外伝 夏休みな彼ら
「フ〇ーザ! フリー〇! フリ〇ザ! 〇リーザ! 怯え泣くわ…………」
なんで僕の招集した会で明穂の奴はマキ〇ルを熱唱しているんだ?
爆音響くカラオケボックスの中、大声で横に座る白部奏に聞いた。
「なあ、僕がおかしいのか? 白部さん!」
「明穂ちゃん! ストレス溜まってるみたいだから!」
白部からも大声が帰ってくる。
「それなら僕の所に泣きを入れてくる門下生が増える!」
いや、むしろ諦めたから減った?
「部活、やめちゃったし!」
「まあフェアじゃないというか、なんというかだね!」
僕達は良くも悪くも戦いに慣れ過ぎてしまった。
魔物相手とはいえ、人型の魔物も多くいた。それらをどう効率よく破壊出来るか、研究し実行し続けたから、仕方ないと言えなくもない。
空手部に入っていた明穂が部活の最中に怪我人を出さないか、心底心配したものだ。
尤も、帰って来た翌週には部活を辞めてしまっていたが。
「うちの学校。唯一の全国選手だったのに」
「仕方ない事だ」
「なによぅ、いいじゃないあたしの事なんだから」
マイクを離した明穂から苦情。
高校一年、一学期の最終日。僕達は奇妙な体験をした。
異世界転移ってやつだ。
女神様に会い、異世界で大神官という役回りを求められ、魔王を討伐する旅。
2年間という長いようで短かった時間を向こうで過ごし、戻ってきたら同じ一学期の最終日。
暑い夏の日であった。
「歌い終わって気が晴れたか?」
「んー、もうちょい」
「や! 次オレ歌うんだ! 春アニメのOP覚えて来たから!」
「オタクは死ね」
「やめて! オタクを差別しないで!」
「んじゃ俺!」
「稲荷火、少し大人しくしててくれ」
「ぶー」
「海東君、もう隠す気も無くなっちゃってるよね」
「全然普通の人だと思ってた」
「あのなぁ、篠崎、竹内。高校生の男はヤンキーよりオタクの方が多いんだからな」
「どこで統計とったんだよ」
この場に集まったのは、異世界から無事に戻って来た7人。
勇者の稲荷火・聖女の白部・バトルマスターの明穂・大魔導士の海東・空戦魔導士の竹内・ビーストマスターの篠崎。そして大神官だった僕、時巻小太郎だ。
「向こうから帰って来て、夏休みに入って2週間。そろそろ元の生活に戻れたか?」
「いつでもお風呂に入れる環境って素晴らしいと思いました」
「コンビニって偉大だなって思いました」
「昔見たアニメがすっげー簡素に感じるようになった。でも逆に新鮮に見られるようになって面白い」
「武器がねぇ!」
「なんというか、違和感?」
「ははは、まだ慣れないよね」
僕の質問に、思い思いの言葉を口にする面々。
「そうだな。流石に1週間じゃ1学期の分の復習は間に合わないよな」
「え? 勉強してんの!? 流石生徒会長!」
「そういえば、時巻は生徒会長だよな。一年なのになんで?」
「前任の三年生からの指名だ。毎年一学期の後半に決まる」
「普通二年生から選ぶんじゃねえの?」
「話を逸らしたい気持ちは分かるが、確認したい事が多いから黙ってくれ……」
僕の怒気をはらんだ言葉に男子生徒の面々、というか稲荷火と海東が静かになる。
「僕は、実感がなかったんだ。あの経験は、本当にあったのか、夢じゃないのかと。集団催眠か何かではないのかと」
「そうはいってもね」
「3人、いなくなっちゃったんだよ? 時巻君も明穂ちゃんも、その、光君の家、行ったんだよ、ね?」
「ああ、おじさんとおばさんに、何を言えばいいのかわからなかった」
「学校にも警察が来たらしいな。俺んとこにも担任から電話あった」
「私も」
「僕も。その、言いにくいけど、光くんと相良さんと川北さんの関係を、聞かれた」
「あたしもよー、幼馴染ならなんか知ってるんじゃないかって。失礼な話よ!」
「実際知ってはいるが、とても言葉には出来なかったな」
異世界で死んで、帰ってきてませんといえと?
