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手まりの森(第二章)  作者: 羽夢屋敷
1/5

戟 ~呪い/ 01~

プロットがまとまり、第二章の開始となりました。


「佐伯の死の直前の30日間」を別の視点で追う、

裏話的なストーリー。

第一章では語られなかった様々な事柄が、

徐々に明らかになっていきます。


是非、お楽しみください。


――――――――――――――――――――――――


■前章のあらすじ■


六ツ鳥居 (ムツドリイ) の森。

そこは強大な怨霊が封じられているという禁忌の地。

この地で昭和初期に起きたある一家惨殺事件の調査がきっかけとなり、

雑誌記者「佐伯一郎」は、命を落とした。

佐伯の意志を継ぎ、事件を追った後輩記者「火野秀樹」は

呪術集団〝祓衆はらいしゅう〟の能力者「舟越ケイコ」の力を借り、

この呪いの根源を断とうと奮闘する。しかし、彼もまた

邪悪な者たちの策略に落ち、凄惨な死を迎えてしまった……


■おもな登場人物■


・佐伯一郎:さえきいちろう …雑誌記者

・火野秀樹:ひのひでき   …雑誌記者・佐伯の後輩

・丸尾和宏:まるおかずひろ …大分県警の刑事・佐伯の親友

・舟越ケイコ:ふなこしけいこ…呪術集団〝祓衆〟のご意見番

・葉月宗雄:はづきむねお  …呪術集団〝祓衆〟の構成員

・城島康史:じょうじまやすし…TV番組P・佐伯の元同僚

・関 顕:せきあきら…新聞記者・新聞記者時代の佐伯の後輩



  挿絵(By みてみん)




~プロローグ~


 1963年8月9日早朝。


 焼け焦げた手まり堂内から「男女2名の焼死体」と、そのそばで一体の「惨殺死体」が発見された。

 惨殺死体は頭部が完全に欠損していたが、その所持品から、東京の雑誌記者『火野秀樹』であることが判明。また、焼死体に関しては、女性の方は近くに落ちていた「医院の患者カード」と身体的特徴から島根の病院に入院中の患者『舟越ケイコ』であることが判明する。男性の方は、付けていたブレスレットと「歯の治療渾」から、大分県警の刑事『丸尾和宏』であることが特定された。


 不可解なのは『丸尾和宏』で、彼は事件があった前週の7月31日に京都「八瀬駅」の駅構内で心臓麻痺をおこし、既に死亡が確認されていた。彼の遺体が消失したのは京都の警察病院館内の遺体安置所での事だったが、その遺体が遠く離れた福岡で見つかった事に関係者は首をひねるばかりであった……


 ***************



   --- 影 ---




「なるほど。わかりました……では、ケイコさんが行った術式によって、六ツ鳥居の封印は再び作動しだしたということですね」

「はい。ここ一週間様子を見ましたが、手まり堂周辺の瘴気は完全に収まっております。ただ、先ほども申しましたが井戸の方は恐らくもう使い物にならないかと……」


 8畳ほどの静かな和室で、3人の男女がかしこまって鎮座している。上座には白装束をまとった坊主頭の老人、その傍らに同じく白装束の50歳くらいの女性が座っており、2人と向き合う形で30代ほどに見える男性が正座している。男性の方は白シャツに黒ズボンという洋装である。

