71 錬金術師と二人の友達①
「ここが、冥界」
大きな月の光が、優しく降り注ぐ世界。
もっとおどろおどろしい世界なのかと思ったが、柔らかい風が吹く気持ちのいい草原だ。
その先には大きな神殿が立っている。
「そうだ、異世界より召喚されし選ばれし者よ」
そして、黄金の鎧を身にまとった美丈夫の歓迎。
「へい、か?」
そう、現在の国王。フリードリヒ=ダランベールの……あれ? 若い?
「お? 似てるか? なあ」
「ええ、今の陛下が20年ほど若ければ貴方の様な見た目なんでしょうね」
「ははは、まあ血のつながりは感じるだろうな! 俺は言うなれば『元』陛下だ」
なるほど。ジジイが説得された相手……ご本人だったのか。
「ギルバート=ダランベール様でお間違いないでしょうか?」
「お? 名前まで知ってるか、嬉しいなぁ。城に肖像画とか残ってないよな? そんなんあったら恥ずかしい」
「いえ、ジ。ゲオルグ=アリドニア様よりお話を伺っております。ゲオルグ=アリドニアの弟子、光道長と申します」
「おお、あいつの弟子か! そーかそーか! あいつまだ生きてやがったか!」
「ええ、お元気ですよ」
「ならあいつにここまでの道を教えて貰ったのか。」
「我が師ゲオルグより、使徒デイルグランデ様にご紹介を頂きました。ここまで導いて下さったのはデイルグランデ様にございます」
「そーかそーか! ディグの紹介か! じゃあ歓迎しないといけないな! こっちこい! まあ座れ!」
扉の横にあった大き目のテーブルセットに誘導されて、ドカリと椅子に腰かけるギルバード先王様。
完全武装の大柄の男の着地に、イスさんから悲鳴が聞こえる気がする。
「なんも出せねえけどな!」
「あ、ティーセットならありますよ」
セーナの為に用意したどこでもティーセットを用意。
魔法の手提げの中に入れていたのだ。お湯もある。
「悪いな!」
「クッキーもどうぞ」
これもセーナ製だ。
「クッキーかぁ、なあなあ。異世界のお菓子とかないのか?」
「あー、異世界のお菓子を真似た物ならいくつかありますよ。試されます?」
ミルクチョコレート、おせんべい、かき揚げ。
バームクーヘン、バウムクーヘン? あとイチゴのショートケーキがワンホール。
冗談交じりで作った白い〇人。こんくらいでいいか。
「おおおおお!」
「どれがいいです?」
「全部だ!」
「実は中身は骨でこぼしまくりなんてネタ無しでお願いします」
若い見た目とはいえ、陛下の顔でやられると笑わない自信が無い。
「ははははは! ディグと違ってちゃんと肉体があるから大丈夫だ! 全部食っていいか? いいよな?」
「構いませんよ。でも私にも色々教えて下さい」
「色々、ねぇ」
流石に手持ちのお菓子全種類を出すにはテーブルが小さいので適当なものをおく。
ホールケーキを切り分けようとしたが、先んじて手元に引き上げられてかぶりつかれた。お前王族だろ、出したんだからフォーク使えよ。
「構わねえけど答えられる事なんかねえぞ? うまいなコレ」
「そうなんですか?」
「ああ……こっちもいいな。この茶色いの」
「おせんべいですか?」
醤油味です。
「歯ごたえもあるし、味も好みだ。お前には試練を与えられているから、その試練を超えたらディープに会えるって奴だ。俺もお前に試練を与えるから覚悟しろ」
「試練ですか?」
「ここに来る前に色々見ただろ? ゲオルグの奴もあれと同じものを見たはずだ。内容は別だと思うがな」
「あれが試練ですか? ただ過去を見せられただけだと思ったのですが」
「そうだなぁ、でも自分の過去なんて良い物ばかりじゃないだろ?」
「悪い物ばかり選んで見せてたのではないのでしょうか」
「人それぞれだな。まあディグが選んだ人間なら問題なく突破出来るものだろう。この黒いのなんだ?」
「板チョコ、チョコレートという甘いお菓子です」
「ふむ、黒くてテカテカしてて食い物には見えないが……ああ、甘いな。コレを食ったあと、こっちのせんべい? を食うとたまらないな。お前が作ったのか?」
「はい、まあ元の世界の物を真似しただけですけど」
白部が作り方を紙に書いて圧力をかけてきたものだ。あいつは甘いものが好きだからな。
自分で作るよりモノづくりに特化したオレに作らせた方が美味しくなるのではとか言ってたな。
結果として味の追求じゃなくて、味の再現にとどまったけど。
「うん、これも美味いな。お前も食えよ、別にいいからよ」
「じゃあ、ゲオルグ様の昔の話を聞かせて下さい」
「おお、色々あるぞ! どんなのがいい?」
「出来るだけ、あいつの弱みになりそうなのでお願いします」
「ははははは! いいぜいいぜ! そういう話なら大好物だ!」
上機嫌に、ギルバード先王様が話を始めてくれた。
ついでに試練の事もポロっとおねしゃす。
「やあ、美味かった! 異世界の食い物ってのは美味いなあ!」
「お口に合うようで何よりです」
「ちょっと味が薄いのが多いが、おおむね満足だ!」
「はあ」
「そんで、えーっと。試練だな」
そんな話をしていると、オレ達の周りに人……人? が集まってきた。
明らかに竜やらサイズ規格のオカシイ獣もいる。
「表に出な。相手をしてやる」
テーブルに立てかけていた剣を取りながら、先王様が立ち上がる。
「オレ、戦闘苦手なんで他の事にしません?」
「おいおい、男だろ? しゃっきりしろよしゃっきり」
「そう言われましても」
「お前の降りてきた階段の門番がオレだったのが運の尽きだな! まああそこはダランベール王都だからオレが我儘言って守らせてもらってるんだが」
「階段によって内容違うんかぁ」
外れを引いた気分だ。
「ギャラリーは……」
「暇人だ。みんな退屈してるから見にきてんだよ。あっちは先代の白の王竜で、あっちはグランベヒーモスだな、お前睨まれてねえか? それとあいつ知ってるか? エルフの英雄カリム、それに賢者ハイソルに……」
グランベヒーモス、オレが毛を毟って皮を剥いだ相手じゃないよな?
「すいません、この世界の歴史については……」
「そりゃそうか。おい、もうちょい場所広げろ」
「あー、先王様。聞いたところ聖剣で暴れた方ですよね……」
「おう! この肉体は全盛期の頃の体だ! めっちゃ強いぞ!」
「やっぱあれにしません? チェスとかトランプとか……」
「うだうだ言うんじゃねえよ! ほら、そんな阿呆みたいな恰好してないでさっさと着替えて来い!」
「好きでこんな王子様ルックでいるんじゃないやい」
「お手伝い致しましょう」
「へ?」
なんか執事ルックな男性がオレの背後に来たんですけど。
「ギルバード様の道楽です、お付き合いをお願いします。全力で戦う事をお勧めしますよ? あの方、手加減知りませんし。生者のここでの死は魂が秒速で死にますから、運よく蘇生もしません」
「ああ、くそ……」
気が付くとテーブルの更に奥に、簡素なテントまで出来上がっていた。
ここで着替えろって事かよ。




