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07 街に降り立つ錬金術師⑦

「ここなどはいかがでしょうか?」

「ここじゃ狭いかなぁ」

「左様で御座いましたか」

「工房だけなら入るけど店舗と自宅も兼任させますから、もうちょい広くしたいです」

「3階建てにすればよいのでは?」

「この広さなら5階建てにしたいくらい。流石にジブラータル卿のお屋敷より高い建物を作る訳にはいかないでしょう?」

「ご配慮、感謝いたします」


 貴族の屋敷より豪華な屋敷に住んじゃダメ。絶対。


「ふうむ、ここでもいけませんか」

「すみません。でも、これは妥協できない案件です」


 だって工房のサイズは決まっているんだもの。

 悩ましい表情の執事さんと次々と土地を見に歩き回る。

 なんか見た事ある道に出たな。


「おうライト! 近くに来てんなら顔を出せよ!」

「あ! おししょー様!」

「わざわざおっさんの顔を見になんかいくかよ。それと師匠はやめなさい」


 おっさんとミーアちゃんが現れた。

 まあ冒険者ギルドの近くで土地を探してるから遭遇することも不思議ではない。

 ここら辺、ミーアちゃんち近いし。


「ポーションの納品か?」

「です! 終わりました!」

「そうか、お疲れ様」

「おや、もうこの街に馴染んでいただけていますか」

「成り行きですが」


 執事さんが目を細めて笑みを浮かべている。

 この人も紳士か?


「ジブラータル卿のとこの、いい土地を紹介してやってくれよな」

「勿論で御座います。と、言いたい所では御座いますが難航しておりまして」

「なんだライト、我がまま言うんじゃねえよ」

「こればっかりは妥協できないんだよ。工房を置くにはどこも狭い」

「で、出来ればご近所がいいです!」


 ちみっ子は可愛い事を言ってくれる。


「他に候補は?」

「流石にこれ以上の広さとなると、この近辺では住居や店舗を立ち退かせないと厳しいですな。郊外であれば用意出来ない事もないですが、出来れば冒険者ギルドの近くに居を構えて頂きたい」


 そう言って首を振る執事さん。


「なんだ? 広い土地探してるのか?」

「そうなんだ。店舗兼工房兼住居にするから、クリスの店くらいのサイズは最低限でも欲しい」


 ミーアちゃんとこの工房は店舗部分が無かったから、少し小さい。

 それでも井戸があったり、裏に薬草畑を作れるくらいの広さがあったのだ。


「あるぞ?」

「え?」

「まさか?」

「誰も住んでない、空いてる土地」

「どこ?」

「そことそこ、それとあの裏の廃屋」


 そこは住居が3つほど並んだ区画、その後ろの崩れた建物跡は火災の後だろうか。


「裏の宿屋が火事になった時にそこの住民も引っ越したからな」

「そんな事あったんだ?」

「ああ。傭兵崩れの喧嘩があってな。その中の馬鹿が室内で爆炎魔法をかましやがった。そんで宿屋は半壊で営業不可。確かジブラータル卿が別の場所に宿を作ってそこの家族はそっちに移ったよな? その後、新しい宿が繁盛しなくて結局いなくなったっけか」

「ありましたね。あの規模の火災は珍しいので覚えております」

「そんで、火事のあった宿屋の残骸がいつ崩れるかわからないって事で、そこの住居に住んでた連中も別の家に移ったぞ? デカくて危なそうな廃材は全部片づけてあるからな。隣三軒も更地にすればかなり広い土地になるんじゃねえか?」

「素晴らしい! 流石は『迅雷のボーガン』!」

「や、二つ名は関係ないだろ」

「じ、じんらい……」


 だせえ!


「ここならほれ、ミーアの家から徒歩30歩くらいだし」

「あたしの家はあそこです!」


 ミーアちゃんが自宅を指さす。


「冒険者ギルドまで歩いても10分かからんし、ここにしろよ」

「必要の無い住居も排除でき、倒壊の恐れのある廃屋の撤去も出来る。区画整理が必要ですな」

「人なら貸すぜ?」


 おっさんがニヤリと笑う。


「多少強引な事をするのであればあの方が戻る前に片付けた方が良いかもしれませんね……宿屋の主人たちは宿を再建させると言っておりましたが」

「もういないはずだぜ? 他の街に移動する依頼を受け付けたのは俺だから覚えている」

「ふむ、そのような手続きされておりましたかなぁ」

「ああ? 知らねえのか?」

「流石にすべては把握できておりません。そうですな、諸々調べてこちらで片付けておきましょう。何、元来領主様であらせられるソフィア様の土地ですから、ソフィア様の命令書とギルフォード様の承認があれば問題ありますまい」


 確かに、大き目の宿屋があったからか土地は広い。井戸もおそらくあるだろう。ぶっちゃけ、必要になる広さよりもずいぶん広い。


「でもいいのです? 勝手に決めてしまって」


 オレ的には有り難いが。


「構いませんよ。元々、他所から来た者や家庭から独立される方々への住居の手配は私共家臣の仕事で御座いますから。多少広いだけで、普段の業務の範疇に御座います」

「はあ」

「少々気になる情報も出た事ですし、一度屋敷に戻ろうと思います。ボーガン殿、後程依頼をかけても?」

「先に大工協会からにしてくれ。そっちで断られたり人数が追加で必要になったらこっち声をかけてくれ。でないと喧嘩になる」

「畏まりました。ライトロード様、本日も宿は変わらずで御座いますか?」

「そのつもりです」

「では延長の手続きはこちらでしておきますね」


 今まで通りお支払いはしておきますって事かな?


