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67 命と魂と錬金術師⑦

回想だとぅ!?

「危ない!」


 最初にその異常に気付き、声を上げたのは明穂だった。

 視界の脇に肌色の巨体が映る。


「きゃあああ!!」

「このっ!」


 明穂が勢いのまま、スカートを翻らせて拳を振るうと、その肌色の巨体が爆ぜた。


「うそ」

「すっげえな! やっぱ女神様の言った通りか!」

「信じがたい事だが、受け入れるしかないのか?」


 呆然と自分の拳を見つめる明穂と、興奮する稲荷火。

 そして冷静に現実を見据えようとするのは小太郎だった。


「って、呆けてる場合じゃないな。海東! 試してみろ!」

「了解っ! 炎の魔法っ! バーーーン!」


 海東がオレの声に反応をし、ノリノリの表情でその手のひらから炎の球が飛び出して迫りくるオークをまとめて3体焼き尽くしていた。


「おお、本当に飛べるんだな」


 地面から飛び上がり、周りの状況を確認しているのは竹内だな。


「栞ちゃん、篠塚さん……」

「と、とりあえずあたしたちは固まってようか!」

「手! 手を繋いでよう!」


 篠塚、川北、白部の3人が固まって集まっている。


「えっと、その……」

「相良さんもそちらと一緒にいて下さい。マサ! 上から何か見えるか!?」

「こちらに向かってくるさっきのオークが3! その背後を追いかけている騎士っぽいのが馬に乗ってるの! 5人!」

「女神の言っていた迎えか!?」

「わからんが、オークに攻撃してくれてる! 1体倒した! つええ!!」

「女子を中心に周りを囲むんだ! 稲荷火! 何してる!?」

「オークの剣、使えるかなって」

「何でもいい! 余り離れないでくれ!」

「へいへい、生徒会長様改め大神官様」


 毒づくお調子者の稲荷火だが、状況は分かっているんだろう。

 すぐに剣を拾うと、女子達の前に立って剣を構えた。


「もっと、指を広げて。小指と薬指をもうちょい間隔を開けて?」

「何してんだ?」

「なんか剣が、こう使えって言ってきてる気がして」


 制服姿の男子生徒に混じって、明穂も拳を突き出し半身を構える。

 緊張した面持ちで騎士達がこちらに来るのを待つ。


「ようこそいらっしゃいました、異世界の戦士の方々」


 騎士達の一番前にいた小柄な女性が馬上よりこちらに声を掛けてきた。


「私はダランベール王国、第一王女ミリミアネム=ダランベールです。女神様からの啓示を受け、貴方達を迎えに来ました」

「やはり迎えか」

「おうじょさま? 王女様って、馬に乗って剣を振るう人の事を言ったっけか?」

「姫騎士キター!」

「姫騎士? いえ、私は」

「失礼、ミリミアネム王女様。状況を確認したいのですが、貴方の言う女神様の名前を教えて頂いてもよろしいですか?」


 興奮する面々の中、冷静に小太郎がミリア姫に質問を投げかけている。


「光の女神クリア様です。慎重なのですね、異世界の御仁は」

「クリア様より、我々は説明を受けましたが。正直信じられない事の連続でしたので」

「わたくし達は、あなた方の意思を尊重いたします。その上で、あなた方を守らせていただけませんか? 今はまだ、あなた方は守られる存在なのですから」


 懐かしい、姫様の言葉だ。

 オレ達10人がこの世界に来た時の最初の光景。

 この後、姫様達と共にダランベール王国の王城に連れていかれたんだったけかな。






 暗がりの中、階段を下りているだけだ。まるで自分にスポットライトが当たっているような形で、自分の周りと先の階段はちゃんと見る事が出来ている。

 でも終わりの見えない階段を下りていくのに不安を感じるのは仕方がない事だと思う。


