辺境伯令嬢の断罪
「レイ=マクスウェル嬢!貴殿との婚約を破棄する!」
そう声を張り上げたのは、ライング王国の王太子で
私の婚約者である、ドゥルノ=ライング様その人だ
「ドゥルノ様、何故そこに至ったのか教えて下さい。」
「それは貴殿が「辺境伯」などという、西方の
田舎者だからだ!それに私には新たな婚約者がいる」
確認を取ると、したり顔で返答が来ましたが
全くもって理解できません。
「エリー=グランクラス嬢こちらへ」
ほう、グランクラスとは東方の公爵家ですか。
「私の婚約者はこのエリーとなった、公爵家の
長女で家格も申し分ない!貴殿のような
田舎辺境伯とは違うのだ」
はぁ、まあどうでもいいですわ。
「それで、ドゥルノ様?陛下は勿論ご存じなのですね?」
「今は陛下に確認はとっておらん!が、しかし
承認されるであろう、東方の英雄グランクラス家
が相手であればな!」
頭が痛くなって来ましたわ、このアホ王太子
さて、皆様私はレイ=マクスウェルと申します。
西方を治める辺境伯の長女です。
ドゥルノ様の婚約者でもあります、そもそもこの婚約には
私の祖父である、ビクトル=マクスウェルと
先代の王、ドゥ=ライングが決めた、それはそれは
強固な約束だったのですが。
そもそも、東方の公爵家である、グランクラス家は
一代前に謀反で捕まった、とある公爵家を
追い詰めて得た爵位で、今代のアルマナ=ライング王が
与えた要は新興貴族でしか無いのです。
領地も旧公爵領をそのまま移管された形ですし。
何だかきな臭いお家柄なのです。
一方我がマクスウェル辺境伯領は
外部からは西端のど田舎辺境伯として有名で
特にライング王国西側諸領は未発展地域と呼ばれています
しかしそれは偽りの姿で現王国の文明の遥か先
数100年は先の文明を持っているのです。
なぜそんな事が起こっているか
それは祖父のビクトルに別次元の知識が
あったからだと言われています。
お祖父様は
「多分俺は転生者か転移者だったんだな」
と言っておられましたが、あまり詳しくは
わかっておりません。
そしてそんな私ですから
そもそもこの時代遅れの話し方、格好が
仮装のようで堪らないのです。
お祖父様との約束ですから
こんな時代錯誤もいい所の王国中枢に来ましたのに
ドゥルノ様には嫌われてしまいましたから
もういいでしょう。
「聞いているのか!?マクスウェル嬢」
「あら、すみません、ぼーっとしておりました。
婚約破棄でしたか?」
ドゥルノ様は顔を真っ赤にして怒り顔で
「そうだ!田舎者は自分の立場を弁えろ!
そしてこの王城からさっさと消え去るがいい」
言われなくても、さっさと出て行くわ
こんなショボい集まり、家に帰ってゲームでも
やってた方が全然マシだわ
おっと、素が出て来てしまいました。
では、さっさとお暇する事にしましょう。
「わかりました、邪魔者は消え去ります。
どうかお幸せに。」
「ふん、貴殿の祝福などいらん。
あ、そうだ、言い忘れていたが、今しがた
グランクラス家と王国王太子軍50万の兵が
西側諸領を攻め立てているぞ
果たしておまえの帰る場所はあるかな?」
へぇ、このクソガキとアバズレ随分な事をしてくれた
みたいだね、父さんに電話でもしてみようか
そうして私は広間を出た先で滑稽なドレスを脱ぎ捨て
ポケットからスマホを取り出した。
「あ、パパ?なんかドゥルノが兵を放ったとか
言ってるんだけど、メルデスさんの所とか大丈夫?」
「ああ、レイ、心配するな、第一門は破られたが
第二門は全く無傷だ、まあ所詮は数だけだし
頃合いを見計らって、王家に色々償ってもらうよ」
「良かった、あと私って帰りどうしたらいい?」
「飛行機で帰っておいで、魔力船を送ったから
もう着くはずだよ。」
「ありがとう!それならすぐ帰れるわね」
そして私は魔力船という名の飛行機に乗り、帰路についた
途中西の第二門の上空を通過してもらったけど、
人が密集してて、黒くなってて笑えた。
一方レイが出て行ったあとの広間
「ドゥルノ様、西側諸領の状況ですが、第一門は
早速陥落させる事が出来ました。現在は
第二門の攻略中です!」
「そうか、私はこの後エリー嬢と共にグランクラス卿
に会いに行ってくる。後のことは任せるぞ。」
報告に来た側近にそう言い残し、広間の奥へと
二人は消えて行く。
「ドゥルノ様、私嬉しいですわ。これでドゥルノ様に
ご恩を返すことができるようになるのですね。」
「陞爵した事の礼なら、もう既にもらっているぞ
