74 錬金術師と二人の友達④
「僕の案内はここまでだよ。じゃあ頑張ってね」
「ありがとうございました、賢者様」
「いいよ、面白い物を見せてくれたお礼だからね。ここからは彼女が案内するよ」
賢者様、名前忘れた。に、お礼を言うと神殿から一人の女性が現れた。
髪の毛の長い金髪、薄布を身に纏っただけの女性だ。
どこかイドリアルに似た印象を受ける。
「ディープ様がお待ちよ。ついて来て」
「よろしくお願いします」
エルフの案内を受け、真っすぐ神殿を進む。
神殿の奥、謁見の間の様な場所に辿り着くと、そこには案内をしてくれたエルフと同じような格好の、美女や美少女が何人も並んでいた。そして高い位置には玉座。
そこに座るのは、クリア様と同様に神々しいオーラを放つ漆黒の髪の美女だ。
「お初にお目にかかります、月の女神ディープ様」
「うむ、中々良い余興であった。褒めて遣わそう」
やはりご覧になっていたらしい。
「しかしわらわの下僕を倒すとはのぅ、あやつは粗忽ものではあるが、弱者ではないのであったが。褒美をやらねばならんな。何を望む?」
!
ありがたい!
「それでは、私と共にこの世界に来た川北栞と相良エイミーを蘇生して頂く事を望みます。私はその為にここまで足を運びました」
「ふむ、そうであろうな。だがそんな者は知らん。他に望みはないかえ? ここに並ぶ女子でもくれてやろうか? この世界のあらゆる時代と場所から来た美姫達じゃぞ」
「……お戯れを、あの二人が貴女様のお眼鏡に適わないはずがございません」
イラつく気持ちを抑えながら、オレは言葉を選びながらディープ様に答えを返す。
「しかし、おらん者はおらん。既に輪廻の輪に帰った者はわらわでも呼び出せぬ」
「川北も相良も、その価値はなかったと?」
「異世界の者とはいえ、たかだか14、5の小娘であろう? その程度のガキなど気にも留めぬわ」
「そんなわけあるか!」
思わず声を上げてしまった。瞬間、周りの女性達から鋭い視線と殺気が集中する。
「良い良い、男子たるもの多少元気でやんちゃな方が可愛いものじゃ。それで? わらわの言葉を否定する根拠はなんじゃ? わらわが人間のこわっぱ風情に嘘をつくとでも?」
「………………表で会ったギルバード先王様、賢者様、王竜様、どなたと会っても同じ感想を抱きました」
「言うてみぃ」
「 『この程度の存在がこの場に残れるなら、オレの仲間がここにいないはずがない』 」
その言葉に、周りの女性達からの、押しつぶされるような圧力が更に増す。
その圧力に冷や汗が出る。
「く、くふふふ。くはははははははは! ひっひっひっひっ! く~~~! 小僧! 面白いぞ! 稀代の英雄や救国の使徒、世界を滅ぼす資格を持つ竜を捕まえて『この程度』と抜かすか! 良いぞ! 弱き魂が囀りおる!」
お腹を押さえて足をばたつかせて、爆笑する女神様。
オレは圧力から解放される。
周りの女性陣から冷たい視線が女神様に集中していた。
「くふふふふ。あー、笑った笑った。お主の言う通りじゃ、あの程度の魂でも我が眷属に召し上げられるのじゃ、当然その二人もおる」
「であれば!」
「じゃがのぅ、あの二人はわらわのお気に入りじゃ。くれてやらん」
「……いかがすればよろしいでしょうか」
「そうじゃなぁ。褒美をくれてやると言った手前、わらわとしてもお主に返してやりたいとも思うておる。そこでじゃ、二人のうち一人で手を打たんか? わらわは異世界の様子をもっともっと知りたいのじゃ」
女神ディープ様の言葉に、周りの眷属達もざわめく。
オレは喉の奥がひりつく事を感じ取った。
「私に、一人だけ選べと?」
「そうじゃ『はんぶんこ』という奴じゃな。神たるわらわとの『はんぶんこ』じゃ。光栄に思うが良い」
そんな事……決めれる訳が無い。
「何を泣きそうな表情になっておる。そこまで嬉しいか?」
この女神は何を言っているんだ。
「ふふふ、『はんぶんこ』か。姉上として以来じゃな、懐かしいのう」
何が懐かしいだ。ハラワタが煮えかえって頭に血が上る気分だ。
どうする、どうする?
ここでディープの機嫌を損なうような事を言えば、一人も戻って来ない可能性もある。
勝ち気で健康的な、幼さの残る川北の笑顔と、その壮絶な死にざまが。
そしていつもおどおどしていて、白部に優しく抱き上げられていた時の眠る様に死んでいた相良の綺麗な顔が目に浮かんでくる。
泣きそうだ。
そして怒りの余り、声を上げそうだ。
ちくしょう……。
「ほれほれ、返さぬなどとケチな事は言わぬ。早ぅ決めるのじゃ」
ケチな事? 馬鹿な事を。片方だけでも手元に残したいだなんて贅沢な事を言っておきながら。
片方だけ?
片方……だけ。
「どうした? 静かになりおって」
急速に頭が冷えて回転していった。
や、これは馬鹿な考えだ。どう考えてもおかしい。
でもオレには名案に思えてしまった。
いいじゃん! これが一番いいに決まっている。
「分かりました」
「ほう、分かったか。どうする? ちなみに片方はお主に惚れておるぞ! 教えてやろうか?」
「その前に、二人に会わせて頂けませんか? 外や周りにいらっしゃる方々同様、話をすることも出来るのでしょう?」
「そうさの、最後の別れも必要じゃろうしな」
そう言って女神ディープが指を鳴らした。




