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65 命と魂と錬金術師⑤

 いくつもの豪華な扉をくぐり、高そうな絨毯を踏みしめて地下へ続く階段を下へ下へと案内される。

 そして最後の最後に、いかにもな大きなドアが用意されていた。

 案内人だという高司祭様は、これ以上奥にはいかないらしい。


「さて、先に言っておくがの。相手は月神教の教祖様じゃ、心の準備は良いか?」

「具体的にどう覚悟すればいいかわからん」

「まあ、そうなるわな。いくぞー」


 そう言って豪勢で巨大な扉、の横の小さな扉に手をかける。


「そっちかよ」

「大門は飾り門じゃからの。祭事でもないと開かんよ」


 そういって小さな扉を開くと、中に先に入り手招きをしてきた。

 ジジイになされるがままだが、取りあえず中に入る。

 そこにいたのは立派な法衣を着た偉そうな青年だ。

 おお、オレと同じ黒髪に黒目だ。顔だちは全然日本人じゃないけど。


「ようこそ、異世界の客人」

「お久しぶりでございます。デイルグランデ様」


 ジジイ様がジャパニーズ土下座スタイルだと!?


「ほれ、お主もじゃ」

「いいよ、彼とボクは同格みたいなものだからね」


 そう言って青年がオレとジジイ様を席に進める。

 ジジイも諦めて一緒に席に座る。


「ゲオルグ、君が連れて来たって事は。彼に試練を与える気かい?」

「左様に御座います。もちろん、デイルグランデ様のご許可を頂けるのであれば、でございますが」

「えっと?」


 オレは話の流れが分からず、その場で硬直。


「まあ、取りあえず自己紹介から始めようか? さあどうぞ」

「あ、えっと。異世界から召喚されました、光道長です」

「うん。美しい黒髪と黒い瞳だね。共感が持てるよ。素晴らしい」

「どうも」


 立ち上がり、両の手を広げてクルクル回る青年。


「ボクはデイルグランデ、人間には発音が難しいからそう名乗っているんだ」


 そう言って青年が背中を向けて動きを止める。


「ボクは月神教の教祖。神々の威光を皆に広め、人々を含めたすべての知恵ある存在のすべてを導く存在」


 そう言いながらゆっくりとこちらに振り向く。


「そう。女神ディープ様に仕える、使徒の一人だ」

「はっ!?」


 その顔は、先ほどの青年の姿では無かった。いや、服装はそのままであったが、その姿は白い骸骨のソレだった。


「アンデッド……? リッチ? 違う。使徒、使徒に種族なんか関係ないのか?」


 オレの口からなんとなく思考が漏れ出す。


「あはははは! いいね光道長! ボクの顔を見てその反応は初めてだ! 新人の高司祭の中には腰を抜かすか攻撃してくるか、そんな連中ばっかりだからね!」

「や、驚いてはいますけど」


 デイルグランデと名乗る骨がカタカタと嬉しそうに法衣を翻す。

 この人が骨になってから、この空間が聖なる力場で押しつぶされてる感覚なんだよな。女神クリアのいた神界みたいな、それでいて重みがある空間になったのだ。

 こんな空間に悪しき存在であるアンデッドやリッチがいられる訳が無い。


「えーっと、デイルグランデ様。丁度お聞きしたい事がありまして」

「なんだい?」

「死者の魂を呼び戻したいんです」

「へぇ? それをボクに聞くのか」


 重みのある空気が更に重くなった。


「女神ディープ様の元に旅立たれた魂を、女神から簒奪すると?」

「くはっ」


 胸が締め付けられるように苦しくなる、空気を吸っても肺に空気が入ってこない。


「ボクはディープ様の眷属だよ? そんなボクにディープ様のお手持ちの物を奪うと宣言する? 女神クリアの眷属、光道長よ。たかだか2年程度の新人眷属が、数千、数万の時にわたり地上を任せられたボクと事を構える?」

「そ、んなつも、は」


 そんなつもりはない、と言いたいが言葉が出ない。

 全身が締め付けられるような気分だ。椅子に座っている事もつらくなり、地面にずりおちてしまう。

 そんなオレの顔に、眼球の無い空洞が覗きこんできた。

 これは、この思考は……?


