外伝 おねだりイドリアル
「ライト、今日はどうするの?」
「んー、どうするかなぁ」
気の抜けた声を出すこの男は、錬金術師のライトロード。
わたしの認めた数少ない男だ。
ソファに深く座り、食後の腹休めだと言って座って本を読まずに持っている。
「……光君、がんばった、から。休んでて、いいよ」
「エイミー、それはもう2週間も前の話」
「ひゃ、ひゃい」
同じくソファの横に離れて座っていた胸の大きな女、エイミーがライトを庇う。
……最近、この流れが少し多くて煩わしい。
そもそも、この工房には女っ気があるようで無かったのに。
リアナとセーナという美人はいたが、彼女たちはライトの作った娘のようなモノだ。ライトに粗相するような真似はしないし、ライトも手を出したりはしない。
まだ起きてこないしおりと、このエイミーが問題だ。
まあしおりはまだ子供だから問題なさそう。
問題はこのエイミー。
ライトとの距離を詰めたくて詰めたくて、しょうがない気配をプンプンと醸し出している。
ライトはいい男だ。惚れるのは分かる。わたしがそうだから。
でも、目の前で女の顔で、わたしの惚れた男が見つめられるのは面白くない。
「エイミー」
「ひゃい!」
「……そろそろ、慣れて欲しい」
怖がられているのには慣れているが、毎日顔を合わせている相手にそれをされるのは、あまり気分が良くない。
「イド、相良は元々こうだから」
「…………」
「べ、べつに、イドリアルさんが、怖いわけ、じゃ、ないです……」
消え入りそうな声で言われても説得力はない。
「じゃあ今日はダンジョンいくわ。しおりまだ寝てるし、セーナ借りていい?」
「セーナでいいのか?」
「本当はリアナも欲しいけど、お店あるでしょ? 回復アイテム、適当に借りてくわね」
「ああ、いいぞ。あ、それなら相良も行って来たら?」
「え? 私も?」
「川北が体の調子がおかしいって昨日言ってたから。蘇生の時に使ったアイテムの影響で蘇生前と勝手が違うって言ってた。そんなに深い層での戦闘をさせないで、慣らし運転をさせて来た方がいいぞ」
「慣らし、運転……」
「川北曰く、10倍強くなったとさ」
「たぶん、それは適当に言ってるんだと、思うよ?」
「確かにしおりは強かった。でも、時々首を傾げてたわね」
しおりとは何度かダンジョンに行ったから、わたしの速度に合わせて動けるしおりとは、相性がいい。
エイミーは魔導士タイプという話だけど、
「10倍は適当だろうけど、確実に変わってるって事だ。イド、悪いけど相良を頼めるか? セーナだけじゃなく、リアナも連れてっていいから」
「ん、構わない」
そしてごそごそと取り出したのは魔法の袋。しおりにも渡してたわね。いつの間にか装備を用意してたわ。
「ローブと杖とが入ってる。これ使って」
「あ、ありがと。でも、お店は?」
「もともと今日は休みにするつもり」
「それじゃ、光君、も。一緒にいかないか、な?」
上目遣いでライトを見るエイミー。ああいうのはわたしは出来ないからずるいと思う。
「なんか、ジジイが来るらしいんだよね」
「えっと、ゲオルグ様、だよね」
「そそ。なんでもドッペルゲンガーからのホムンクルスの作成が上手くいかないから素材取りに来るんだって。相良もジジイ苦手だっただろ? 出かけてな」
「そう、したほうが、いいかな?」
「ついでに魔法のベタ踏み以外の使い方も覚えてきた方がいいぞ」
「わかり、ました」
エイミーは頷くと、魔法の袋からローブを取り出した。
ついでに冒険者として活動出来るように服や靴なんかも出て来る。
ラフな格好をしていた自分の服を見返すと、ローブを抱きしめて自室にエイミーがかけていった。
エイミーの為に用意した服。羨ましい。
「ライト」
「何?」
「わたしも、ああいう可愛いのが欲しい」
「そう言えば武器しか作ってなかったな。ブーツとかも用意するか」
「ライトが惚れるようなのにして」
「それ、オレに言うかね」
思わず顔を背けてしまった。流石にちょっと照れる。
「イドは可愛い系よりも、綺麗系や格好いい系だからなぁ。可愛いは難しいな」
「私が着たらライトの目を奪えるような物がいい。ライトの好みの物を希望」
「な、なんかグイグイくるな……」
「ちょっと待って。自分で言ってておかしい気がしてきた、頭を冷やしてくる」
どうしよう。こんなこと言うつもりなかったのに。
……でも、しおりやエイミーを構ってばかりのライトが悪いわね。
可愛くなりきれないイドリアルを書きたかったんや!




