73 錬金術師と二人の友達③
「なんだあれは……」
「どうなっている?」
「毒とは面白いな」
「ギルバード陛下に効くのか? あの人野草とかつまんで食うタイプの人だぞ?」
そんなどよめきが観客席から聞こえてくる。
『カツン』
オレの鳴らしたかかとの音が起動キーとなり、オレを中心に巨大な魔法陣が地面に形成された。
「む、む?」
『こここ! これはああああ! なんとも巨大な! 驚くべき規模の魔法陣が闘技台を! いや、闘技場全体を覆っている!?』
『とんでもない魔力量やな! せやけど攻撃性を感じへん、なんやこれ?』
「何かをするというのであれば! 正面から斬りつけて終わりだ!」
『ここでギルバード選手! 毒の煙も気にせずにつっこん……』
「ぶばぁ!?」
『煙から何か出て来たぁ!? いったい何が!? この轟音は一体!?』
『煙からなんか出てきてるで! なんやこれ!? はぁ? どないなっとんねん!』
先王様を吹き飛ばしたのは、1枚の石板だ。
闘技台の表面を覆っていた1枚。
オレはそれを操作して先王様にブチ当てた。
「こんなことが……一体どうやって?」
ギャラリーが沸きあがる中、動揺を隠しきれず、それでも剣の構えを解かない先王様。
徐々に煙が晴れ、オレと視線がまじりあう。
「毒じゃ死なないか」
「当然だぁ! 男なら拳で来いや!」
「お前も剣を使ってるだろ」
左手を先王様に向けて、籠手をつけた左手の指を1本だけ動かす。
同じような石版や、地面から生まれた岩が飛び上がり先王様に四方八方から躍りかかる!
「なんだと!? こなくそっ!」
先王様は剣で防ぎ、籠手でガードし、ブーツでそれらを蹴り壊してなんとか攻撃を回避しようとする。
しかし先王様が破壊した石板のかけらや、岩のかけらが吹き飛びつつも軌道を変えて再び飛び掛かっていく。
兜などをかぶっていなかった為、どうしても攻撃が顔に集中する。
次第に被弾を始めた先王様の額から一筋の血が流れ始める。
「その剣、邪魔だな」
左手の人差し指を上に向ける。その瞬間、先王様の持っていた剣がドロドロに溶けて地面へと落下した。
「ぬあ!」
慌てて剣を捨てる先王様。
「次は鎧か」
再び、指の動作一つ。先王の鎧の留め金をすべて破壊して鎧を地面に落下させる。
「これは、どういうことだ?」
「先王様、捕えさせて頂きます」
再び指を動かす。今度は先王様の周りの地面から土色の杭が何本も空に向かって飛び出して、先王様の上で合流。簡易的な牢獄の出来上がりだ。
『ななななな! 何をやっているんだぁ!?』
『なんやあれ! 指先の動作一つで剣をダメにして鎧をはがしおったで! それに牢屋やと!? 大地の魔法か!? んなもん感じへんぞ!!』
牢獄の中、先王様がこちらにダッシュをかける
「動くな」
「ぶべっ!」
先王様を覆っていた杭から、更に細い杭が勢いよく射出されて顔面にぶち当たる。
鎧も何もない生身の部分への不意打ちは流石に応えたのか、顔面をのけ反らせて鼻血を出す。
「……何をした」
「見ての通りです。この周辺のあらゆる物質を錬成して自在に動かしています」
左手を先王様に向けて、指を動かす。それによって簡易的に作った牢獄の中で地面が波打った。
「そんな事が、可能なのか?」
「そこそこ広い闘技場という環境が良かったです。もっと狭かったらオレは先王様に殴り殺されるでしょうし、広ければオレの魔力じゃ足りない可能性があった」
『ななな! なんとぅ! これが【マスタービルダー】の底力か! こんな事が可能だったとはぁ!! 私も賢者の端くれですが! こんな戦い方聞いたことありません!』
『とんでもない事しとるでぇ!! あのボン! や、道長はこの広い闘技場内を! 言わばディープはんの領域を魔力で上書きして自分のモンにしくさった! あの属性の乗っとらへん魔力で空間を満たしておったんや! そんであの訳わからんブーツで魔法陣を、や! 錬成陣を展開させて空間に満ちた魔力を操作し、支配下のすべてを素材にしとるんや!』