「オレの過去が投影されているのか」


 視界は階段をしっかり見据えているが、オレの頭の中では最初にこの世界に降り立った時の場面が再生されていた。

 妙な気分だ。


「ここから、魔物の襲撃をかわしつつ駐屯地まで移動したんだよな」


 オレは、というかオレと篠崎だけは本当に無力だった。


『稲荷火 幸一』は勇者。

 勇者の権能の一つ、聖剣と聖剣に酷似した武器の性能を引き出すことの出来る能力で、拾った剣を使い魔物を討伐していった。


『白部 奏』は聖女。

 突撃したがりの稲荷火や明穂が怪我をした時に治していた。


『海東 進』は大魔導士。

 この頃はまだ強力な魔法は使えなかったが、それでもその圧倒的な火力は片鱗を見せていて、オレ達に敵を寄せ付けなかった。


『南 明穂』はバトルマスター。

 強い、ただ強い。元々実家で空手道場をしていたので、素手が最強を地で行ってたのだ。敵を倒すという面だけで言えば稲荷火を超えていた。


「最終的に魔王を倒しに行ったパーティメンバーは、この頃から十分強かったな」


 魔物の襲撃に対応していたメンバーと、それをサポートしていたメンバー。

 白部と海東を後ろに下げ、最前線で戦い続けていたのがこの4人だ。

 そんな4人の後ろに続くのは、その他のメンバー。


『時巻 小太郎』はミリア姫と話をしている利発そうな顔立ちの男。

 大神官だ。あの細腕で、聖属性を乗せたメイスを振り回す破戒僧。


 おどおどとその後ろに続くのは『相良 エイミー』幻術師という、敵を騙す力に特化した術師。同士討ちなどを誘発させれる、結構えげつない能力を持っていた。


 同じく、相良に続くのは『川北 栞』大盗賊の職を得ている。

 こんな最序盤にも関わらず、敵が来る方向を的確に察知し前衛に声を掛けている。相良を心配しているのか、彼女と手を繋いだままだ。


 そしてそんなオレ達の上に浮かんでいるのが『竹内 正樹』空戦魔導士という職で、空を自在に飛び回り、空中から奇襲をかけるのが得意な男。


 そして、最後尾の騎士達に囲まれるようにいるのがオレ『光 道長』と『篠塚 宏美』

 マスタービルダーであるオレは、何かを作れる環境でなければただの人だ。召喚直後は制服姿で、持っているものといえばポケットにあるスマートホンくらいなものである。


 篠塚はビーストマスターだ。今は落ち着いて魔物を自分の支配下に置ける状況ではない。オレと一緒に守られるだけのポジションだったのだ。


「こちらでお休みになって下さい」

「助かります」


 そういえば小太郎が代表みたいなポジに収まってたな。勇者の自分がーとか騒いでいた稲荷火を黙殺して。

 騎士団の駐屯地に到着したオレ達を待っていたのは、歓迎の言葉ではなく侮蔑の視線だった。


『あんなガキ共の為にオレ達は命を懸けてここを守っていたのか?』

『子供に何が出来る、相手は魔物だぞ? 魔王だぞ?』

『連中がこんな場所に来なければ、あいつが犠牲になる事はなかったのに』

『勇者なんて意味の分からない存在、信じられるかよ』


 ……実際にオレ達にぶつけられた言葉がこれらだ。

 オレ達が決めた訳でもないのに、なんて理不尽な仕打ちを受けるんだ。

 そう思ったのはオレだけじゃなかったはずだ。






 場面が変わり、オレ達の服装も制服から冒険者達が着るような装備に変わっていた。

 確か、初めてダンジョンに挑戦するってなった時の記憶だな。


「魔王軍の中にはダンジョンを制圧し根城にしている者もおりますわ。ダンジョンが生成した罠に加えて魔王軍の知恵ある魔物が制作した罠、それに本来そのダンジョンにいないはずの魔物が待ち構えており、容易に攻略は出来ません。ここはその一つです」


