外伝 イドリアルの決意
微えろ注意
「おお、これはカルシウムになるねぇ!」
「栄養いるのか?」
「ボクはね、前から思っているんだ。何をするにも体が資本だってね!」
ディルグランデに頼みがあり、今日は王都の月神教の大神殿に足を運んでいた。
ここ1週間ほど、通い続けていたのだ。
用事を済ませて、ディルグランデと挨拶をしつつ、お茶に誘われたので一緒の席に着く。
「それで、調べ物は終わったのかい?」
「そうですね……手がかりが見つかった、それだけでも十分な成果だと思っています」
「元の世界に帰る、ねぇ。ボクはキミのいた世界が良くわからないから実感はわかないけど、やはり特別な事なんだろうね」
「女神クリア様が実施なされた事ですから……」
あの大雑把な神様のせいで、他の連中も巻き込まれたんだけど。
「聞けば聞くほど不思議な世界だねぇ。魔法が無く魔物のいない世界、面白い」
「オレからすればこっちの世界の方が面白いですけどね」
「ん? 面白い世界からつまらない世界に向かうのかい?」
「つまらない世界でも、オレには故郷ですから」
「そういうモノかねぇ?」
「そういうものです。それに、オレだけの問題ではありませんしね」
日本に戻りたい。そう思っているのはオレだけではないからだ。
「仲間達にも、無事な事を報告をしないといけませんし。二人を生き返らせた話もしないといけませんからね」
「おいおい、ここは月神教の総本山だよ? 気軽に蘇生の話なんかされちゃ困るよ!」
「あ、すいません」
「気にしなくていいけどね」
「オイコラ」
「アハハハハハ! キミとの会話は楽しいねぇ! 遠慮が無くていい!」
「そりゃ、あんたの正体を知ってるからでしょ……」
この表情豊かで偉そうな青年、とっても偉い人なのだ。
なんと言ってもこの月神教の教祖。一番偉い立ち位置の人なのである。
「ここでの会話は気にしないでいいって言ったでしょ? 誰もここに聞き耳を立てになんかこないよ。野心的な人間も、ここには存在出来ないしね」
「便利ですね。宗教としては完成されている気がするな」
なんといっても、この教祖様が崇められている神様の眷属だからだ。最強である。
「まあ、とりあえず、君のお役に立てたのならば幸いだ。ディープ様もお喜びになられるよ」
そう言って、机の上に置いた魔法の袋を指さす。
これはディープ様に献上する菓子の盛り合わせとお酒である。
ディープ様から来る色々な催促と言う名の命令が、ディルグランデに来るようになったらしい。お手数をお掛け致します。
それらをのらりくらりと躱していたところに、オレが来てしまったという。
まさか錬金窯の横に台所を作る日が来るとは思わなかったぜ。
エイミーとリアナ、セーナ、イリーナの4人でお菓子を作るのが一時期の日課になってしまった程だ。工房の中が甘ったるい。
「結構な量をお渡ししておきますから、上手くコントロールして渡してくださいね」
「分かっているさ。いきなり全部渡したら、ボクの身ももたないからね」
ディープ様も周りの女性陣も押しが強いからね。
「頑張って下さい」
「うん。何とか頑張ってみるよ……」
力なく頷くディルグランデ。大丈夫か?
