72 錬金術師と二人の友達②
『さあ始まりました! 久しぶりの大一番! 前回ここに来た人間は何年前だったか忘れましたが、久しぶりの活きの良い生きた人間です! 楽しみですね! 実況はわたくし、大賢者ハイソルがお届けします!』
『解説のケルドムです。解説席狭ない?』
『王竜様が大きすぎるのでございましょう! 人化して頂いてもいいんですよ?』
『人前で裸になんぞなれるかいな』
『男ばっかりなんですからいいじゃないですか。女性陣は大体神殿詰めですし』
『おらんわけでもあらへんがな』
あの黒い王竜はどこで関西弁なんか覚えたんだ。
『さて、今回の戦いの見どころはどこになるでしょうか?』
『せやなぁ、ギル坊はああみえて実直な剣士やさかい正面突破になるんちゃうかな。それをあのビルダーのボンがどう捌くかがポイントやで』
『色々と変わった装備をあの少年はつけていますね』
『あの左手の籠手はなんやろな。けったいな気配しくさってんで』
『王竜様クラスでも分かりませんか!』
『あああああ、阿呆抜かすなや! 分からへん訳やないで! ここでワイが言うんはフェアやないからあえて黙っているんや! あえてや! 重要やからもっぺん言うたる! あえてや!』
『…………まあそういう事にしておきましょう。あの左手の異様な籠手も気になりますけど。あの右手に持ってる小さいのなんでしょうね』
『小娘らの話やと、あいつは魔法使いみたいな戦いをするらしいで?』
『確かに魔力量はすごいですね! 流石は女神クリアの選んだ英雄といった所でしょう!』
なんか楽しそうに話しているけど、この盛り上がりは何だ?
あと簡易テントの中が控室っぽい内装だったので、ちょっと気になったのだが、外に出てみたら闘技場にいたぞ。
意味が分からない。
「光様、面白い物を色々と見せて頂いたことを感謝いたします」
「あ、いえ。こちらこそ、装備まで付けて貰っちゃってすいませんでした」
「私が見た物は秘匿しておきますので、ご安心ください。まあ私も理解出来ない物ばかりでしたけど」
「いえ、ありがとうございました。ところでコレって……」
「ここはディープ様の世界ですからね。ディープ様の眷属たる我々は色々と都合よく作り変える事が出来るのですよ」
「マジっすかぁ」
つまり先王様も同じことが出来ると。
「ご安心下さい、あの方は小細工を好みません。なんでもかんでも正面からブチ破っていくタイプでございます」
「……一番苦手なタイプですよ」
稲荷火や明穂と同じタイプが一番タチが悪い。
こちらの思惑の上をいってくるから。
「準備は万端みたいだな」
「試練だと言い拒否権がないのであれば全力を出します。殺したらすいません」
「言うじゃねえか! 女神ディープに選ばれるのは選りすぐりの魂の持ち主だぜ? 簡単に勝てると思うなよ!」
先王様が剣を抜いた、オレも右手を振るって警棒タイプの魔法の杖を伸ばす。
両肩には盾を浮遊させ、いつものローブより上のランクのローブを装備。
そして、左手には黒を基調とした銀色の籠手。
足のブーツも特別仕様だ。
「装脚」
ローブに隠れつつ、足元のブーツに変化が起きる。
川北と同じタイプのブーツだが、あいつのとは違い攻撃力や防御力に特化した物ではない。
「なんだその靴は?」
『おおっとぉ! ミチナガ選手の足元が光っているぞ!? なんだこれはぁ!?』
『攻撃魔法や弱体系の干渉魔法でもないみたいや』
「オレは戦士でも魔法使いでもない」
「あ? 知ってるぜ」
先王様が首を傾げる。
「汚いなんて言わないで下さいね」
オレの言葉に先王様がニヤリと笑った。
『さあさあ! 自称ディープ様の第一眷属! プライドの塊! ギルバード選手が先手を取ったぁ!』
『おいおい、あのボン! 盾ごと吹き飛ばされたで!』
『これは早々に決まったかぁ!!』
んな訳ないだろ!
