68 命と魂と錬金術師⑧
「うそ……なんでよ!」
ダンジョン内の魔王軍の幹部を無事に討伐し、息も絶え絶え戻って来た時。
その状況にオレ達は唖然としていた。
「姫、様。ご無事、で。我等はやりとげました」
そこにあったのは、死体の山。
もはや魔物の死体なのか、人間の死体なのか分からない。躯がいくつも地面に転がり、様々な武器が地面に落ちていた。
「ご苦労様でした。あなた方のおかげで、わたくし達は無事に魔王軍の幹部を討伐する事が出来ました。みなさんは我がダランベール王国の誇りです」
ミリア姫が、下半身を失った一人の兵士を抱き上げていた。
異様な治療跡が伺える。位の高いポーションで無理矢理命を繋ぎとめるとああなるのだ。
「私も、ひめさ……」
その兵士は、最後まで言葉を紡ぐことなく、瞳から力が消えていった。
回復魔法をかけていた白部も首を横に振っている。
「マサと相良はどこだ!?」
死体の山の中、駆けだしていったのは稲荷火。
オレ達もその言葉に気づき、慌てて周りを見渡したり、生き物の気配を探った。
「っ! 白部! 来てくれ! 早く!」
二人を最初に見つけたのは、オレだ。
戦いを忌避していた竹内が、魔法の杖を持って血だらけで立っていた。
その後ろには倒れた相良。
足元にはオレの作った瓶がいくつも空になって落ちていた。
「竹内君! ひどい怪我を!!」
「僕、よりも……相良さんを。途方もない規模の魔法を、使い続けてたんだ」
二人は後方で待機。
ダンジョンまで敵を押し返す作戦の最中に、心が折れてしまっていたのだ。
王城まで戻す時間もなく、ダンジョン内に突入したオレ達が挟撃に合わないよう、ダンジョンの外で出入り口を守っていた部隊と共にここに残っていた。
「座れ、ポーション飲めるか?」
「いや、もうお腹がタプタプ、だよ。相良さん、が」
「エイミー? ねえ、エイミー!!」
何かを言おうとした竹内の言葉を、白部さんの悲鳴のような呼び声が遮った。
「白部?」
「え?」
「息、してないの……」
「おい、冗談だろ?」
「奏、すごい声が、したよ?」
震える声で、明穂が白部に声をかけていた。クラスメート達も明穂と一緒に合流してきた。
「嘘だよ、だって。ただの魔力欠乏症だと……だから僕が、彼女を……」
「違うわ、だって。だって……あああああああ!」
白部の叫び声に、嫌でもオレ達は理解をさせられてしまった。
全身から血を流し、それでも立ち続けていた竹内も膝から倒れ込んだ。
「なんで? なんで相良さんが?」
「稀にある事です……己の限界を超えて魔力を行使し、それでもなお足りぬ場合には、自身の生命力を魔力に変えて限界の更に上にいく。多くの魔物が、同士討ちの末に死んでいました。恐らく、彼女が……」
姫様、こんな事言ってたんだな。
「そうだよ、相良さんはすごかったんだよ。僕は怖くて動けなかった、でも相良さんが、幻術を戦場全体にかけてくれたんだ。相良さんは僕に、集中するから守ってねと笑ったんだ。だから僕は、僕は」
「マサ、もういい。わかった」
「わかんないよ、小太郎。なんで、なんでだよ! 僕は守ってたんだ。彼女に触れようとした魔物はすべて倒した! なんで、守れてたんじゃ、なかったのかよ!」
治療前の竹内の体から、いくつも血が流れ落ちる。
その流れ滴り落ちる血の音に白部も顔を上げ、竹内の治療を開始。
今まで、何度も仲良くなった騎士や兵士達が死ぬ様にはあって来た。
だけど、クラスメートを失った事はなかった。
オレ達は戦場にいたのをまるで理解してなかったのかもしれない。
正しく理解していたのは、戦線離脱を選んだ3人だけで、それ以外はただ、この特殊な力に酔っていただけなのかもしれない。
…………この日、相良エイミーは命を落とした。




