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最期に寄り添う者

少女が再び目を覚ました時、森には春が訪れていました。


温かな風の吹く夜です。


柔らかく良い匂いのする毛皮にくるまれて、少女は眠っていたようでした。


「私……?」


「やあお目覚めかいお嬢さん」


柔らかな声がして、鹿が少女の額に鼻先を寄せてきました。


以前のように震えてはいません。


声にも張りがあり、元気そうです。


「きみのお陰で私も死に損なってしまったよ」


からかうような笑みの気配をはらんだ声色で、鹿が言います。


「私がこの通り元気なのだから、きみの弟もきっと元気になっているだろう」


「死は?」


少女が訊ねると、鹿は頭をもたげて頭上を示しました。


零れんばかりの星空に、幾つもの星が流れていくのが見えます。


いまや死そのものと成った彼女には、その星のひとつひとつが何処かで失われたいのちなのだということがわかりました。


「きみはこれから、幾度でも死に立ち会うことになるだろう。誰にでも平等に死を与えることのできる存在がひとりだけ死から疎まれるとは皮肉な話だが」


「私は死なずにここでずっと生き物が死ぬのを見守り続けるの?」


「正確にはきみはもう死んでいる。死者の国から閉め出されているのだ。……私と同じように」


内緒話を打ち明けるような調子で、鹿が言いました。


「ならばあなたと出会えたのは僥倖だったのでしょう」


少女は微笑んで、かつて鹿が彼女に向かって放ったのと同じ言葉を彼に返しました。


幾多の生の最期に寄り添い続ける死の長い長い旅はこうして始まったのです。


おしまい

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