「自ら飛んだか。勘は多少働くようだな」
先王様の横薙ぎの一撃、正直危険な気配を感じたので浮遊する絶対防御を前に置きつつ後ろに下がった。
浮遊する盾に押されて、後退を選ぶ。
「ちっ!」
警棒を前に出して、魔法を放つ。
「む?」
『あれは……』
『なんだあの魔法は?』
オレの放った攻撃魔法、丸いドッジボールサイズの半透明の魔法の球がいくつも先王様に降り注ぐ。
「ふんっ!」
それらをやや下がりつつ、剣で捌く先王様。
当然の様に魔法を剣で斬りやがる。
『あれは、そうか! 属性を乗せない純粋な魔力の塊か!』
『はあ? なんの役に立つんねん? てか解説はワイの仕事やろが!』
『じゃあ解説をお願いします!』
『や、それはやな。うむ、属性を乗せない純粋な魔力の塊や!』
『なんの役に立つんですか?』
『知らへん!!』
『開き直りましたね!』
外野が呑気に解説してくれている間に、更に半透明の球を飛ばし続ける。
「面倒だなっ! っく!?」
そんな先王様に、浮遊する盾を高速で飛ばした。
あれ自体が重量のある魔鋼鉄の塊だ。叩きつけてもいい様に上部は特に分厚く作っている。
勢いがあれば頑丈な鉄の塊でぶん殴りかかるのと変わらない。
『ほう! こりゃあすごい! 魔法攻撃と物理攻撃を別々に、同時に一人で行っとる』
『確かに珍しいですね。魔法剣士や魔剣士なんかの魔法攻撃と物理攻撃の融合とはまた違う! 異世界の知恵か! 観客も驚いて声を失ってるで!』
「だが軽いっ!」
もちろん盾なので強度も十分あるが、浮かんで飛ぶという性質上どうしても踏ん張りが効かなくなる。
「まあ想定内」
弾かれても再び特攻させればいい。
「面倒だな! ざああああああ!」
先王様が剣を振り下ろすと、斬撃が地面を走りオレの魔法を切り刻みながら突き進んできた。
盾を一つ戻して掴み、空中に飛ばす。そこから警棒を相手に向けて魔法を連続で放つ。
「ふっ!」
地面を蹴り飛び上がってきたので、もう一枚の盾を操作。
「ぶへっ!」
『おおっと! 空中に飛び上がった瞬間に光選手の空飛ぶ盾がギルバード選手を強襲! 真横から吹き飛ばされた!』
『結構な勢いでどつかれたで! 地面にぶつかって転がされとる! ざまあないで!』
『観客の中のダランベール王国出身者達が湧いてますね! すごい大歓声です!!』
しかし勢いのまま体勢を立て直そうとしている、そこに追撃の魔法の球をぶつける。
「あだだ、地味に痛いなこれ!」
『光選手の連続攻撃!! あれ? でもあんまり効いておりませーーーん!』
『ギル坊の鎧は冥界製やからなぁ、物理防御力も魔法防御力もピカ一や。そもそも現世には存在せえへん物質で出来とるしな』
どうにも魔力弾では効果が足りないらしい。あれ一つで岩をも粉砕出来る威力があるのに!
でも準備は着々と進んでいる。
もう少し、もう少しだ。
「涼しい顔して躱してくれるな」
「そちらこそなんですその鎧。オレの魔法が全然効いてないじゃないですか」
涼しい顔だなんてとんでもない、オレは先王様から距離を取るのに必死だ。
闘技場だなんて狭い場所で戦う事自体に文句を言えばよかった。でもオレが全力を出すには都合がいいといえば都合がいい。
準備がしんどいけど。
「む?」
『おおっと! ここでミチナガ選手が謎の籠手を着けた左手を上げた! 奥の手か!?』
『手だけにな』
『真面目に解説してください!』
「……その禍々しい気配、まともな道具じゃないな」
「どうだろうね」
オレは警棒を短くし、ポケットにしまって右手を空ける。そしてポーチの形にしておいた魔法の袋からエーテルを取り出して飲み干した。ついでに煙玉も指に挟んで取り出す。
再び警棒を取り出して伸ばす。
左手の構えも解いた。
『ははははは! なんやおもろいことしおるな! いざ使うかと思いきや回復薬飲むための時間稼ぎかいな』
『ええ! 我々も騙されかけましたね! ギルバード選手も恥ずかしそうに顔を赤くしております!』
『阿呆やなぁ! あっはっはっはっはっ!』
「つまらんことをやりおって!」
先王様が剣を掲げて突っ込んできた!
この勢いは魔法や盾では防げそうにない!
魔法の袋から取り出した煙玉を足元でさく裂させて、視界から姿を消す。狭い闘技場の中では余り効果は少ないが、多少でも狙いが逸れてくれれば!
「甘いわぁ!!」
剣撃の一つで煙が晴れた!
そして、そのままの返しの一撃でオレの体に剣が強襲する!
「ぐっはっ!」
何とか盾を間に挟んで致命傷を受けるのは避けた、だが盾ごと吹き飛ばされてしまった!
結構な距離を吹き飛ばされる!
「ち、小細工が好きな男よ」
ガードが間に合わない!
それが分かったので、更に2つほど吹き飛ばされながら煙玉を地面に落としてさく裂させ、闘技場全体を包み込む。
先王様は何かに気づき、後ろに下がって深呼吸をした。
「毒か」
「くっは、っつう!」
いてえ、直接的なダメージを受けたのは何時ぶりだ?
ハイポーションを取り出して口に付ける。
しまった、警棒を落とした!
『こりゃ、あのボン辛いなぁ』
『そうですか? 良い勝負が出来てると思いますが』
『そらな、ギル坊とあそこまで戦えるってのがそもそも驚きや。でもやっぱ魔法使い系、近づかれるのを極端に嫌っとる。素早い動きが出来とるとはいえ、ジリ貧や』
『ですが盾と魔法攻撃による阻害もかなり上手くいってる様に見えますよ? かなり戦い慣れてるんじゃないですかね?』
『せやなぁ。しかし今んとこ、ギル坊が圧倒的に有利や。ギル坊の攻撃が一撃でも決まれば、ボンじゃ耐えられへんと違うか? 盾も限界やろ』
解説竜の言う通りだよっ!
でも吹き飛ばされたおかげで距離は取れた!!
ポーションを飲んで怪我はすぐ治るが、体の痛みが芯まで残っている。
オレは毒の煙が晴れる前に、かかとを鳴らして魔道具であるブーツを起動させた。
戦闘描写苦手




