78 錬金術師と二人の友達⑧
「よし、始めるか。もう少し待っててくれよ、二人とも」
魔法の袋に入れるのに抵抗があったので、懐にしまっておいた二人の魂の封じられた箱をテーブルの上に置く。
箱を縛っている紐を解くだけで魂が解放されるらしい。
「さて、まずは蘇生薬だ」
蘇生薬は実験用で作った分しかないので、2人分も無い。それに冥界で手に入れた素材のいくつかが、オレの作成時に使う素材よりも良質で効果の高い物があったので作り直しだ。
「何にしても月齢樹の樹液からだな」
大窯の中に月齢樹の樹液を入れて、状態を確認する。倉庫に置いておけば時間の経過が止まるから劣化する事は基本ないが、念のため確認は怠らない。
「生命の水溶液を入れて、世界樹の朝露を2杯」
生命の水溶液は、この土地の素材と世界樹素材で作った特別品だ。
ジジイの整備した領だからこそ、最高品質の物が作れる。
魔道具でもある混ぜ棒でかき混ぜながら魔力で満たしていく。
混ぜ棒にも大窯にも、ここの所毎回魔力をため込んでおいたからすぐに調合に入れたのが助かった。
「ハクオウの角紛に、冥界から持ってきた魂百合の花の種をすりつぶしたものを入れる」
濃い茶色だった月齢樹の蜜の色が次第に薄くなっていく。
「エリクサー4本」
ドボドボとエリクサーを保管しておいたボトルから液体を流し込む。そして力いっぱい魔力を込めてかき混ぜた後、大窯から魔力や成分が抜けない様に蓋をして、大釜の魔石に手を当てて魔力を補充する。
「オレも飲んどくか」
イリーナの用意しておいてくれたエーテルをコップに注いで飲んで、魔力の回復を図る。
「流石に結構魔力を持ってかれるな」
蘇生薬の作成の為に、デイルグランデ様が100人もの犠牲が必要だと言っていた。
頷ける話だ。
しかも二人分の蘇生薬の作成。死人では経口による薬品の摂取が出来ないので、体を漬けこめるくらいの量が必要だ。
「さて、今のうちに準備を」
小さな窯を取り出して、そこに赤の水溶液と緑の水溶液を少し入れる。
更に冥界の魔物、狒々樹の心臓を入れ、その上からマグマ鳥の卵を割って投入。
「ギルバード先王様、なんか大変な目に合ってたな」
宴の時に、男で一人だけ先にお菓子を食べたのがバラされてボコられていた。
で、ボコボコにされた顔のまま狒々樹を狩ってきて持ってきてくれた。あんた門番じゃないんか?
「男性陣は宴の前からみんな出来上がってたからなぁ」
心臓を混ぜ棒でザクザクと潰しながら、追加で赤と緑の水溶液を入れる。
混ざりが悪いので、溶液代わりに酸石と勝手に呼んでる砕くと物を溶かす石の削り粉を振りかける。これを使う時は、水竜の皮で作った専用の防護服で皮膚の露出を完全になくす。皮膚に触れれば、皮膚どころか肉まで溶けて骨が出る。
慎重に扱わないといけない素材だ。
少しだけ振りかけると、念のため粘着テープで小さい窯の周りをペタペタと掃除する。
一応鉱石素材だ。あまり相性が良くないので、ハクオウの角粉を少し混ぜて定着粉代わりにする。
「マジでハクオウの角粉便利だな」
また削りたい。
世界樹の新芽と、トレントディアの角樹の先端の新しい葉っぱをすりつぶしてそこに入れる。
そして混ぜ棒でグルグル混ぜつつ魔力を注いでいく。
「うあ、なんだこいつ……すっげぇ持ってくじゃねえか」
狒々樹とかいう狒々なんだか木なんだか分からない木像の狒々の素材、そもそも冥界にあるのに蘇生アイテムの素材に使おうと思うのがいけないかもしれないが。非常に有用なのだ。
ここでは本来は太刀風鳥という刃の羽を持った鳥の魔物の心臓を使うつもりだったが、若干不満があったのだ。
名称不明の悪魔の心臓が一番良かったが、悪魔の素材を二人の蘇生薬に使うのは抵抗があったのでこちらにする。
「こりゃあ、すげえ素材だな」
全身貰って来てるから何かに使えるかもしれない。そんな事を考えつつも、手は止められない。
最後に相良の体から採血した血液を入れて、弱火でグツグツ煮込みながら魔力を更に込める。
魔力を込めることにより、まるで血の様な真っ赤な液体が出来上がる。
「こんなものか……もうちょい入りそうだが」
そう思いながら、完成した薬液を別の器に移して同じ作業を繰り返す。
自分の使った魔力の量を1回目に合わせるのが大変だが、慎重に2回目は川北の血液を入れた物を作った。
それぞれ、間違えない様に器に名前を書いたうえで、二人の魂の封じられた箱の横に置いた。
かなり魔力が目減りしたので、エーテルを再び飲む。
ここで魔力をスッカラカンには出来ない。
エーテルみたいな回復薬は使用出来る回数が決まっているんだ。主に胃袋の大きさの問題。
だから優秀な冒険者はいつまでもエールを呑んでいられるんだと思う。