解説どうも。
『こりゃ、ワテらから見ても神業やで!』
『見たことも無い、攻撃性も感じない魔法陣でしたが殺意はマシマシですね! 足の魔道具で錬成陣を形成し、左手の籠手の魔道具を使い自在に錬成をしているとは! マスタービルダーならではの戦闘! いえ、錬成と言えるでしょう!』
興奮冷めやらぬ解説に手で応え、改めて先王様に視線を向ける。
「先王様」
「う、うむ」
「降参していただけませんか?」
「……俺は王であり、ディープ様の眷属だぞ? この程度で降参をすると思うか?」
その言葉を聞いたオレは、先王様のブーツと籠手を破壊し、上着を崩す。
「全裸がお好みで?」
「ぐぬぬぬぬぬ……やってみよ! たとえフ〇チンになろうとも! 俺の体に恥じる部分など何もない!」
「落ちとけ」
「ぬああああああああああああ!!」
降参してくれなそうなので、地面を喪失させて牢獄を崩し生き埋めにする。
『お見事! 勝負ありや! 勝者! 光道長やぁ!!』
『あ、ズルい! それ言うのは実況の仕事だぞ!!』
周りがオレの勝利を認めてくれたので、オレはその場でしりもちをついた。
あああーーーーーーーーーー!! スーパー疲れた!!
「うむ、見事である。俺がお前を認めてやろう」
「ありがとうございます。先王様」
勝利宣言を貰ったので、生き埋めにしていた先王様を掘り起こした。
「やあ。いい暇つぶしだったね! まさかギルバードにあんな勝ち方をするとはね」
「せやでせやで、ホンマ楽しめたわ。やるなぁ道長よ。しかしギル坊はあかんなぁ。道楽とはいえ、自分でゆーて来ておいてこないな負け方するとは」
「道楽?」
「せやで?」
「試練では?」
「なんやそれ? おまん、試練突破したさかいここにおるんやろ」
「は?」
「え?」
……おい、先王様。
「一つお聞きしたいのですが、ギルバード先王様」
「う、うむ」
「なんでオレはあんたと戦ったのでしょうか」
「そりゃ、ほらあれだ! 試練に決まって……」
「ギル坊の提案はおもろかったがなぁ。確かに異世界の人間、それも生産職が戦えるか興味があるって念話がトンできたときは、『こりゃ盛り上がるでぇ!』っておもて。ぬお! あ賭けに勝った連中が酒盛りはじめとる! こうしちゃおれん! ワイ負けたさかい、勝ち組になんかおごってもらへんと! ほなな!」
巨大な黒い竜が関西弁で流暢に語り、ドスドスと地響きを立てて走り去っていった。
「先王様」
「………………………すまん」
「もっかい落ちとけ」
「ぬああああああああああああああああああああああああ!!」
今回は深いぞ。
「えーっと、賢者様?」
「はいはい、光くん。安心していいよ。ディープ様から歓迎のお言葉は貰っているから。それに先ほどの戦いもディープ様はご覧になっているはずだ、きっと楽しんでくれたと思うよ!」
「さようでしたか……」
あ、そういえば。
オレは左手の籠手を起動させて、ずごごごご、と石柱を生み出して先王様を引き上げる。
「むう、この高さを落ちるのはちょっと怖いし着地の時痛いぞ」
「すいません先王様。ジジイから伝言です」
「ジジイ? ああ、ゲオルグか。なんだって?」
「 『200年ほどまっとけ』 だそうです」
「む、200年? あいつ、天寿を全うする気か? 欲張りめ」
「たぶん、ギリギリまでダランベール王国に尽くすつもりでしょうねあの人は。あなたの守りたかった国を、代わりに守るんでしょう」
「そうか、あやつめ……」
「じゃ、そういう事で」
「おまっ! やめろおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
石柱を崩して、再び自由落下の旅へご招待。
「容赦ないね」
「ホントはさらに水でも流し込みたい気分です。でも喜んで泳ぎそうなので落下で我慢します」
「あはははは、違いない! じゃあ案内するからついて来て」
実況とかいうふざけたポジションにいた賢者様に案内をしてもらう。
や、目的地見えてたけど一応ね。