 姫様の護衛の一人、セリア=ゼムダラン嬢だ。回復魔法も扱える聖騎士。


「罠の感知は私がします。皆さまは、私が発見した罠や敵の奇襲以外の警戒をお願いいたします」


 同じく姫様の護衛、エレイン=ホーネット嬢。

 オレ達の中には、回復役が白部しかおらず、斥候役になれるのが川北だけだった、パーティを分けた時に二人がオレ達と一緒に行動をしたんだ。

 稲荷火・海東・白部・小太郎・川北。

 オレ・明穂・ミリア姫・セリア嬢・エレイン嬢で分かれた変則パーティ。


「お二人とも、わたくしから離れないで下さいね」

「「 はい 」」


 リーダーはミリア姫だ。

 オレ達の中で脱落者が出ても、顔色変えずに接してくれるこの人たちには感謝している。

 ……竹内、相良は激しく凄惨な戦闘に『心が』耐えられず後方に待機となった。

 篠塚は、支配下に置いた魔物達を危険な目に合わせるのが嫌で、戦うこと自体に拒否感を示したのだ。戦場から遠く離れた王都の、与えられた屋敷で支配した魔物達と過ごしている。


 分岐が出来るまでは他の連中とも一緒にいたが、分岐が出来てパーティを分けてからも、魔物の激しい戦闘が続く。

 盾を構えたセリア嬢が敵を止め、ミリア姫が剣で、明穂が手甲を嵌めた拳で敵を葬っていく。

 エレイン嬢が敵や罠を感知しつつ矢で応戦。オレも威力が低いながらも魔法を使い応戦していった。

 手持ちのアイテムがどんどん減っていき、ダンジョン内で手に入る素材で作り直したりしていると進軍速度が遅くなるが、命には代えられない。

 何層もある深いダンジョンの中、とうとうミリア姫様が致命傷を負って倒れた。


「姫っ!」

「セリア! 動揺しないで敵を抑えて! 道長様っ!」

「分かってる!」


 ミリア姫は剣聖と呼ばれる職業を持って生まれた剣の天才だ。

 相手がなんであれ、今まではダメージを負うことなく敵を切り伏せていたのだが、今回は相手が悪かった。


「っ! 毒が皮膚に……」


 紫色に姫様の左肩が変色していった。

 このボスルームの主、巨大なオオサンショウウオの様な魔物の舌による攻撃をまともに受けてしまったのだ。


「ミチ、ナガ。わたくしは」

「すいません、脱がせます。静かにして下さい」


 左肩の毒はどんどん範囲を広げていき、左手と首元、胸元にまで侵食していった。

 鎧を外し、鎧下を脱がせて患部を確認。


「ミ、し、わた」


 毒により、体の痺れも起きているようだ。口も回らなくなっていってる。

 姫様の皮膚から毒を検出し、この毒に合ったタイプの毒消しを模索する。

 その間、体力が低下しない様に紫色になった皮膚にハイポーションをかけて毒の進行で変色するのを抑える。

 そしてありあわせの物で毒消しを作成し、それを姫様の口元に寄せる。

 しかし自力で飲み物を飲む事も出来ない様で、口から流れ出してしまった。


「先に謝っておきますね」

「~~~~!!」


 オレは作成した毒消しを口に放り込んで咀嚼し、姫様に口移しで飲ませた。


「なっ!?」

「ちょっ! みっちー!?」

「あらまぁ」


 戦闘に集中して欲しい。オレも恥ずかったんだから。

 喉の奥に押し込むように、自分の口から相手に移す。

 飲み込むのを確認したので、口を離して姫様の皮膚の状況を確認する。

 毒の範囲が狭まっていったので、姫様を持ち上げて壁の端まで連れていく。

 脱がせた服を上にかけて、休憩が少しでも取れるように簡易的な結界装置を設置。


「毒の構成から考えて、生物と鉱物の中間の様な魔物です! 斬撃ではなく打撃中心で!」

「了解っ! 後で説教だからね!」


 姫様が一時離脱したものの、無事にこの階層のボスを倒すことに成功した。

 ああ、ここからだな。姫様に意識されるようになったのは。

 そしてこの後だ。

 見たくないが、見せられるんだろう。

 そう確信が持てる。

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こんな作品を書いてます。クリックするとそれっぽいところに飛びます
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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