私たち、死なないの?
李は死の列車に運ばれた——
私は命綱を切られた気分にさせられ、悲痛の念に駆られた。
その場から動かなくなった私の緊張をほぐすように、冷たい手が触れてきた。生命の活気が失われたような、冷たい手が。
「在ちゃん、大丈夫?」
声と手の元は白だった。
「うん、でも李が・・・」
「大丈夫じゃなさそう。まずは息を大きく吸って。」
私は息を大きく吸った。
「吐いて。」
私は息を吐いた。私は自殺した李にあっけをとられたようだ。それにしても、彼女の気遣いは暖かいな。人は表面だけでは判断できない。
「私、白に助けられてばかりね。」
「いいんだ。あなたが無事でいてくれれば。それで、李は?」
彼女の言葉には微かな焦燥があった。それは当然のことで、私も落ち着くのに時間がかかっている。今の状況に動揺するのも無理ない。私は、裏で何がうごめいているか知る由もなく、ありのままを告げることにした。
「電車に轢かれた。」
「え・・・」
彼女は引きつった笑いを私に見せてくれた。
「李ちゃんを探そう。」
私は彼女に乗じて李の遺体を捜索することにした。
李を探すこと5分後、
私は倒れている彼女を発見した。彼女は苦悶の表情を浮かべ、右半身が異形と成していた。手足が本来折れるはずのない方向に折れていたり、関節がどこにあるか判別がつかず、軟体動物のようだった。
李とはもうしゃべれないのだろうか・・・。私はその好奇心の成れの果てに触れてみると、ほのかに熱気を感じた。なおの手から生み出されるそれのような。
「李ちゃんはいた?」
「いたよ。」
私は白に彼女の居場所を教えると、白は安心したような表情を浮かべた気がした。
「在ちゃんも、私たちが倒れているのを見つけたときはこんな感じだったんだよ。もしかしたら・・・」
なるほど、白はあれが生き返ることを期待しているのか。私は先ほど感じた熱を頼りに、得意げになって彼女に同意した。
「きっと、生き返る。」
私たちが李を見続けていると、彼女の頭が光りだして、軟体は剛体に、関節の場所ははっきりしだして、人の姿を取り戻しつつあった。
私は頭をよく見ると、彼女のヘアピンが光っていることがわかった。
人の形になった彼女はひとりでに起き上がった。
「いてて。人間、電車に轢かれるもんじゃないな。」
当たり前だ。何事もなかったように治癒された少女の身体を見て、私はこの人達をともに過ごすことに決めた。おそらく彼女は私と同じなのだ。それに、彼女たちと共に過ごすことで、ここの法則、妹の居場所、その他私が知らないことが分かるかもしれない。私たちは線路を後にした。
私は帰る途中に周りが住宅しかないことに気が付いた。
「店はどこにあるの?」
この世界を知らない人として当然の疑問である。
「あ~、店はほとんどないね。」
「どうして?」
「どうやらこの世界はタブレット状の端末ひとつで、インターネット上の広告業やサービス業に飽き足らず、農業、漁業、林業、製造業、建設業、その他諸々が賄えるらしいんだ。だから店を開く需要がほとんどない。おかしな話だろう?」
「どういうこと?」
「たとえばリンゴを作るアプリがあってね、端末上でリンゴの木を育てることができて、リンゴの実をいくつか収穫できる。ゲーム内で収穫した量に応じてリンゴが実際に私たちの家に輸送される。」
「何それ、どこから送られてくるの?」
「さあ。アプリ作ってる人の関係者とかじゃない?」
どうやら『元の世界』のものとはかなり違った仕組みになっているようだった。
混乱してきた。劇場で目覚めてからずっとそうだ。状況が二転三転している。かといって、今後すぐに落ち着ける気がしない。私は大きく息を吐き、困惑と余分なヒートを排出した。
あれこれ考えこんでいるうちに、さっきいた家にたどり着いた。家に入ると、杏が倒れていた。どうやら呼吸の仕方を忘れたようだった。
「・・・杏!」
