80 錬金術師と二人の友達⑩
「帰って来い」
30分ほど待ち、二人の顔に血色が戻ってきたので、カプセルを一度開けて二人の手に魂の入った封印の箱を持たせて紐を解く。
再び蓋を閉めて、深呼吸。
二人の周りに敷いた布の魔法陣に無属性の魔力を流し込む。
均等に、無駄なく魔法陣を起動させなければならない。
「っつう」
奥歯を噛みしめて全身から抜かれていく魔力を感じ歯がゆい思いをする。
この魔法陣は賢者や神官、聖女といった神聖魔法を扱うのを得意とする者達が本来使う魔法陣らしい。
マスタービルダーのオレ用なんてものはない。
先に帰った小太郎や白部の顔が頭をよぎる。
しかし、二人はもういない。
「そもそも、小太郎にこんな繊細な魔力コントロールは出来ないわな」
大神官の癖に大味な魔力コントロールしか覚えられなかったからな。
白部ならば間違いなく可能だろうけど、いない者はあてにはできない。
「それにこれは、人には任せられない」
任せられる訳が無い。
「魂と肉体を結合させるのに、ここまで魔力が必要だとはな」
魔法陣を通して、二人の魂を感じる。
活発的で、明るい、奔放な魂の波動。
優しく、温かい、陽だまりの様な魂の波動。
「こっちは気にすんな、お前達は自分達の心配をしてろ」
なんとなく、二人の意識がこちらに向いた気がした。
オレはエリクサーをもう1本とって、一気にかっくらう。
頭の上からエーテルもかけて、熱くなった頭を冷やす。
真っ赤な光を放つカプセルの下、地面に敷かれた魔法陣から強烈な白い光の波動が発せられた。
目も開けていられない程の光だ。
「もっとか? いいぞ! 全部持ってけ! オレの魔力が尽きるまで、アイテムが尽きるまで! いつまでも付き合ってやる!」
更にエリクサーを飲んで、更に魔力を流し込む。
今度は繊細になんて考えられない、思いっきり叩きこむ!
「お前達の居場所はここだ、冥界なんて辛気臭い場所じゃない。戻って来い! もう一度オレにお前達の本当の顔をちゃんと見せてくれ! お前達の口で話しかけてくれ! オレの所に来い! そして一緒に! 日本に帰ろう!」
強烈な光は、オレの工房を覆いつくしていった。
くそ、もう魔力が……エリクサーを……。
そう思いながら、手を伸ばした瞬間に光が急速に失われて、魔法陣の反応がゆっくりと消えていく。
「……終わった、のか?」
魔力の大半を持ってかれて、ふらつく頭を抑えながら、カプセルに歩み寄る。
カプセルの蓋を取って、まずは相良の顔を覗きこんだ。
「えっと、終わり、ました、か?」
「さがら……」
その声を聞いた瞬間に、オレの体は急速に力を失った。
まだ、だ、まだ、川北、を、確認……。
次回、最終話。




