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外伝 張り込み姫様と張り込み騎士団長

「戻られませんね、ミチナガ」

「まったく、わたくしを放ったらかしにしてどこにいらっしゃるのかしら」


 私の名前はセリアーネ=ゼムダラン。由緒は余りないですが、こう見えてダランベール王国で伯爵位を賜った父の娘です。私自身も士爵位を賜った、立派な貴族です。


 私は今、いつものように姫様の護衛に出ております。

 ええ、親衛隊の隊長ですもの。いついかなる場合でも、姫様がお出かけになられる時には必ず付いていきますとも。

 例え王城の外の小さな家の屋根裏でもついて行きます。


「なんでここなんです?」

「あ、主のいない館に乗り込めないからに決まってますわ!」


 ここはミチナガ達、異世界からの客人達に譲られた屋敷の道を挟んで反対側の屋敷です。

 なんとか男爵の元お宅です。今は姫様の別宅扱いです。買い取られました。

 そちらのお宅の屋根裏の窓から、ミチナガが屋敷から出てくるのをずっと見つめておいでです。

 もう3日経ちました。


「東の脅威が無くなったというのに、わたくしを押しのけて『急いでる、今は相手に出来ない』まではともかく『どけ! 邪魔をするなら容赦しないぞ!』などと、あのような物言い」

「確かに、普段の温厚なミチナガからは考えられない迫力でしたね」


 ま、まあ、あのような力強いお言葉を使うミチナガというのも悪くはありませんが。


「ほんと、あんな乱暴な言葉をわたくしにかける男なんて、この国にはおりませんのよ!」

「勿論で御座います、姫様は特別ですもの」

「でも、ああいう男性的な面も素敵ですわね!」

「ええ、そうですね。あ!」


 私自身、憧れがあったものですから。つい同意してしまいました。


「やっぱりねぇ、貴方もミチナガ様狙いですものねぇ」

「や、姫様。そんな」

「今更取り繕ってもねぇ、随分とスケスケのネグリジェもお持ちだったようですしぃ?」

「あれは、その、は、母上に、これで迫れ、と」

「でも着たのは自分の意思でしょう? だって鏡の前で1時間も自分の姿を確認してたくらいですしぃ?」


 っ!!! 知られてたっ!


「な! 見ておられたのですか!」

「んな訳ないでしょ! わかりやすいのよセリアは!」

「そんなぁ」


 恥ずかしいっ!


「はーい、お食事ですよー」

「「 わぁい!! 」」


 エレインは器用な上に、異世界の少女達から料理を習っていたので彼女の食事はかなり美味しい。

 でも油断の出来ない相手だ。料理のコツを教えてくれと道長に取り入ろうとした過去があるのを私は忘れてはいない。

 く、私が包丁をもっと上手に扱えれば混ざれたのに!


「美味しいわ」

「ええ、油で揚げる料理なんてわたくしたちの文化では考えられない事でしたから」

「動物油しかなかったですからね」


 植物の種から油を精製する技術をミチナガがもたらしてくれたおかげだ。

 コロッケという不思議な名前の食べ物が私のお気に入りである。


「ところで姫様」

「なんです?」

「前から気になっていたのですが。姫様は、なんで光様なんですか? 勇者である稲荷火様や大神官の時巻様ではなく。やはり唇を奪われたから?」

「ああ、その事ですか」


 姫様もミチナガがお気に入りだ。

 確かに唇を奪われて素肌を触られてから、多少挙動不審にはなっていた。

 でも今のように積極的では無かったはずである。


「そうねぇ、見た目や言動だけで言えばやはりコタロウ様が一番だとわたくしも思いますわよ」

「「 確かに 」」


 大神官であったコタロウは貴族の美男美女が集まるパーティ会場であっても、目立つ存在でした。


「でもコタロウ様は、なんというか腹黒いのよねぇ」

「ま、まあそういう面もあったような」

「でも彼は、そういう面を押し出してでもお仲間の皆様を守ろうとしておりました。そういう部分は好感が持てるかと」


 エレインの言う通り、彼は仲間を守るのならばどんな手でも使うタイプの人でした。


「それに、わたくしがコタロウ様とくっついたら、兄上達が王位を継げなくなりますわ。確実に」

「そこまでは」

「いや、あの男ならばあるいは」

「いえ、間違いなくですわ。女神様がきちんと彼を国に戻してくれて正直ほっとしておりますもの。あれは戦時では最高の軍師になりえる逸材ですが、平時ではその才能が何処に向かうか分からない危うさがあります」

「そこまでですか」

「ええ、危険ですわ」


 姫様のお顔からも本気のお言葉である事が伺えます。


「コウイチ様は、まあ正直子供でしたわね。あれではわたくしは靡けません」

「ま、まあ確かに」

「悪ガキがでっかくなった印象ですものね」

「頭は悪くはないと思いますが、自分で考えるくらいなら周りに委ねる傾向もありましたわ。王族には相応しくありません」

「そうでしたか。それをいうなら……」

「ええ、カイトウも除外ですわね」


 姫様は、ススムが嫌いですからね。まあ魔法を覗きに使おうとする輩ですから私も嫌いですが。


「マサキ様はそういう面では、ちょうどいいですわね。戦いの怖さを知っておられましたし、エイミーの為に命を懸ける気概もございました。ですがやはりミチナガ様やコタロウ様には劣ります」


