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遊楽生活@異世界にて  作者: YaTaro
4/12

第4話 籠城戦

 ワシはいくつもの、戦をくぐり抜けてきた。


 道のりは、険しかった。常に、自らが所持している手勢は満足言えるほどではなかったし、物資の量や、戦力で差がついている戦も多くあった。


 そのため、わしが繰り出した戦術は、どれも夜襲や、地形を利用した誘い込み、または、城を使った節約戦法など、一対一の状況を避けつつ、確実に勝利を収めていく手法が多かった。


 まさに、今の状況「籠城戦」というものは、ワシの常套手段中の常套手段だった。


 籠城戦を単に、守りを固めた耐久勝負と思ってもらっては困る。

 事実として、耐久勝負というのは、確かなのだが、通常の勝ち戦は、その先の展開を見越して、籠城戦に入る。


 その先の展開。

 つまりは、味方が着くまでの時間稼ぎ。

 または、敵に不利な条件が訪れるまでの時間稼ぎ。


 または、心理的な油断を利用した奇襲など。


 敵に応じて、守りの戦術と、裏をかく戦術を使い分ける。


 これが、籠城戦じゃ。



 よって、ワシは、急遽、間借りしたサキュパスの城の作戦立案室で、ココらへんの地形が書かれてある大きな地図に、印をつけていく。


 そう。まずは。


「ミレイ。敵の情報を教えてもらえるか?」


「敵は、ケンタウロスと、ゴブリンの連合軍。合わせて、2万と言ったところ」


「2万か。それぞれの特徴は?」


「ケンタウロスは、馬の足に、人の胴体が一体になっている。魔物よ。すごく、足が早くて、剣術も得意。それと、かなりの怪力」

 ミレイは、難しそうな顔で、ケンタウロスの絵を書く。


 ああ。便器タウロスと同じなのだな。

 とわしが、冗談交じりにつぶやくと、横から、ミレイのグーパンチが脇腹を小突く。



「ゴブリンは、大柄と小柄と色んな種類の魔物がいて、体格によって、力量が違うわ。鉄の混紡を持っていて、こんな感じの魔物よ」

 ミレイはまた、どくとくなタッチでゴブリンの絵を書く。


 そして、軍勢をコマに見立てて、地図の上に配置していく。


 気持ち悪いな。この世界の妖怪は。

 鬼のような形相に、ワシの顔は引きつる。できれば、会いたくはない。


「では、次に。連合を組んだ敵の狙いは?」


「それは、もちろん。姉さんの身体よ」

「身体?首ではなくて?」

「ええ。身体よ。彼らは、姉さんのエロい身体欲しさに、この国に攻め入ってきたの」


 ワシが王妃様の露出度の高い王族の服装を見てしまったせいか、変な間があく。

 向かいにいたシオン王妃が家臣の影に隠れた。


「では、ワシたちの勝利条件は、全滅か、シオン王妃を守り抜いて、敵を殲滅というわけだな?ちなみに、こちらの手勢はどの程度おるのじゃ?」


「えっと、離反が増えたせいで、2千ほどしかいないわ」

 まさに、絶体絶命。

 ワシの額に冷や汗が流れる。


 ワシが少し、不安そうな顔つきをしていると、

 机を囲む家臣団に目を配ると、皆が、クスクス笑っていた。


「久しぶりの劣勢だな。」

 陽気な声で、古株の力自慢の文太は言う。

 そして、その表情を見て、思う。


 若返ったのは、ワシだけなのか。と。

 古株の文太は、40歳程度に見える。

 こちらに来る前と、変わったように見えない。


 むしろ、チラっと。

 弓の名手。長老の興隆の左手に立っている娘・紅花を見る。


 あれ、もしかして、興隆の娘さんと同い年になっちゃった。ワシ?


 なんだか。複雑な気持ちである。


 そして、また襲ってくる地震に一同が、フラつき、シオン王妃が怯えた表情をしているのが見て取れた。


「と、とにかく。一刻の猶予もないようだ。ワシと、ミレイ、直政は残って、ほかは、今いる手勢の応援に向かえ。作戦は、あとで伝える」


 承知。

 そういうと、ワシの家臣たちは、王宮の大臣たちに案内されて、戦場に赴いた。


 10分の1の戦力差を埋めるには、相当な労力を要する。

 大将級のものがいれば、可能だが。雑兵の大半は、そこまで力を有してはいない。


 何か、自分たちのリソース以外から、戦力を補強する必要がある。

 そう考える矢先に、軍師の直政が、ミレイに質問をする。


「つかぬことを御聞きいたしますが、サキュパスの軍隊というのは、どの程度強いのでしょうか?」


「そうね。もともと、戦闘に特化した種族ではないの。魔法を使って、他の国との力の均衡を保っていたから。私達の母が大魔法使いだったんだけど、亡くなってから、均衡が保てなくなったわ。王宮の魔法使いは、あなた達を呼びよせるために魔力を消耗してしまったし、今できることといえば、こんな事くらいだわ」

