第6話 村上幽連の策略
「ワシ・村上幽連がそなたたちを助けるために、参上つかまつっっった!!!」
ワシは見得を切り、ここに宣言した。
ワシの宣言に、ぽかんとした表情を浮かべるエルフたち。
「じゅれほじぁたゆふげれれ」
気がつくと、私の背でミレイが何やら、不思議な言語でエルフたちと話していた。
「ぬたふふぁぶゔぇ」
エルフたちは、納得したように頷き、ミレイの両手を握る。
ミレイは、満足そうな表情を浮かべると、両手に光を集め、エルフたちを拘束している手錠の鍵を作り出す。
うわ。そうだった。ミレイは、なんでも作れる最強美少女だった。
そうも、こうも考えていると、怒り心頭のゴブリンが起き上がって、ワシに殴り掛かってくる。
不意の攻撃に肩を透かしてかわすと、間抜けに見せたお尻を蹴り飛ばす。
ワシはミレイに声をかける。
「他に捕まっている者たちはおるか?」
「ええ、彼女たちの足元の地下牢の中よ」
そう言われ、ワシはすぐさま、エルフが入っていた牢屋の足元の藁をかき分ける。
すると、畳一畳分ほどの、鉄格子が確認できた。
ワシは、ミレイに目配せをして合図する。
せーの。
ミレイに手前の錠前を解除してもらうと、重い鉄格子をどかすために、二人で力を合わせて持ち上げた。
すると、月明かりで照らされた階段が見え、ワシたちは、ゴブリンが集まってくる前に救出しようと、中に入り込んだ。
ワシが奥にいるであろうエルフたちを救出しようと、勢い良く、階段に踏み込んだ瞬間に、石畳にコケが生えていることに気づかず、足を滑らす。
いて。
うぉぉ
ワシは足から滑り落ちる形でエルフの元まで辿り着く。
「ぬぬゔふぉ」
月明かりのおかげで、収容されていた見える範囲のエルフたちが怪訝そうな顔つきでこちらを眺める。
まるで、初めてこんな奴を見たという顔つきで。
そっか。ワシは異世界人じゃった。
ワシは立ち上がり、身振り手振りで、必死に彼女たちに今の状況を伝えようとする。
”ここから逃げよう。敵が集まる前に。と。”
エルフたちは、尖った耳を動かしながら、興味津々で、こちらのジェスチャーを食い入るように眺める。
だめだ。伝わってない。
「びっくりした。急に目の前でコケるんだもん」
遅れて、ミレイが地下牢へ到着する。
相当、手間暇をかけずに作ったものなのか、必要最低限のスペースしかないこの場所は、手を伸ばせば、誰かに当たるというくらい狭い環境だった。
これでは、いつか精神もオカシクなってしまいそうだ。
「ミレイ。ここから、逃げると通訳をしてくれぬか?」
ああ。そうね。ミレイはそう言うと、エルフたちに話しかける。
「ここふじょぶべっれ」
ミレイがエルフたちに話しかけると、エルフたちは、うんうん。と頷き、ミレイと握手を交わす。
エルフたちは、現状を飲み込み、感謝を表しているようだった。
「さあ。いくわよ」
ミレイがそう口にした瞬間だった。
ゴブリンの笑い声とともに、鉄格子ではなく、漆黒の鉄板で出口を塞がれる。
ワシの視界は、ドスンという出口に蓋をした物音ともに一瞬で真っ暗になった。
エルフたちは、急に口々に話だし、パニック状態に陥っているのだと、ワシは認識する。
うぉ。
誰かが、ワシを肘で小突いた。
まるで、おしくらまんじゅうをしているときのように、自分の身体は外部の力に流され、ワシは前につんのめる。
きゃあ。
声が前方から聞こえたかと思うと、ワシは地面の冷たい感触ではなく、温もりのある皮膚の体温を両手に感じる。
ワシもその訳がわからない状況に、頭が一杯になり、体を動かす。
ちょっと。
あぅ。
やめて。
ワシはその甘美な響きに、何がどうなっているのか分からなくなる。
もはや、自分がいま、どんな体勢で。
彼女のなにを触ってしまっているのか。
なにがどうなっているのじゃ。
ワシは急いで、その状況を回避しようと、手を自分の肩幅より広い、違う部分に置くと、また、何かに触れてしまう。
んぁ。
むむむむ。なにが、なんだかわからん。
ワシは、変な気分になってしまいそうで、その場で立ち上がる。
いぅ。
今度は、後ろから声がする。
「すまん」
わしは急いで謝り、ここが、どこか確認するために、せめて、位置を確認することが必要だと、感じ、両手を広げる。
あっ
また、なにか柔らかいものに触ってしまった。
「ちょっと、さっきから何してんのよ。エルフたちが困ってるじゃない」
真横から、ワシの背中を叩いてくるミレイの声が聞こえる。
「な、何も、見えんのじゃ。わ、悪気は無いぞ。決して」
ワシは見えないながらも、首を横に振り、気持ちが伝われば良いと、一生懸命にアピールする。
「み、見えないの?わざとかと思った」
じゃあ、こっち向いて。そう言って、ミレイはワシの両腕を引っ張る。
ワシは、半ば目隠しされたような気分で、ミレイの声をする方向に体を向ける。
「ど、どうする?」
「塞がれた場所を確認したんだけど、かなり重いもので蓋をされているのか、びくともしなかった」
「さっき、美女たちが行った転移は使えんのか?」
「使えない。魔力が足りなくて。あなた一人ならまだしも、この人数を運ぶのは無理」
そして、しばらくすると、変な匂いがこの空間に漂っていることに気づく。
「なんか、臭わんか?」
煙臭い匂いにワシは嫌な予感がする。
周囲をかき分ける音と、あっという声が聞こえたあとに、ワシのもとに駆け寄ってくる声が聞こえる。
「この空間の隅に鉄製のパイプで作られた穴が空いていて、そこから、煙が出てたわ。結構、勢いもすごくて、穴塞ごうと周りの土をかき集めても吹き飛ばされちゃうし、手で塞げるサイズでもなかった。私達、結構やばいわ」
どうする?