「まあ助かりますが」

「本来であれば、我等が屋敷に逗留して貰うのが筋なのです。ソフィア様の紹介状もありますからね。しかし主人不在の為、部外者を泊める訳にはいかない事をお許しください」

「気にしないです。正直宿のが気が楽ですし」

「ありがとうございます。それでは……準備ができ次第お声かけ致します。お出かけになられていても宿に伝言を伝えておきますのでご自由にお過ごしください」

「よろしくお願いします」


 つまり今まで通りだ。

 執事さんは丁寧に腰を曲げてオレに頭を下げると、足早に屋敷の方向へとあるいていった。






 翌日から、早速解体工事が始まった。

 動きが早い。

 明らかに大工な連中もいれば、バラバラになった木材を運ぶだけの冒険者連中も多く見受けられた。

 時たま半壊の建物から何かが崩れる音と悲鳴が聞こえてくるのが怖い。


「いやぁ、ガキ共の仕事なかったから助かるわ」

「魔物の群れの討伐に行かなかった連中か?」

「正確には行かせられなかった連中だな。依頼があって街から離れてたり、騎士や兵士と組ませるには問題のある奴だったり、そもそも実力不足で外に出せない連中だな」


 確かに、大工仕事をするような服装じゃないヤツが多い。まあ武器は携帯してないが。


「下級のガキ共も今は街の周りからあんまり離すことが出来ないからな。常設の薬草回収や森の浅い地点での狩りくらいしか仕事が無かった。助かるわ」

「ああ、生態系云々のあれな」

「今回の大規模討伐が無事に完了すれば、元に戻る筈だけどな」

「どうかねぇ」


 一度崩れた自然の摂理が元の戻るには相当時間がかかる。


「大規模討伐に追従してる連中に混じってる凄腕が戻ってくれば、森の調査も頼むからな。多少は安心になるってもんだ。元々安全なんか保障されていない仕事だしな、運が悪い奴はどうしても出るだろうが」

「まあなぁ」


 そんな現場を眺めていると、屋敷の執事さんが子供をいっぱい連れて登場した。


「ボーガン様、ライトロード様、おはようございます」

「おう」

「こんにちは」


 そんなオレ達を物珍しそうに眺める子供達。

 全員よれよれの服を着て、厚手の手袋を付けている。


「孤児院に寄ってまいりました。この子達にも廃材の運搬を手伝わせます」

「いいけど……」


 少々胡乱げな表情をせざるを得ない、危なくないか?