 3人の横の廊下側の開放された障子戸の先には程よく手入れされた庭の木々が茂っており、猛り狂う真夏の太陽光をうまいこと中和して、涼やかな風を室内に送っていた。


 暫しの沈黙の後、坊主頭の老人が再び口を開く。


「では次の〝緩み〟が始まる前に、井戸の方は何とかしなければいけませんね。しかし、浄めの水に『禍魂物まがたまぶつ』を直接放るとは……」

 老人は小さく溜息をつき、視線を部屋の外にやる。

 横の女が訝しい表情で会話をつなぐ。

「連中もそれがどんなに危険か分かった上でやっているているはず……つまり、事は完全に始まった。という事でしょう」

「これからさらに酷くなると?」

「そういう事です」


 女のきっぱりとした返しに若い男は下唇を少し噛み、老人と同じように一旦視線を庭の方に逃がすが、すぐさま老人の方に向き直り問いかける。


「それで、井戸はどうしましょう?」


 老人はゆっくりと視線をこちらに戻すと、盆の上に置いていた茶を一口口に運んでから、静かに告げた。

「潰してしまいましょう。……塩で清めてコンクリで塞いでしまうと良い」


 その言葉に女が反応する。

「井戸を潰す?今後の封印式はどうされるおつもりで……」

「私の方から上に言って新しいのを作ってもらいますから。水の方も、この本部のものを持っていけば全く問題ありませんよ」

 そう言って老人は小さく微笑んだ。

 女は黙ったまま少し引き攣った笑顔を返す。


 老人はゆったりとした動きで茶碗を盆に戻すと、再び庭の方に目を向け少し眉を顰めた。

「それよりも問題はあの映像です……山根さんの話だと10万は軽く超えるそうですよ」

 老人の言葉に女の顏から完全に笑みが消える。


 二人のやりとりを緊張した様子で窺っていた若い男の額から一筋の汗が流れ落ちた。



 外では夏の終わりに抗うかのように蝉たちが果てなき饗宴を続けていた。

 



 *********


  --- 1963年7月 ---



  7月3日 23時。


 京都に向かう寝台列車の中で佐伯は死んだ妻と娘の事を考えていた。

「なぜこんな事になってしまったんだ」

 想い返せばそもそもの発端は、自分が「柄でもないオカルト系の事件」で名をあげようと、後先構わず目の前のうまそうなエサに食いついたのが凶事の始まりだった。そこにあったのは、現状の自分の社会的なポジションに対する不満と、敷かれたレールの先にある味気ない未来に対する絶望感……つまり、ありきたりのエゴだ。

 自分の浅はかさと薄汚さに辟易した佐伯は、自宅の風呂場で何度かカッターを手首に当てた。だが、それを引く事はどうしてもできなかった。発端はたしかに自分のせいである。だが、2人の死の直接の要因は『理不尽な呪い』。そして、それは今なお力を増長させ、人々へ〝無節操な死〟をばら撒き続けているのである。その事を考えると、この元凶に目をつぶって命を絶つ事など佐伯には到底できなかった。


――どうせ死ぬなら、この事件をとことん究明してから死ぬべき――


 佐伯が辿り着いたのは、復讐心にも似た揺るぎない決意だった。とは言え、人間の気持はそう単純に非ず、二人の面影は事ある毎に佐伯の心を切り裂き続けていた……


 佐伯は暗闇の中でおもむろに手帳を取り出すと、ペンライトの灯りを灯して中身を確認し始める。〝祓衆〟のメンバーである葉月から聞き取った情報ページの上で、その小さ灯りは動きを止める。

「呪い……封印儀式……特殊な札……やはり、この先はこいつに話を聞かなきゃどうにもならんな……」


 葉月が所属する〝神水会〟に自宅から何度か連絡してみたものの電話は不通で、やっと受付に繋がったと思いきや「諸事情で葉月にはつなげない」と、一方的に電話は切られてしまった。佐伯は仕方なく、彼が務める神水会事務所に直接訪れ、葉月本人に話を聞きだす。という強行手段に打って出たのだった。



 『あなた』


 ふと、カーテンの向こうの通路側から聞き慣れた声がし、佐伯は慌ててそちらにペンライトの光を向ける。明らかに何かの気配を感じる。

 佐伯はペンライトを消すとカーテンの向こう側に意識を集中する。

 通路の常夜灯と車窓から入る夏の強い月光が、カーテンの向こうに2つのシルエットを浮かび上らせる。


 「利恵!」


 佐伯はカーテンを一気に引き開けた。

 しかし、そこには何も無い。



 列車は静かな駆動音を立てて小さく揺れている。おそらく、穏やかな平地を走っているのだろう。

 佐伯は首を屈めて車窓の月をちらと確認すると、ゆっくりと静かにカーテンを閉めた。

 

 

               (つづく)


~あとがき~


第二章は構成上、

「怖さ」よりも「謎解き」要素が強くなりそうですが、

完結できるよう頑張って書いていきます。


再びお付き合いのほど、宜しくお願いいたします!


     (羽夢屋敷)


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