 ミレイはそういうと、なんだか呪文のようなものをつぶやくと、手のひらに紫色の光を集め、なにか物体を作り出した。


 ミレイが作り上げたのは、弓矢だった。

「私達は、想像したものを作り出せる力を持ってるの。もちろん、魔力は消費するけど、これくらいだったら、いくらでも作れるわ。」

 ほお、これはすごい。と、軍師・直政がミレイの作り出したものを眺める。


 しかし。


 そう、ワシは、思いを巡らせる。

 物質が作り出せたところで、人手不足が解消するわけではない。

 弓矢は放たれることなく。城内に貯まる一方だ。


「まさに、猫の手も借りたいといったところか」

 ワシは、少し肩を落とす。


 間違いなく劣勢。

 こんなに、劣勢の状況で戦ったことは無いのぉ。

 砲弾でまるで場内が撃たれているように、城が振動している。


 これは、なんだ?と横のミレイに話しかけると、巨人級のゴブリンが、近づいてきているとのこと。


 あっさり、凄いことを言ってくれる。


 城が踏み潰されるまで、一刻の猶予も無いということか。


 さっきから、汗ダクダクじゃ。

 冷や汗祭りじゃ。


 直政も厳しそうな顔をしている。

 ワシは、目を凝らして、何か地形にヒントが落ちていないかと、地図を読み取り始める。


 そして、この城から、5里ほど、離れた地点に川が流れていることに気づく。

 この川が氾濫すると、なれば、地形に沿って、ケンタウロスが攻め入っている平野に流れ込まれる。


 ケンタウロス。。。ミレイの絵から察するに。


 要するは、馬じゃろ。馬。


 馬なんじゃから、沼地は走れないはず。


 そして、横にいるミレイに聞く。

 最近の天候は、どうなんじゃと?


 ミレイは驚いた様子で、なんでそんなこと聞くの?と言いたげに、返事をする。


 ここ最近は、日照り続きよ。

 まぁ、私達は、食事とか別の手段で取れるから、関係ないけど。と。


 別の手段って。なんですか?と、そのまま聞きたくなかったが、きっと、魔物特有の手段だろうと、察してそれ以上深堀するのをやめる。


 直政。とわしが声をかけると返事をする。


「そうですね。もし、雨が降れば、河川が氾濫すれば、殿のご推察どおり、ケンタウロスの勢いは一気に落ちるでしょう。そして、その弓矢。丸太に変えられれば、さらに良いでしょうな」

 直政は、いつものように顎髭をいじりながら冷静に答える。


 さすが、直政じゃ。わしの思いを汲んでさらに、アイデアを足してくれる。


「なるほど、丸太ね。できるわよ。今は大きくはしないけど」

 ミレイは頷いて、手元の弓矢を小さい木の棒に変えてみせる。


 よしよし。

 わしは頷く。


 これで、籠城戦にすることの意味ができてきた。

 つまり、耐久戦の後にある、一発逆転。囲碁の盤上をひっくり返す作戦。


 そう、ワシたちはもう既に詰んでいるのだ。だから、そういう作戦がいる。


「天候が変わるまで、耐久できるかじゃな?」


「無理ね。」

 そうあっさり、ミレイは答える。


「あなたの世界では、どうなのかは、知らないけど、ここの地域は極端に雨量が少ないのよ。それこそ、神の運に頼るか、大魔法が使えない限りはあり得ないわ」


 うん?

 そして、ワシの長年の戦歴による勘というものがすぐさま働く。

 ワシたちの”おまんまは”と?


