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「この空に」(In this Sky):響生×塁生

#慰霊日にショートショートをNo.1『見っけ、この名もなき感情(おと)』(Mikke,this white sound of feeling)

作者: しおね ゆこ

2020/7/18(土)京都アニメーション放火殺人事件から一年の日 公開

【URL】

▶︎(https://ncode.syosetu.com/n4361ie/)

▶︎(https://note.com/amioritumugi/n/n26dcb533e8c9)

【関連作品】

「この空に」シリーズ

 「好きです。」

ゴミ捨てをするために校舎裏に来た私の耳に、女の子の声が聴こえた。思わず、壁に身体を寄せ、顔だけそっと覗かせる。

女の子の背中の向こうに見えたのは➖野球のユニフォームを着て、野球帽を被っている➖塁生だった。

心臓が嫌な音を立てた。

塁生の答えが気になった。幼馴染で、それ以上の想いなんて抱いていないのに、幼馴染の恋路が気になる、というわけでもなく。

「➖ごめん。」

塁生の声が聴こえた。

「気持ちは嬉しいよ。だけど、俺は……。」

「他に好きな人がいるの?」

その問いの答えが、否定されるものであることを、なぜか望んでいた。別に塁生の恋路なんて、どうでもいいのに。

「いや…そういうわけじゃないんだけど……でも…ごめん。」

塁生の答えに、なぜか安堵の感情を抱いている自分がいた。

「そっか。ごめんね、付き合わせちゃって。」

タタタ、と地面の砂を蹴る音が聴こえ、涙を散らしながら、女の子が走り去った。

間近で見た青春に、あえかな憧れを覚える。

「…お前、聞いてたの。」

塁生の声に顔を上げる。感情を滅多に表に出さない塁生の、少し不機嫌さを滲ませた声に、思わず謝罪の言葉を口にする。

「ごめん!偶然、ゴミ捨てに来たら…」

右手に持ったゴミ袋を見せる。缶とペットボトルが、揺れ、互いにぶつかる音が鳴った。

「➖お前には、聞いてほしくなかった。」

それだけ言って立ち去る塁生の背中を、私は追いかけなかった。


 ニューヨークで借りている家のリビングでコーヒーを飲みながら、テレビのニュース番組を何の気なしに眺める。

日本を発つ直前に響生に言われた言葉を、身体の中にしっとりと取り込むように、思い浮かべる。 

本当は、その言葉を言われた瞬間に、自分の答えに気が付いていた。

だけど、たった今気付いたこれまでの感情を、すぐに伝えるというのは、自分の中では確信であっても、相手にはどうしても早計だと思われてしまう。だから、今度の帰国の際に伝えようと、そう言葉を返してしまった。

高3のある日、告白されているところを偶然聞かれてしまった時、あの時、自分はもう響生のことを好いていた。幼馴染という枠に囚われ、その感情の意味に気付かないように、無理矢理、芽吹いた感情を身体にしまい込んでいた。

ゴミ袋を片手に持つ響生の姿を目に留め、聞かれていたことが分かった時、➖自分が片想いをしている子に聞かれてしまったということに、とてつもなく〝嫌だ〟という感情が支配していたことを、ようやく今、理解した。

あの時に自分の感情に気が付けていたら、響生に告白された時にすぐに答えていたら、➖結果は違ったのかもしれない。

 機体は異常なほど激しく揺れている。ノートから紙を一枚、破りとり、机に剥がされまいとしがみ付き、ボールペンを紙に押し付けるように、自分の答えを綴る。

これが正解なのかは分からない。

この手紙が響生のもとに渡ったとすれば、それはすなわち己の死を意味し、永遠に叶うことのない感情で、響生を一生、苦しめるかもしれないということになる。

忘れてほしくない、響生の横に別の誰かが来てほしくない、別の誰かを想ってほしくない、でも、苦しんでほしくはなかった。

ああでも、自分がその横にいたい、響生の横にいたい、ずっと響生の横にいたい、ああ、好きだ、好きだ。

「響生!」

ペットボトルを握り締める。

衝撃が身体を引き裂いた。

【登場人物】

○高瀬 響生(たかせ ひびき/Hibiki Takase)

●桐早 塁生(きりはや るい/Rui Kirihaya)

【バックグラウンドイメージ】

【補足】

◎タイトルについて

「見っけ」は、バンド・スピッツ(spitz)のアルバムから。

【原案誕生時期】

2020年3月頃

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