。あなたの罪の歴史を知る本
デス」
本に口がついているのは聞いたことがありません、私はどうやら人ではなく本と会話しているようです。本当に?本だけに?
「めんどうデスけど自己紹介しないと読者に優しくないとマスターに言われてるので自己紹介する
デス」
それ、メタい。その事に気づいてるのでしょうか?
「アタシの名前はMoire。人間が魔法と呼ぶ事象を司るELEMENTです。分かりにくいので人間風に書くならモアレ・エレメントという名前デス。分かりましたか?Frances Mirror。人間のクセに長い名前でめんどくさいからアンタのことはフランと呼ぶから理解しろデス」
そんな長い名前ですか?私の名前…。
「言っている意味がわからないことが沢山あります。久しぶりに誰かと会話出来て頭が混乱しています。
状況の整理をしたいです。モアレさん、あなたは何のために私に話しかけているのですか?」
「アンタは人間では耐えられないはずの試練を乗り越えた」
「そして最後にアンタは自分自身の罪を認め真摯に向き合った」
「アンタの心にほんのわずかでも妹を殺したことを正当化する気持ちがあればアタシのマスターはアンタを失格にする準備があった」
「要するにアンタは合格なんデスよ、フラン。別に今日は誕生日じゃないけどおめでとうデス」
やっぱりこの本、何言ってるか分かんないです。
「ありがとうございます、喜んでいいらしいので喜ぶことにします。それで、これから私はどうなるのでしょうか?」
私は今、このストーリーのテンポ感を良くするために必死です。もう少し辛抱して付き合ってください。
「フラン、アンタは魔女になったデスよ。これから魔女として生きていく
デス」
最悪です。あんだけ魔女になるなと言われて育ったのに、お父さんお母さんごめんなさい。あ、お母さんも魔女だった。。
「これから私は罪人として魔女裁判にかけられ焼かれるということですか?」
自分のことなのに他人のことのように感じます。これはきっと、この世界に長くいすぎたせいです。
「ハイかイイエで答えるならイイエ、デスよ。せっかく魔女として大成したのに焼かれちゃ困るデスよ!人間はすぐ魔女を焼きたがるから本当に迷惑デス!まぁ本物の魔女が焼かれるケースは珍しいんデスけどね。
魔女裁判、魔女狩りで焼かれている人間の99%はそのコミュニティ…まぁ村とか街とか国のことデス…そこで都合の悪いあるいは都合の良い人が理由つけて焼かれてるだけデス。この情報に大した意味は無いようでいて実はとてもアンタに関係のある話だからよく聞くデス」
分かりました。
「アンタの母親はホンモノの魔女。それが焼かれたとあってはとても都合が悪い!魔女は世界を護るため必要な存在。歴史上、人を救ったことで名を残した女性が沢山いるでしょ?あの子たちはみんな魔女なんデスよ!知ってた?その事を」
知らなかった。聖母とかみんな魔女なんだ。本当に?
「アンタはアンタの母親、Zoe Mirrorの後釜としてこれから人間、はたまた世界を護る魔女としてアタシと行動してもらう
デス」
何やら大きな話になってきた。
魔女と言われても手から炎、氷、饅頭とか出ないし大地や海を割ったり出来ないはずなんで、何ができるのか?分からない。
「私は魔女になったと聞きましたが、私はどんな魔法が使えるんでしょうか?」
「アンタはアタシに記されている歴史上存在するありとあらゆる魔法が使えるデス。本来は」
「本来は?というと?」
「今はなんも使えんデス。ハッキリ言って、魔女としてゴミ以下デスよ。
アンタはアタシに記されてないアンタにしか使えない魔法が1個だけあるデス、それを使ってたくさんの人を助けるデス!さすればアタシに記されている魔法がやがて全て使えるようになる!とマスターが言ってた
デス」
私にしか使えない魔法?心当たりがないんですがGame○とかワ○ップに書いてあるんですか?
「別になんの魔法も使いたいと思わない、何かになりたいという想いとか何もないんですけど。せめて生きる意味は欲しいです。モアレさん、私が使える魔法ってなんでしょうか?」
「それはアンタで考えなさい。実はそんなに難しくなくて、でもそれはこの世で最強の魔法なんデスから」
レベル1だけど魔王倒せるかな。
あんまり理解は追いつかないけど。
私は生きる意味が欲しくて、これから世界を護ることにしました。
2018年にコミティアで魔女部として参加して頒布した漫画のお話の続き(時系列的には過去から)です。
あの時生まれて初めて漫画を描いたのですが続編がなかなか描けず2023年になってしまったのでこの度小説という形で続きを書くことにしました。
眠れない夜のお供になれるお話を目指して書きますのでよろしくお願いします!