「やっぱり、光君が帰って来ないってことは……」
「ああ、光は別行動だったからな。姫様や騎士の方々と別働隊で魔王城で陽動をかけていたんだろう? きっとその時に」
「やめなさいよ、みっちーはそんなに軟じゃないわ」
「そうは言うがよ」
その瞬間、明穂の腕が稲荷火の首元を締め上げて持ち上げた。
「そんな訳ないって言ってんのよ! みっちーが死ぬ訳ないでしょ! きっと何かあったのよ!」
僕の言葉を否定する明穂の言葉に、誰もが目を伏せるしかなかった。
僕達と共に向こうに行き、戻ってこなかった人間は3人。
その2人は向こうで命を落とした大盗賊の川北栞と幻術師の相良エイミーの2人だ。
そして、その2人と同様に帰って来ないと言う事は。
恐らくそういう事なんだろう。
「で、でも光くんだけ向こうに残るって選択をしたのかもしれないし」
「あんた、女神にそんなこと聞かれた?」
「いや、それは、その……」
「未だに実感は沸かないのは確かですけど……でも」
「奏まで! みっちーは! 道長はね!」
「落ち着いて明穂ちゃん、奏ちゃんもそういうつもりで言ってるんじゃ」
「じゃあどういうつもりで言ってるっていうのよ!」
「それは……」
「よせ明穂。僕もあいつが簡単に死ぬタマだとは思ってない。勢いあまって魔王が来たという異世界に乗り込んだとかそんなオチだと思っている」
「え?」
「は?」
「んなわけ……いや、でも」
「光くんならやりかねない……」
僕の言葉に全員が一瞬思考に入る。
「あいつは皆のバックアップに専念するって言ったんだろ? 魔王が悪魔を呼び出す召喚門は1つ破壊したが、他にあったかもしれない。そこに道長が乗り込んで何らかの細工をしているうちに魔王が打ち破られて」
「無い事もない、かな?」
「そうよ! 絶対そう!」
「ああ、異世界に行っていたのであれば、女神様のお力が及ばなかった可能性も十分に考えられる。僕達が生き残ったのに、あいつが死ぬ訳が無い。そこから考えるにあいつが戻れなかった可能性を考えると、そう結論付けるのが一番しっくりくる」
他の理由もあるかもしれないが、僕の知っている道長が命を落とすとは考えられない。
あいつは短絡的な考えで動く事は……無いとは言えないが、少なくとも姫様や護衛の親衛隊の方々と行動を起こしている間に癇癪を起す訳がない。
姫様達と共にダメージを受けた可能性もあるが、あいつだけは生き残る筈だ。
「とにかく、あいつが死ぬとは考えにくい。僕達は僕達でやるべきことをやるべきだと思う」
「やるべきこと?」
「なんだよ、それ?」
全員が疑問の表情を浮かべている、まったく。分かっていないな。
「僕達は2年間も異世界に行っていたんだぞ? 2年勉強していないんだ。学力が落ちている、年明けの中間テストで赤点とったら留年だ」
「うは」
「ええ!?」
「今それいいますかぁ」
もちろんだ。
「せっかく仲良くなったんだ。僕も頑張るから基礎から叩きこむぞ? それが終わったら夏休みの宿題を片付けよう」
「「「 はぁ 」」」
おかしい、僕の善意が届いていない?
ああ、心配をしてくれてるんだな。
「大丈夫だ、人に教えるのも僕にとっては復習になる。僕の心配はしないでいいぞ」
「「「 そういう意味じゃない! 」」」
解せん。