私は心優しいエリー嬢を愛している。」
二人の間に生暖かい空間が出来ている。
侍従達は全く立ち入ることができない。
そうだとドゥルノは側近を呼びつけ
「レイはエリー嬢へ不敬を働いた、反逆者だと
貴族と市井にばら撒け、あることない事
付け加えて構わん!」
そうしてレイの悪名を轟かせようとした数日後
「何をやっているんだ!!第二門の攻略に
何日かかっているんだ!!」
部下を叱責していると、城が揺れる程の爆音が
鳴り響いた。
「何事だ!!」
「はっ!長距離攻撃を受けた模様で、殿下の部屋が
消失しました!」
「何をわけのわからんことを・・・」
「おいおい?このクソガキ、ライング王国は
今日を持って亡国だ、俺を怒らせちまったからな」
ドゥルノが振り返るとそこには一人の老人が立っていた
その老人こそ、レイの祖父
ビクトル=マクスウェルその人だった。
「なんだ貴様ぁ!不敬だ!この者を捕えろ!」
しかし兵は皆動かなかった。
「何をしている!!早く取り押さえろ!」
「出来ません!!」
一人の兵士が声を張り上げて反論した。
「何ができませんだ!!こいつを始末しろ!」
しかし兵は誰一人動かない。
「一体何をしている!!貴様らぁ!!」
ビクトルが前に出る
「おいクソガキ、お前の親父はすでにこの国を
見限ったんだよ、西の地を新たなライング王国に
するんだと。王都から東側、旧ライング王国は
おまえとグランクラス家に任せるってよ。」
ドゥルノは更に顔を真っ赤にして叫んだ
「貴様らぁ!聞いたか!今この時をもって
私がライング王国の国王だ!
ならば陛下たる私の命令は絶対だ!
その老人を今すぐに屠れ!!」
しかし兵士は動かない
「出来るわけがないでしょう?」
ドゥルノが声をする方を見ると
「インフェルノ!どう言う事だ!!」
インフェルノは国王の近衛兵長である
「このお方がどのような方か本当に
ご存じないのですか?」
「だから誰なんだこのジジィは!?」
インフェルノは目を瞑りやれやれといった
ジェスチャーをする
兵士達はドゥルノを信じられないという目で
見ている。
「ビクトル=マクスウェル、あなたが婚約を破棄した
マクスウェル嬢の祖父ですよ、そしてこの方こそが
王国を西の魔境から救ってくれた英雄なのです。
まさか王太子教育を受けながらそんな事も
知らなかったのですか?」
ドゥルノは何を言われているかわからない
「西の魔境?英雄?何のことだ?
西にはマクスウェル辺境伯領があって
そこが世界の西の果て、ど田舎の無能な
領主が治める場所だろ?」
ここに来て初めてインフェルノがグランクラス卿に
目をやる。
「グランクラス卿?これはどういう事か説明が
できるかな?」
グランクラス卿は真っ青な顔をして
「王太子、、いや国王様は錯乱しているのでしょう
教育は間違えなく終えられているのだから」
「ま、どっちでもいいや、無くなるんだからな?
そうだろ?グランクラスのガキ。穏健派の息子
ジョン=マクスウェルなら、何とかやり込められる
と思ってたんだろ?」
顔の青いグランクラス卿は返事もままならない
「あ、う、そ、そんなことは」
無視してビクトルは続ける
「しかし、そこのクソガキがやらかしたな
俺の可愛い孫の変な噂を流しやがった。
俺を怒らせたんだよ。
ま、せいぜいあと少しの命を楽しみな」
そう言って、ゲートみたいな場所に消えて行く
ビクトルとインフェルノ、そして兵士達
残ったのはドゥルノとグランクラス卿、その側近
「くそーー!とことんやってやる、、、」
どがしゃーーーーーん!
「な、なんの音だ!!」
この日、旧ライング王国の王都は地図上から
その姿を消した、わずか10分の出来事だった。
ライング王国の王都が地図上から消える少し前
「お父さん!本当にここまでやるのか?」
ビクトルは物凄く悪い顔をしながら
「ジョン、俺をキレさせたやつが今まで
どうなって来たか、忘れたわけじゃねぇよな?」
「それはそうだけど、アルマナ様、本当に
いいんですか?」
国王であるアルマナは笑いながら言う
「ジョン殿、もうあんな国は必要無かろう
王都より西側の領よりも数世代も遅れた文明など
必要ない、ビクトル殿やメルデス殿が遷都を
申し出てくれたのだ、私は恥を背負いながら
国王として君臨するよ」
ジョンはゲンナリしながらビクトルへと目を向ける
「お父さん、レイは今空港に着いたみたいだ
で?本当にやるのか?」
「くどい!速攻で落とす!」
確かに、レイをこき下ろした、ドゥルノのガキと
グランクラス家は許しておけん!
