プロローグ・俺ノニチジョウ 2
「ったく、毎日毎日、俺はお前のせいで命の危機だッ!…聞いてんのか、流星!!!」
「…え?あ、うん、聞いてる聞いてる…ガリッガリッ君の当たり棒についての話だよね?」
「聞けよ、俺の話ッッッ!!!!!」
自転車置き場に愛用のママチャリをおきながら、クソ寒い空の下で、親友は朝っぱらからガリッガリッ君なるソーダ味のアイスをほおばっていた。
「やっぱりアイスはうめーよ。このクソ寒い時期に食べるって言うのがこりゃまた通のた・べ・か・た!」
「いい加減クルクル回りながら俺に語るのやめてくれる?」
バレエダンサーのように学ランを着た男子学生がクルクルと回って玄関へ向かうというなんとも奇妙な光景を横目に、俺はずかずかとズボンのポケットに寒さで細かい動きができなくなった手を突っ込んで、親友と同じ場所へ向かっていると。
「おーっす、潮、流星ー」
「うーくんりゅーちゃんおっはよー」
「…はよ」
後ろから個性豊かな仲間たちが声をかけてきた。
「ちーっす、緑、亮太、和真…。とりあえずあいつを止めてくれ」
とりあえず俺は、絶賛回転中の親友を止めてもらおうとSOSを出してみた。…あいつを止めるのは一人じゃ無理だ。…昨日なんかは花壇に止めに入った俺も一緒に突っ込んで、生徒指導の前木に説教されたばっかりだ。(もちろん、『バレエダンサーを志してクルクル回っていた』と言い訳したところ、さらに怒られ、説教の時間が10分延長になった。)
「…いやいや、やめといた方がいい…と、俺は思いますー、マル」
ちょっとふざけた口調で話すこいつは、朝日奈緑。俺や流星とは違い、きっちり学ランを着た優等生。…に、見えるが、悪戯好きで趣味は落とし穴掘りという、ちょーっとおバカなヤツ。最近は教育実習で来た、英語科担当の若い大学生に心を奪われた…と、作文に書いてきた。
「ボクもみどりんにさんせーッ」
手をビシッ!と挙げて、ニコニコ笑っているのは、久留間亮太。俺たちに比べて、身長はちいさく、時々、中学生に間違えられる。よく俺によじ登って肩車を(勝手に)される。学ランの下のフード付のトレーナーには、ふわふわのなんかの毛がついていた。
「…まぁ、ほっとくのが一番、だ」
こいつは村昌和真。いつも寝むそうに目をこすっている。たぶん俺たちの中で一番もてるのはこいつだと思う。…去年のバレンタインでは、84個という驚異的な数のチョコをもらい、すべて食べようとしたところ、すごい数のため持って帰れなくなり、泣く泣くチョコを女神たちから与えられなかったクラスの野郎共に分けた…。という逸話が俺の日記に残っている。
馬鹿で、ふざけていて、お世辞にも良い子と言えない俺たち。
でも、こんな仲間たちがいてくれたから、俺は充実した毎日が送れている、俺は流星がクルクル回転したまま登校中のやつらをなぎ倒していく姿を見ながらそう思った。
「…ってかいい加減止まれぇ!流星ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーッ!!!」