「とりあえず、オレの調べ物は今日で完了です。ありがとうございました」
「うん。また何かあったらおいで。ボクの方も、その、お酒とか足りなくなったらお願いすると思うし」
「あはは、お酒は時間がかかるからって適当に答えておいてください」
「了解だよ」
ディルグランデと挨拶を交わすと、オレは大神殿を出て、王都の屋敷からクレストの工房に戻る。
手に持つ一冊の本が、オレ達の希望になってくれると信じて。
「ライト」
「な、なに?」
「……今日、よそよそしかった」
「そ、そうかな?」
食後、工房のソファで例の本を穴があくまで読もうとしている時に、イドが入ってきた。
イドが工房に来ること自体珍しい。
「何かあった?」
「えーっと、その」
「隠さないで。そういう態度は、寂しいわ」
「……ごめん」
真剣な表情から、本当に寂しそうな表情をされると困ってしまう。
「近々、この街を離れる事になるんだ」
「そう。じゃあ一緒に行くわ」
「え?」
「わたしは言ったわ。あなたを婿にしたいって。婿についていかない嫁がいると思う?」
「結構、いると思いますけど……」
「そんな程度の気持ちで、わたしはあなたに告白したんじゃないわ」
椅子に座っていたオレの膝の上に、イドが足をかけて座った。
持っていた本を取られて、ポイと捨てられてしまう。
「しおりとエイミーに聞いている。自分達の世界に帰ると考えてるって」
「……そうだ」
「そこにも、わたしは行くわよ。ライトがいる場所なら」
オレの首に手をまわし、イドが顔を近づけておでこをオレのおでこに当てながら言う。
イドの匂いがオレの思考回路を鈍らせる。
「……ダメだ。イドには助けられてるし、栞やエイミーも世話になってる。でも連れていけない。お前だけじゃない、リアナ達もだ」
「リアナ、セーナ、イリーナも?」
「そうだ。あいつらはお前に預けるつもりだ」
「なんで?」
「向こうには、魔力というものが無い。どこかにあるかも知れないけど、少なくともオレは知らない。魔力が無いから魔草もないと思う。それらが無いとマナポーションやエーテルが作れない、そうなるとオレが死んだら魔力の補充が出来なくなる」
「あの子たちはそれでも構わないから付いていくって言うと思うわよ」
「……オレが嫌なんだ。オレが命令すれば、3人とも言う事を聞く」
そんな命令をするのも嫌だが。
「じゃあわたしは? 魔力云々はどうでもいい。わたしはライトの命令なんか知らないわ」
「オレとイドじゃ、寿命が違うだろ……それじゃあお前は別の世界で一人っきりになっちまう。向こうにエルフはいないんだ」
「エルフがいないの?」
「オーガ族や獣人も、な」
「人間に駆逐された?」
「もともと、居たって言う記録が残っていないから分からない。でも多分、始めからいなかったんだと思う」
「そう」
耳元にイドの口元が近寄る。
「でも、一緒に、行く。わたしは……わたしが、あなたと共にいたいから」
「ダメ、なんだ……」
「どうしても?」
「ああ、ダメだ」
「そう……」
つぶやくようにイドが言うと、オレに優しく口づけをしてきた。
「理解出来たわ」
「……何がさ」
「あなたがわたしの事を、ちゃんと好きだから。置いていくって言ってる事が」
「別に」
「わたしを心配してくれているってことでしょ? 顔を見れば分かるわ」
「……そうだよ」
置いていくって言ってるのに、なんでそんなに嬉しそうな顔してるんだよ。
「ライト」
「何さ」
「ちゃんとこっち見て」
「……ああ」
イドはそう言い、手を離して上着を脱いで下着も取ってしまう。
イドの綺麗な体が、オレの視界を埋め尽くす。
「あの、イドさん?」
「目を離さないで。わたしも、恥ずかしい、から」
「いや、でも」
「ライト。今、この瞬間から、わたしはあなたの物……あなたはわたしの物」
「いや、ちょっと……」
「わたしの鼓動を聞いて。感じて」
素肌を晒したイドの胸に、オレの手がイドによって添えられる。
「ドキドキしてるわ」
「ああ」
「鼻の下、伸びてる」
「すいませんね!」
「お尻の下のも、元気に」
「言わないで下さいっ!」
そこは敏感なところなんです! こすりつけないで下さいっ。
「わたし、顔も、たぶんすっごい赤くなってると、思う」
「そ、そうだな」
何とか気合を込めて、イドの胸ではなく顔を見ると、エルフ特有の耳まで真っ赤になっていた。
「これが、わたしの覚悟」
「えっと……」
「栞やエイミーと帰る事を選んでもいい。そこに連れていけないというのならば、わたしも我慢する」
「そうか」
その言葉に、安堵する。リアナ達も、長命なエルフのイドになら安心して任せられる。
「だから、寂しくないように」
「うん」
「子供を貰うわ」
「はい?」
「子供、ベイビー」
「意味は、わかりますが……その」
「200年守ってきた、わたしの初めて」
「お、重いな」
エルフの歴史を感じるなぁオイ。
「受け取らせる。返品は不可」
「ちょ、まっ! こら、んむ!」
キスして誤魔化してきた! おい、手を押さえるな! ちょ、足でズボン脱がすな! 器用かっ!?
「ん、んむう……はむ」
イドの色っぽい吐息が、工房に小さく響く。
それだけで、頭がクラクラしそうだ。
「ん、ふう、はあ。えっと、イドさん」
「男は奪うモノ」
「これだからエルフはっ!」
「えるふぱわー」
今までにない程、嬉しそうにイドはオレの服を引っ張りズボンを蹴り飛ばし、下着を破っていく。
いくらなんでも乱暴すぎるだろ!?