しかしこの戦力はやりすぎだ
外に並んでいる兵器はたった10機
5機は超長距離用の砲撃機でそのうち2機は
超長距離広域戦略機バハムートだ。
残りの3機は超長距離精密射撃用オーディン
初撃でドゥルノの部屋を消失させたのは
こいつだ。
さらに残りの5機は殲滅兵器だ
はっきり言ってこの兵器を使う機会は無いと思っていた
今までどんなにキレようとこいつまで出したことはない
超広域殲滅兵器メギドと名付けられている。
いや、お父さん。世界を滅ぼすつもりか?
「よし!オーディンで主要拠点を叩いたら
王都とグランクラス領、それから東の帝国に
バハムートを発動。」
「はっ!承知いたしました!」
「メギドは俺の転移陣で第二門の下に直付けする
敵が攻撃を止めた夜に移動して、翌朝の開戦と
同時に、両翼の端を発動、その5分後にその内側が
発動、最後にさらに5分後に中央を発動。
中央が発動したのち、1分後に一斉掃射だ」
「はっ!メギド隊!承知しました!」
そして、オーディンとバハムートの攻撃が始まった。
私が家に帰って来たら、凄いことになってた。
じいちゃんがキレてバハムートとオーディン、そして
メギドを発動しようとしていた。
「おじいちゃん!お父さん!ただいま!」
二人は凄い笑顔で
「おかえり!」
と言ってくれた。
「レイ、じいちゃんが今からゴミを掃除してやるからな」
そして攻撃が始まった、様子はテレビに映し出されて
良く見えている。
オーディンの一斉掃射は寸分の狂いなく
王都とグランクラス領の主要拠点を潰していく。
誤射など皆無、無慈悲にただ狙われた場所は
崩れ落ちていく。
これをおじいちゃんは
「行け!グングニール!」
と言いながら嗤っていたのが印象的だった。
あらかたオーディンでの攻撃が終わると
次はバハムートだ。
これも凄まじい、おじいちゃんが号令をかける
「バーストノヴァ!発射だ!」
轟音と共にマクスウェル領から発射された
バーストノヴァはわずか数秒で王都とグランクラス領
領都へと達し、そして、大爆発!
「わははは!見たか!大馬鹿者共が!
誰に喧嘩売ったかよく考えやがれ!」
そして王都は陥落、グランクラス領都も跡形もなく
吹き飛びました。とある3人を除いては、ですが。
王都とグランクラス領都が消し飛んだ日の夜
俺とグランクラス卿、エリーは50万の兵がいる
第二門の前線基地まで来ていた。
「ほ、本当ですか?信じられません!王都が陥落など」
軍を率いていた将軍がそう漏らす
「本当だ、私たちだけ何故かこうして生きていた」
「だからこうして前線に赴き、このまま新王都を
奪取してやろうという事だ、して戦況は?」
どうにも第二門が硬すぎて、なかなか攻め立てられない
との事だったが、ドゥルノとグランクラス卿が来た事で
士気も上がり、いけるだろうと話をして就寝
翌朝
「今日もこちらから攻め立てろ!!突撃だ!!」
と指示を飛ばした次の瞬間、眩い光と轟音が
両翼を包んだ。3分後には伝令が駆けつけ
「謎の広域攻撃を確認!両翼の10万が消滅しました!」
この報告には絶句、そして指示も出せないまま
前の攻撃から5分が過ぎたころ。
再び眩い光と轟音が両翼のさらに中央に近い所を
通り抜けた。
「さ、、左右再び15万が消滅!」
もう、皆絶句、その5分後目の前に閃光を確認し
25万の兵が消滅
「ビクトル様!敵消滅を確認!一斉掃射は
いかがしますか?」
「こちらビクトルだ、一斉掃射は不要だ!帰還せよ」
「了解!これより帰還の準備に入る!
5分後に転移門の発動をお願いします」
「了解、5分後に転移門を起動する。」
こうしてグランクラス家と王国王太子軍は
一瞬にして消滅した。
辺境伯の令嬢を婚約破棄で辱めれば、こうなるのだ
という事をまざまざと見せつけた。
そしてその辺境伯令嬢は見事に結婚して
幸せな生活を送ることになるのだが
それはまた別のお話