 食糧は無いのか?と。


 ミレイは、わしの表情から察するように答える。



「安心して、あなた達の食糧は確保してあるわ。言ったでしょ。私達は、なんでも作り出せるの。」

 そういうと、ミレイはまた、手のひらに紫色の光を集め、なにか物体を作り出した。

 ただし、生命以外は、と付け足して。


 そして、手の平の上に作り出したのは、豆のようなものだった。

「合成物質みたいなものよ。栄養にはなる」

 ミレイはそう言って、ワシに作り出したものを一つ渡し、食べてみろと、ジェスチャーしてみせる。


 ワシは、言われるがままに豆のようなものを口の中に放り込み、奥歯で噛んでみせる。

 豆が潰れる音がして、中から、液体のようなものが漏れ出したのが理解できた。


 いきなりだったので、思わず呑み込み。

 おえ。と嗚咽してみせる。


 苦い。と。


 なんじゃこれ。こんな不味いものがあるのか。戦時中だから、許そうと思うが、昆虫食のような味だった。

 たくさんあるから、よく食べてはいたが。。。



 そして、ふと、気になる。


 なぜ、ケンタウロスや、ゴブリンは繁殖をしているのかと。


 横にいるミレイに聞いてみる。

「サキュバスは、その、分かったんじゃが。ケンタウロスやゴブリンは、どのようにして、ご飯を食べておるのじゃ?」


「うーん。あいつらのことは、考えたくもないけど、きっと、共食いじゃない?」

 いや、でもこれでは、これだけの軍勢になっているだけの、理由が思い当たらない。


 そもそも、本当に、ここは日照りの国なのだろうか。

 ワシはそう考えながら、5里ほど離れた、川沿いを見る。

 干乾びているわけではないのに。


 。。なにも思いつかん。違和感だけが、頭の片隅に蔓延る。

 異世界特有なのだろうか?と。


 そして、さらにケンタウロスの攻略作戦を考える。


 現在、展開されている敵の軍勢は、中央に突破目的のケンタウロスの軍勢。さらに右翼と左翼に足は遅いが、ゴブリン部隊が控えている。


「ケンタウロスの指揮系統はどうなっておるのじゃ?」


「10人1組で、行動しているようだわ。分かりやすく頭に甲冑をつけているのが、そうだわ」

 そう言って、ミレイは、城の窓際に案内する。

 地上、3階ほどの場所に位置するこの部屋からは、ケンタウロスがこちらに走り込んでくるのが確認できる。


 あー。あれか。ケンタウロス。

 そして、その速さに驚く。そう。思ったより速い。ワシが所持している馬より速いと。

 しかし、やはり、小回りが利かないように見える。進み方も馬特有の片足が出ずっぱりの走法。


 そして、想像通り、一本だけ、まるで流れ星のような見惚れるような弧を描いて、飛んでいく弓矢がある。


 流石じゃな。いつ見ても、惚れ惚れする。


 おそらく、ワシの家臣。弓の名手。長老の興隆の弓矢であろう。


 指示を飛ばさなくても、察したのか、分かりやすく頭に甲冑をつけている大将格の胸・心臓あたりを撃ち抜いている。


 ワシの戦いはいつも、劣勢が多かったためか、大将格を見抜いて、急所を狙うことも多かった。


 射抜かれたケンタウロスは、次第に失速し、後続のケンタウロスを巻き込みながら、倒れる。

 目の前が把握できなかったケンタウロスは、玉突き事故のように、順番にコケていく。


 よしよし。わしは頷く。これで、しばらくは時間が稼げるだろうと。


 問題は、左翼と右翼に展開する巨人級のゴブリン2体。


 ざっと、15里ほど離れた距離にもかかわらず、でかい図体が確認できる。

 この部屋と、同じ目線ということは、3階建て分。


 このゴブリンが到着すれば、ひとたまりもない。ということは一目瞭然だった。


 気づけば、来た時間が遅かったせいか、巨人級のゴブリンの背に日が暮れそうな太陽が映る。


「夜は、どうしておるのじゃ?」


「夜は、彼らは夜目が効くから、攻めて来れるはずだけど、いまのところ来ないわ。まぁ、余裕で勝てる相手に夜通しで、攻めたりはしないわよね」


 なるほど。

 油断が生じていると、ワシは感じ取る。


 この戦に勝利するためには、盤上を狂わせる一手がいる。


 直政にまかせておけば、おそらく、水攻めや効率の良い軍の仕切りはやってくれるだろう。

 ワシは任せたぞ。と直政と目を合わせる。

 直政は、ハッと、頭を下げる。


 ミレイ。わしは声をかける。ワシはこちらの世界に来た瞬間に味わった。ピンク部屋の体験を思い出す。


「この城のとびっきりの美女10人を集めてくれ」

 ミレイは、ワシの思いついた作戦はなるべく避けてきたのに。と、嫌そうな顔をする。

 続いて、シオン王妃の表情を見ると、怪訝そうな顔をしている。


 ミレイは、仕方ないのね。と頷く。


「エロい身体欲しさに群がってきた、野獣共に一泡吹かせてやろうぞ。

 名付けて、牝馬撹乱作戦。」


 ワシはそう、啖呵を切ると、ミレイと、呼び寄せた忍者の半蔵と共に、美女に会いに、赴いた。



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