「そう、か。魂の簒奪、は。女神の意思に、反する。世界の理を曲げる、出来ない、事」

「そうだね、だから?」

「女神、に会い。ゆるしを、乞う。しか、無い」

「正解だね! いやー流石ゲオルグの弟子!」

「くはっ、はあ、はあ、はあ」


 圧力は無くなったが、呼吸がまだ定まらない。


「ゆっくり、空気を吸って。心を静めるんだ。いいね?」

「はあ、良し。収まった」

「はは、流石だね。回復も早い」

「どうも。加減をしていただいたみたいで」

「あれ? 分かった?」

「もちろん、でも加減されてても老体にはキツイみたいっすね」

「え? あ!? ゲオルグーーー!!」


 お骨様の圧力に負けて、魂が飛びぬけてるジジイ様が椅子にいました。

 流石はディープ様の眷属である。






「危うくディープ様の元へ召されるところじゃった」

「悪かったよゲオルグ、君がボクの後輩になるには、まだ200年は早い」

「じじい、寿命すげえな」

「ほっほっほっ、それでも半分は切れたの」


 こんなに元気な老人がこの世に存在していいのだろうか。


「さて、光道長。理解してくれて何よりだ」

「道理で、どんな書物で調べてもどんな魔道具でも観測出来ない訳だ……」

「生き物が死んで魂が肉体を離れたら、女神ディープ様の元に召されるからね。女神ディープ様の元に召される前の魂であれば肉体に戻る事も稀にあるけど、冥界の領域にまでたどり着いた魂を呼び戻すのは人の身だろうが神だろうが不可能。冥界は女神ディープ様の領域だ、あの方の理が適応されている場所で他者の思惑が介入される余地は本来ない」

「そもそも簒奪というか、魂を呼び戻す事自体が不可能なんじゃないですか……」


 苦しみ損だ。


「あはははは、そうだね! まさしく骨折り損だ」

「骨だけにとか言わないで下さいね」

「うっ」


 言おうとしてたな?


「ま、まあお茶とお茶請けを用意したから寛いでってよ」


 デイルグランデが手を振るうと、テーブルにお茶とクッキーがどこからともなく現れた。


「これは特別なお茶だよ! 普通の人間が口にしたら、そのおいしさに思わず……」


 そういいながら、その手の骨で頬骨を覆い隠す。


「ほっぺが落ちちゃうとか言わないで下さいね。貴方頬がないんですから」

「なっ!」

「あとデイルグランデが飲んで、地面に全部こぼれるとかも無しな。立派な法衣が汚れるぞ」

「ぐぬぬ! なぜ、なぜボクの鉄板骨々ジョークを先回り出来るんだ!」


 膝と手を地面に付けて、全身で私凹んでますアピールをしないで欲しい。


「異世界の文化を舐めないで欲しいな。世界一有名な海賊船の音楽家が良くやるネタだ」


 オレも作者も大好きな作品なんだよ?


「く、まさかボク以外にも言葉を操る骨がいるとは! まさかリッチに知り合いが!?」

「異世界の文化だっつうの。骨身に染みるとか、肉を切らせて骨を断つとか、心臓が飛び出るとか、ああ。足をつったとかもやめてくれよ? 筋肉無いんだから」

「おお、その技いいな!」

「技じゃないだろ」


 ネタだろ。


「のうお主よ、デイルグランデ様は眷属様じゃぞ?」

「オレも眷属様ですけどねぇ!」

「あはははは」


 笑う時に一緒にカタカタいうのが面白いな。


「さておき、さっきの話の続きだ。女神ディープ様の元に召された魂を呼び戻す事は出来ない」

「それは理解しました」

「うんうん、ではどうするつもりかな? 君の質問は死者の蘇生に関わる事だ。太陽神教や月神教ではアンデッドの作成は禁忌とし禁止している。もちろんボクはそれらを監視し取り締まる係だ」

「アンデッドじゃなけりゃいいんじゃないのか?」

「む」

「そもそもアンデッドの定義がこの世界じゃ決まってる。女神ディープ様の元に召されて、清められた魂からそぎ落とされた怨念や執念といった負の思念、それらが集まり魔素と混ざりあって生まれるのがアンデッド、その負の思念の中に特別強い物があったりするとリッチやデュラハン、時には深淵の騎士みたいな化け物が生まれる。それがアンデッドだよな?」

「そうだね」

「そういった負の思念が集まりやすい場所があって、そこでアンデッドが生まれる。それとアンデッドがアンデッドを生み出す。だから禁忌」

「そうじゃのぅ」

「そういった方式以外で作られた生命は禁忌には抵触しないんだろ? ホムンクルスや人工ゴーレムなんかがそうだし」

「ふむ」


 骨から人の姿に戻ったデイルグランデがお茶に口を付ける。


「そもそもの前提が違うんだよね。生き物の蘇生は禁忌ではないのだから」

「は?」


 デイルグランデの言葉に、本日二度目の間抜けな声を上げて、驚いた。

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おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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