62 命と魂と錬金術師②
「久しいの、ミチナガよ」
「お久しぶりにございます。長らく席を外していた事、ここに謝罪を申し上げます」
お久しぶりの謁見の間。ドリファスさんを供に。
そして謁見の間には、この国のトップであるダランベール王と、そのご家族の皆様。そしてこの国の重鎮の皆様です。
ミリア姫は不在、セーフ!!
いつものローブ姿ではなく、騎士達の騎士服に似た正装だ。勲章やら憲章やらのバッジがいっぱいついていてスーパー重い。
「ドリファス、良く逃がさずに余の前にこやつを送り届けた。後程報酬を出そう」
「陛下、私は仕事を全うしただけにございます」
「そういう訳にもいくまい」
「それでは、ありがたく」
オレと共に跪いていたドリファスさんが頭を深く下げた。
「して、ミチナガよ」
「はっ」
「此度の遠征、大儀であった」
「はっ! は?」
「ふははは、とぼけぬとも良い。東の地にて巨大な魔物と戦ったのであろう? ミリミアネムがお主と巨大な魔物との戦いの場を確認しておる。魔王軍との戦いで確認された物よりも巨大な生物の足跡や攻撃跡などの報告を受けておるぞ? しかも大量の魔物を従えていたそうではないか。強大な魔物との死闘、そしてそれらを見事撃退し、土地の再生も完了していたそうだな。見事である」
「はぁ」
ん? え? 巨大な魔物? 大量の魔物?
ナンノコト?
「流石は女神様に選ばれし真なる勇者様ですな!」
「魔王をも討伐した勇者にも劣らぬ素晴らしき戦働き!」
「お一人で、この城よりも巨大な魔物を倒されるとは!」
「流石は我が弟子である!」
なんか周りの重鎮方も盛り上がってる。
あと褒めてるようで自分を持ち上げんなよジジイ。
「ミチナガ、素晴らしい働きでしたわ。ですがミリアを置いていったのは良くないわよ? 貴方の大切な婚約者なのですから」
にこやかな表情でこちらに視線を送るのは、国王の横に優雅に座る王妃シンフォニア様。
「いえ、そのお話は以前お断りした通り……」
「あら? ミリアの何が不満なのかしら?」
「そういう事ではなく……」
「夫婦生活を送るのに、わだかまりはいけません。ここでおっしゃってくれれば、わたくしからミリーへしっかりとお伝えしますわ」
「ミリミアネム王女様に不満などは御座いません。ですがやはり、私はこの世界の人間では御座いません。いずれは故郷に帰る男です」
「存じておりますわ。それで?」
「はい?」
「いずれは故郷に帰るのであれば、我が娘は貴方についていきます」
「へ!?」
「シ、シンフォニア! それは!?」
「当然でしょう? 私の娘ですわよ」
「お母さま、流石にそれは……」
「王を継げる第一王子は既に妻が2人もおりますし、第二王子も既に結婚適齢期まで育ちました。何か問題が?」
「「 問題だらけです! 」」
王子様二人も大変そうですね。
「はぁ、なあミチナガ」
「なんでしょうか? シャクティール王子」
「お前、帰るの諦めてくれよ」
「おう、シャク。喧嘩売って来てるのか? 王城ごと吹き飛ばしてやろうか?」
「ミチナガ!?」
「おまっ! シャク! 謝れよ!」
「いやいやいや、俺達全員そう思ってるからな!? そうだろう! 父上! 母上!」
「いや、それは……」
「それはまぁ、そのぅ」
「はあ、オウサマとオウヒサマも同意見っすかそうっすか。よし、全員覚悟しろよ?」
「待たんかミチナガ! せめてワシが避難してからにしろい!」
「うるせえジジイ! まとめて吹き飛ばしてやんよ!」
「道長様、少々言葉遣いが乱れておりますよ?」
えー、なんでもいいじゃない。
「もういいよドリファス。周りもなんか諦めてるし」
大臣の皆様や護衛騎士の皆さまが放心しておりまする。
「こほん。ミチナガよ」
「はっ!」
とりあえずなかった事にしようということで、仕切り直しに。
「この世界の危機に誰よりも早くその現場に赴き解決した。女神クリアの導きがあったとはいえ、一人であれほどの魔物との戦いに勝利したその力。見事である。此度の働きに、余は大変満足しておる」
覚えが無いのですが?
「あの、陛下? いつの話でしょうか?」
「む? お主が姿を消してしばらくしてからの事じゃが……あの規模の戦いと、何よりも後片付けを出来るウッドゴーレムを使えるのはお前だけではないか?」
「そちらのゲオルグ様ならお持ちでしょうけど」
「ワシャ知らんぞい、人にも渡しとらんしの」
「と、いう事だが?」
ウッドゴーレム、確かに使ったけど。
「デカイ滝が流れ込んでる場所でなら使いましたけど。なんかゴブリンとかの集落があったので」
「そこじゃそこ! 余の聞いた通りの場所じゃ!」
「なんと! 魔王を討伐した勇者様からすれば王城よりも巨大な魔物程度では記憶にとどめるほどでもないと!?」
「なんと頼もしい!」
「マスタービルダーとはかくも強力な戦士であるか!」
あれ? そんな大きな魔物いなかったぞ?
「何か褒美をと思ったのだが……お主は自分の欲しい物はなんでも作れる男だしの。何が良い?」
「であれば。陛下の右腕とも言える、我が師との会談を希望いたします」
「お主とゲオルグとの間柄じゃ、わざわざ余を通す必要などなかろうに」
「ゲオルグ様はご多忙な方です。この国の頭脳たる方のお時間を頂けるのであれば、どのような宝物よりも価値のある時間であると愚考いたします」
色々聞きたい事があるんだ、陛下に命じて貰って逃げ出せない様にしてやる。
「ふむ。ミチナガにそこまで言わせるとはな。流石は余の御意見番じゃ。ゲオルグよ。構わぬな?」
「勿論に御座います。我が弟子の願い、陛下の代わりに必ず実施いたします」
「うむ」
陛下が満足そうに頷いた。
「ミチナガ、この国の危機を救ったお前に、ゲオルグ老との師弟の会話だけでは褒賞が足りない。新たなるダラン王国憲章と1000万ダランの報奨金も用意してある、こちらも受け取ってはくれまいか?」
「ウォルクス殿下がそこまでおっしゃられるのであれば、否などございません」
ウォルクス様はオレの前まで歩いて、憲章の証であろうなんかごちゃごちゃと豪勢な装飾の着いたバッジを見せて来た。
オレは立ち上がり、手を後ろ手で組む。ウォルクス様が胸元に付けてくれた。
「王都の南の領地をお前に任せるなんて話まで出たんだ。現金だけに収めた私に感謝するといい」
「はは、流石はウォルクスだ。オレの事を良く分かってる」
小声でそんな事を言って来たので、オレも小声で答えた。
そもそもドッペルゲンガーまで出現する程荒れた領地なんか貰っても嬉しくない。
「また飾るべき勲章が増えたな」
「勲章とか肩章とか違いが分からんが」
「名前が違うだけで、ほとんど変わんないよ。どちらかと言えば、そのバッジ自体が値打ちものってだけだからな」
「みたいだな。オリハルコンとミスリルの合金か。ジジイ作だな」
「そういう事だ」
ウォルクスはウィンク一つし、オレに振り返る事を要求してきた。
王子より受け取ったバッジを、背後で待機していた家臣団に見せると、大きな拍手が巻き起こった。
さあ。最速でじじいを拉致して王城から逃げないとな!