 確かに、身も心も戦でボロボロになったマサキは、親衛隊の部下達からは人気があった。

 なんというか、庇護欲がそそられるというか、そんな気持ちにさせられるのは分からなくもない。


「ですが、わたくしの一番はやはりミチナガ様です」

「姫様、ぶちゅってされて脱がされてモミモミされましたもんね!」

「言い方っ! 人工呼吸と解毒と延命措置ですわ!」


 姫様が顔を赤くして反論なされています。

 戦闘中とはいえ、流石にあれは私も驚きました。


「命を助けられた事もございましたが、なんというかミチナガ様は、話せる方なんですよね」

「話せる?」

「あの方は肩書や腕っぷしで人を計りません。わたくしの言葉を聞き、それを吟味したうえで必要な言葉をかけてくれます。自分が苦しい時、助けが必要な時にはっきりとその言葉を口に出来、わたくしが困っている時にそれに気づいて下さいました」

「それは、なんとなく分かります」


 私も彼の作ったアイテムには助けられました。特に指輪やネックレスなどのアクセサリー類は高性能でかつ、見た目も可愛らしい。未だに愛用品です。


「正直、わたくし達のサポートに回ってくれると言ってくれた時には驚きましたわ。魔王城の最終局面で、本当であればお仲間の皆様について行きたかったでしょうに、わたくし達とあの瞳の悪魔と戦う事を選んで下さいましたから」

「本人は魔王と戦うには自分は実力が不足していると言っていましたけど?」

「それはそうでしょう。身体能力で言えば、コウイチ様とアキホ以外で魔王と渡り合える人員はいなかったですし」

「確かに」

「色々と装備や魔道具をお仲間にお渡ししていましたけど、それらの道具を運用する事を考えたらミチナガ様のお力があれば魔王との戦いはもっと早くに終わっていたかもしれませんよ? なにせミチナガ様はアイテムの製作者にしてスペシャリストなのですから。いくら魔王でも装備でガチガチに固めて全力で守りに入ったミチナガ様を突破するのは至難の業です。少なくともわたくしは、ミチナガ様と戦ったら無事でいられる自信はありません」


 そこまでミチナガは強いのだろうか? そのような印象は……はっ! 風呂場でバッティングしてしまった事を思い出してしまう!

 消えるんだ! そんな印象!

 逞しい背中とか、引き締まったお尻の印象は消えるんだ!


「隊長?」

「な、なんでもない」

「?」


 慌てて首を振り、姫様のお言葉の続きを待った。


「瞳の魔物と戦うのに、具体的な戦法や対抗策を考えられたのもミチナガ様です。彼は笑って『自分は弱いから考えないと』とおっしゃっておりましたが。考えて用意した物がなんだと思います? もはや戦略という物を凌駕するとんでも兵器ですわよ?」

「ええ、広範囲の敵を一気に無効化しておりましたね。毒で」


 瞳の魔物を倒す際に使用した魔道具が、毒を発生させる物だった。

 なんでも空気中に溶かした鉱物毒を広範囲に放って、動くものにまとわりついて体の機能を阻害させるという恐ろしい毒。

 詳しい話は本人が伏せていたが、解毒剤などで防げないという訳の分からない代物でした。

 使用する為に、一時期全軍を下げる必要があったのでエルフ達が騒いでおりましたね。


「あの方は、自分で考え行動し、最後に結果を導ける人間です。そして一度口にした言葉を曲げない心の強さ、頑固とも言いますが。それを持っています。ウィルクス兄様のような人ですね、それでいてその行動によって周りにどう影響を与えるか、それを考慮できる優しさもございます」

「たまに暴走しますが……」


 王城の錬金工房が何度か爆発しておりました。


「殿方の暴走をうまく止めるのは女の務めというものです」

「止まりますかね?」

「止まらないんじゃないかしら?」


 先日のお顔もそうでしたが、そういう行動に移っているときのミチナガは、恰好良い。

 とてもではないが止める気には私にはなれない。


「ですがそういった行動を起こす際、あの方は非常に魅力的に映りますわ」

「分かります!」

「でしょう?」


 私はつい同意してしまったが、姫様も満足げに顔を頷かせております。


「はあ、お二人は本当に男の趣味が同じなのですね」

「す、すいません。ですが姫様がそういうのであれば、私は身を引いて……」

「あら? 何を言ってますの? あれほどの男ですもの、第二夫人は必要ですわよ?」

「はい?」

「一緒に可愛がってもらいましょう」

「ななななな! 何をおっしゃるのですか!」

「エレインもどうかしら?」

「わたしは選べるなら竹内様のような守りたくなる方がいいですね」

「そう、まあ今は無理強いはしないわ」

「ありがとうございます」


 今はっていうのはどういう意味なんでしょう、姫様。

 それにしても、姫様が第一夫人で私が第二夫人ですか。

 こ、子供は何人くらい、必要なんでしょうかっ! 考えるだけで顔が赤くなっていきます!

なんか伸びてるのでどこにも入れるとこないなーって思ってた外伝をくっつけておきます。

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こんな作品を書いてます。クリックするとそれっぽいところに飛びます
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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