「よろしくお願いいたします」


 執事さんと一緒に子供を先導していたのは、神父さんとシスターさんだ。


「怪我人が出た時の為にシスターもお呼びいたしました。子供の小遣い稼ぎも出来ますしね」

「小さな子には雑草むしりをさせるつもりですので、この子達も働かせて下さい」


 シスターが丁寧に頭を下げてきた。

 むう、否とは言いにくい。


「怪我に十分気を付けさせて下さいね。それと子供達から目を離さないこと」

「ありがとうございます」


 大工や冒険者達が建物を崩し、大工達は使える木材や家具と廃材に仕分けをしている。

 建物から離して大通りにそれらを積み上げているから、そこから小さなものを台車に乗せて運び出す分には問題なさそうだ。

 執事さんが連れてきた人たちだし、おっさんも頷いているから問題ないんだろう。

 人手も増えたので片付け作業も速度が上がった。

 作業開始して3日、見事な更地が完成したのであった。


「さて、これでこっちの作業は終わったが……建物は本当にいいのか?」

「ええ構いません。まだ働いて頂けるのであれば柵を付けて頂ければと思います」


 大工の棟梁感のすごい親父が腕を組んでオレに視線を向けている。


「柵か。この広さを囲う量となると作るのに時間がかかりそうだが」

「柵自体はありますので、これです」


 ドチャドチャと大量の柵を取り出す。量はかなりあるので問題ない。


「準備がいいな」

「錬金術師の工房はどうしても高価な物が多いですから、建物を守る準備は欠かせませんよ。それに、外側に出ちゃいけないガスなんかも出ますし」

「魔法が掛かっているのか」

「ええ、侵入防止と滲出防止の結界魔法が囲う事で完成します。扉部分はこれですね」

「これを等間隔に刺して板で固定すればいいのか?」

「はい、お願い出来ますか?」

「いまなら人手も多いし、一刻もあれば出来るな。わかった、請け負おう」

「お願いします」

「聞いた通りだ! やるぞてめえら!」

「「「 おうっ! 」」」


 大工さん達が測りをもって、その後ろに柵を持った冒険者が疲れた顔で追従している。

 オレはお手製のメジャーを取り出して長さを測り正面の扉と裏口の扉の位置、それと工房へ大きな物を入れる為の搬入口の位置を地面に丁寧に測って描きこむ。


「手を振るだけで手元に戻るのか? 便利な道具だなぁ」

「ダイナストカメレオンの舌を加工したものです。Aランクの魔物なので高いですよ?」


 魔物のランクを聞いた棟梁っぽい親父が顔を顰める。

 扉の位置や搬入口の仕切りの長さを指定したので、しばらくは柵が出来るのを待つ。


「神父様、シスターも助かりました」


 最終日の子供たちは雑草抜きで大活躍だったのだ。

 オレは魔法の袋から飴の大量に入った小さな壺を取り出してシスターに渡した。


「これは?」

「飴です。あまり一度に与えないでくださいね」


 虫歯になるから。


「こんな高級な物! とても頂けません!」

「手作りですので元手はあまりかかってないですよ。報酬はジブラータル卿から出るので。こちらからは物でお礼です」


 ジブラータル卿の名前で報酬が出るのに、こちらからもお金を出したら卿に失礼にあたってしまう。

 孤児の報酬の相場も分からないからこういうのでいい。


「工房を開設しましたら、神殿とも取引が始まると思いますから。どうぞご贔屓に」

「ええ、こちらこそお願いいたします」


 救いを求めて来た病人に処方する薬の販売があるかも知れないからね。


「ほら、みんなもお礼を」

「「「 ありがとうございました 」」」


 シスターが孤児たちを率いて帰っていった。

 一部の冒険者達も報酬を貰いにギルドに帰っていく。肉体労働の後だ、酒でも飲みにいくんだろう。

 手洗えよ。風呂入れよ?

 手伝ってくれた人たちにお礼を言って見送ったり雑談したりしてると、柵の設置が無事終わった。


「こんなもんでいいか?」

「いいですね、高さも揃ってるし」

「おうよ、これくらい出来ないと大工とは言えねえからな」

「じゃあこのメジャー……尺測りの先を持って土地の角に移動を」

「これでいいか?」

「ええ、真ん中を計ります」


 対角線に歩いて行き、真ん中あたりに足で印をつける。

 反対も対角線を付けて交差するところに同じくしるしをつけてメジャーを回収。


「じゃあ全員柵の外に出て下さい」

「ああ、何かするのか?」

「はい」


 オレは手提げからミニチュア模型の魔道具を取り出して真ん中に設置。魔力を込めて魔道具を設置した。


「あれは?」

「妖精の隠れ家『フェアリー・レストルーム』って魔道具知ってます? あれの改良版です」

「ダンジョンでたまに手に入るコンパクトテントか? 貴重品だな」

「ええ、2、3個ダメにしましたがおかげでいい物が出来ました」


 その場に残っていた大工チーム、執事さん、それと元ギルマスのおっさんが目を見開いて驚いている。

 その視線は先ほど置いたオレのお手製アイテムに注がれている。

 魔道具【妖精の工房『フェアリー・ファクトリー』】が徐々に大きくなっていく。


「こりゃあ……」

「すっげえなぁ」

「ゲオルグ様が似たような道具を持ってたな、見た事ある。見た事あるが……」


 この工房は前線基地だった場所だ。

 特別な木材と石材で作った3階建ての一戸建て、とても大きい。

 1Fは木造部分に会議室、リビング、台所。石材で囲まれたはみ出た部分に工房とオレの部屋だ。

 2Fと3Fは居住エリア、2Fは男性用の個室、3Fは女性用の個室がある。

 地下には倉庫と、避難所兼転移ルームを用意してある。

 転移ルームの先は色々だ。


「とんでもない物を……お前、何者だ?」

「錬金術師ですよ。これは仲間と共に作り上げたものですから、自信作です」


 なんと言っても女神様からの干渉をも防御出来るほどの自信作。

 会議室を改装して店舗にすればいいかな。大工の人達がいるから棚やカウンターなんかを注文しておこう。


「これであとはジブラータル卿の許可が出れば営業出来ますよね」

「は、はい。もちろんで御座います」


 執事さんが引きつった笑みをしていたが、すぐに表情を引き締めていた。

 オレは頷くと、腰の引けていた大工達を連れて会議室の中に入る。

 久しぶりに自分の部屋で寝れるからか、テンションが高くなっているオレがいたのであった。

やべぇ、まとめて投稿するのめんd

こほん

時間取られますね! 『街に降り立つ錬金術師』はここで終わり、次の話に入ります。

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おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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