といったようなニュアンスで解説し、目の見えないワシに応援を頼むミレイ。
「脱出するしかないじゃろ。」
ワシはわかりきったように、そう答える。
そして、段々と記憶が朦朧とする中、ワシは身の危険を感じながら、ミレイに問いかける。
「どうすれば、魔力は増えるのじゃ?エルフに供給をしてもらうとか、何か、栄養を摂取するとか方法は無いのか?」
「後者なら可能だわ」
ミレイは、もう時間がないというのにしばらく口をつぐんで一考してから答える。
「で、では、どうすればよいのじゃ?自分で前みたいに豆を摂取すれば良いとかなら、簡単にできそうじゃが」
「それは、無理よ。自分以外の誰かが生成したものでないと難しいわ」
「すまん、ミレイ。ワシはそなたのように、身体が強くないのじゃ。時間がない。焦らさないで早く答えてもらえないかの」
ワシは、前にいるであろうミレイに寄りかかり、休憩する。
「で、でもそれは。。姉ちゃんに何て、言えばいいのかわからない。」
ミレイは次の言葉を発するのに、抵抗する。
「死んでしまったら、元も子もないじゃろ。」
ワシは、何に躊躇してるのか、分からないと。
今はそんなことを考えている場合じゃないと。
一生懸命に伝える。
「私を。わたしを。。興奮させてくれれば、魔力が増えるわ」
ミレイは恥ずかしそうに、そう答える。
うむ。わかった。
ワシは己の身に迫る焦燥感から、すぐにミレイの体に手を伸ばす。
掴んでもらっていた腕の位置を頼りに彼女の胸らしきものを触る。
パン。
その瞬間、飛んできたのは、ワシの頬を打つビンタだった。
ワシはその勢いに思わずのけぞる。
「&%$#”&#%”#$。」
その衝撃音に驚いたのか、周囲からノイズのようなざわめき声が発生する。
朦朧としていた頭が急に冷える。
ど、どうして。
「駄目よ。そんなんじゃ。」
ミレイは、落ち着いた口調でワシの胸ぐらをつかんで、自分の声がどとく範囲にワシの体を寄せる。
そして、ワシの耳元で囁く。
「言ったでしょ。私を興奮させてほしいって」
そして、自覚する。
ワシは、言うまでもなく。この状況に興奮していると。
しかし、彼女は、おそらく夜目がきくため、同じ状況だと感じていない。
冷静なミレイと、焦るワシ。
その状態が問題だった。
ワシは直感的に、武具を外し始め、何か、目を隠せるものはないかと、自分の身につけているものを触り、急ぎ、探し始める。
武具や上に羽織っている鎖帷子を脱ぎ捨てたときにようやく気づく。
ふんどしがあると。
ワシは急いで、ふんどしを脱ぎ、漂う匂いに目を瞑りながら、彼女の体を探し、頭がある位置に、ふんどしを巻き始める。
「ちょ、何するの。何も見えないじゃない。。え、臭いし」
ミレイの焦った声が、空間内に響き渡る。
エルフたちはその様子を黙ってみていた。この異様な情景を最後まで見守ろうと。
ワシはその空気を肌に感じながら、腰に巻いていた着物の帯を取り出し、勢い良くかの彼女の両腕を縛る。
「何考えているの?死ぬ気?これじゃ、魔法も使えないじゃない」
焦るミレイの声が地下空間から反射して聞こえる。
「うるさい。黙っておれ」
ワシは、耳元でそう囁いて、ゆっくりと彼女の体と密着させる。
なにをぉ。する気なの。
ミレイは弱々しく、そう囁く。
彼女の吐息が漏れるのを感じる。
その吐息をワシは顔面で受け、温かいぬくもりを感じる。
そして、まだ足りないと感じ、周囲に手を伸ばして、エルフの腕を捕まえる。
わしはその手を彼女の体へと誘導し、触らせる。
あなたの手の平の感触。とても優しくて柔らかいわ。
「床に座れるかのぉ」
ワシが耳元でそう話しかけると、ミレイは、うん。と静かに同意を示し、その場でお尻を着く。
ワシは、声の主が遠ざかるのを感じて、腰の位置になった彼女の頭をなでて、胸元から手をしのばせる。
んんっ。
彼女の声のみが広がる空間は、異様にムードに包まれていた。
さっきとは、一段変化した声のトーンと、反応する身体の隆起にワシはうまく行っていると、自覚する。
しかし、もう時間切れだった。
わしの意識はだんだんと遠のく。
もう少し、粘らなければ、と頭の中では考えつつも、身体が言うことを効かなくなっていた。
「ミレイ。すまん」
ワシはかろうじて、胸元から、彼女の頬に片手を伸ばして、優しく触れて、そう告げる。
もう時間切れじゃと。
ワシが力なく地面に両膝をついたとき、ビシャっという音が耳にかすかに聞こえ、ワシの意識が消える直前、ワシの帯をエルフが炎で燃やし、ほのかにオレンジ色の明かりで周囲が照らされる。
そこには、恍惚とした表情の色気の漂うミレイの姿があった。
ワシは続きを楽しめないことを、この上なく悔しがりながら、意識が遠のき、瞳を閉じた。