「あまり焦るな。すぐに治まる。」
そう言って、李と白はまるで石化した杏を近くのベッドまで運んだ。杏は何か持病でもあるのだろうか。
すると、何やら李と白が口喧嘩を始めたらしかった。口喧嘩と言っても、お互い怒鳴ったりはしておらず口調は平静に思えた。李が白が杏を置いて家を出たことに対して怒っていたようだ。一方、白は李が私をただ捜しに行って終わることはないと思い、心配で外出したそうだ。杏は、李が出発した時点ですでにパニックによる過呼吸を患っていて、白の外出によって発作を起こしたわけではなさそうだ。
そうなると、今この二人が喧嘩をしているのはおかしい。悪いのは私だ。
「・・・ごめん。二人とも、私が勝手に外を出たばかりに迷惑をかけてしまった。」
「しょうがないよ、在ちゃん。まだここにきたばかりだし。」
「まあ、私たちが電車に轢かれたくらいでは死なないって分かったしいいか。」
慰める白。ポジティブに考える李。捉えようはそれぞれであれど、私の謝罪で事態が悪化しなくて良かった。
「というか、私たちが死なないってことは、それだけいろんなことに挑戦できるってことだろう?」
また死ぬほどの痛みをまた味わうつもり?私は李に呆れつつ質問した。
「何か挑戦したいことでもあるの?」
「私は、この世界で一番有名になりたい!」
何それ、でも李らしい野望に見えた。
「白は何かこういう感じの夢はある?」
「李ちゃんみたいに大きなものでもないよ?」
「言ってみて、気になる。」
「・・・大切な人と過ごしたい。もちろん、この場にいる人たちも大切な人だよ?でも、なんていうか・・・」
「王子様を見つけたい、だろ!」
白は赤面した。心の中では「はい」と言っているのだろうということは、心が読めない私にもわかった。
「・・・そういう在ちゃんも何かしたいとか、あるでしょ?」
「私はあなたたちみたいに大それた希望じゃないけど、妹を探しているんだ。」
そういうと、二人は真面目な顔になりだした。私の夢が特別なわけでもないのに。
「何か手がかりは?」
妹を探す手がかり。まず、私はわけもわからず劇場の客席で目覚めて、傍にいたなおと演劇を見ていた。クライマックスでなおが急にいなくなって、それが心配になった私は劇場、舞台裏など、捜せる場所はすべて捜した。すべての地形を把握できるくらいには捜した、と思う。ここまでくると、最初から妹なんていなかったのではないかと疑ってしまう。しかし、そんなことはあり得ない。なぜなら、「お姉ちゃん」と呼んでくれる人から確かに熱を感じたのだから・・・。
「おーい」
私は誰かに呼ばれた気がした。声に誘われ現実を見ると、眼前には李と白がいた。
「この調子を見ると、何も知らなそうだな。」
三人の間に沈黙が訪れた。白は杏の看病に向かったようだ。彼女は無事だろうか。私もついていくことにした。
杏のいるベッド付近にて、
杏は先ほどのひどい呼吸も忘れて、困難を知らない赤子のように安心して眠っていた。
「杏さんは、私や李ちゃんが想定外の状態でいなくなると、さっきみたいに呼吸が大きく乱れちゃうの。多分、在ちゃんがいなくなっても・・・」
そうだったのか。
「でも安心して。しばらくすると元気になるから。」
杏の方は大丈夫そうで良かった。
後ろから活発な足音がやってきた。
「この世界を知りに散歩に行かん?」
「散歩?」
私は首をかじげた。散歩なら、さっき言ったばかりじゃないか。それに、散歩に行っても住宅ばかりで面白いものなどあまりないのでは?
「散歩してどうするのさ。」
「触れるのだ!この世界について。」
答えになってない。何か裏があるのではないだろうか。
「いいね。李ちゃん。私、結構楽しい施設知ってるんだよね。」
白もグルなの?こりゃうまくかわすのは無理そうだ。
「はいはい、私も行きますよー。」
私はいやいや返事した。
「決まりだ!」




