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59 金欠の錬金術師⑤

「おししょーさまの工房! 初めて入りました!」

「お邪魔するよ」


 そんなこんなでクリスとミーアちゃんに指導をする為に二人を招待。

 ちなみにクリスの診療所兼店舗は閉めて、代わりに家の前で冒険者ギルドから雇われた治癒魔法師がテントを張っております。

 だんだんと、クリスと冒険者ギルドの軋轢が無くなってきている気がする。


「やあ、クリス君も素直になったもんだねぇ」

「か、勘違いするなっ! 僕はお前の工房に興味があっただけだからな!」


 可愛い反応するんじゃありません。


「今日はなにをおしえてくれるのですかっ!」

「魔石の加工だって? 今更そんなものを僕に見せるつもりか?」

「お前に見せるののメインは魔法陣の方だけどな。まあミーアちゃんにも教えるから最初からやるが」


 話によるときちんと王都の学校で勉強をした錬金術師なのだ。確かに今更見るべきものは少ないかもしれない。


「改めて説明するが、今日見せるのは魔石の加工。それも一つの魔道具に専属で取り付ける専用の物」

「はいっ!」

「話には聞いたが、売れるのか? とてもそうは思えないが」

「オレもそう思ったんだけど、ギルド側が乗り気でなぁ。いま無料で貸し出してるみたいなんだ」


 実際に冒険者ギルドでいくつか買い取った物を試験的に貸し出して冒険者達に試してもらっているらしい。

 以前軍にいた時に大量生産した分の余りで300個は足りた。オレは何を思ってこれを一〇〇〇個も備蓄しておいたのだろうか?

 ダンジョンみたいに狭い範囲だと使えないのに。


「まあ実際にオレが作るのを見ててくれ。説明しながら作るけど、質問があればどんどん言ってくれればいい」


 魔石を売った時、二人が作った物でもギルドを通しての専売契約で、マージンをくれると言ってくれたのだ、しっかり覚えて欲しい。

 うまくいけば働かずにオレにお金が入るのだ。

 むふふふふ。夢の不労所得。


「まず用意するのが、魔法が使える魔物の魔石。小粒な方が加工しやすい」


 スピードリーに提供してもらった大量の魔石だ。

 それをジャラジャラと机の上に広げる。


「これは同一の魔物の物じゃなくていい。魔力を通す為に使うのであって、この中に内包されている魔力には用はないからな」

「面白い考え方だな」

「そうなんです?」

「そうだな。普通の錬金術で使う場合、同系統の素材を使う場合は同じものを用意した方が良いと言われている」

「僕も学校でそう習ったし、実際に色々と錬成をするうえでその方が、効率がいいと学んだよ」


 ミーアちゃんの疑問にオレとクリスが答える。


「これざっくりと砕いて窯に入れる」


 普段は面倒だからそのまま入れるが、今日は教えながらなので目の前で鉱石なども粉に出来るミキサーで砕く。


「さらっと意味の分からない道具が出て来たな」

「べんりです!」

「ハンマーとかで砕く場合は破片が飛ばない様に気を付けて砕いてくれよ」

「その意味の分からない道具が気になるんだが」

「気にするな」


 これはミキサーなのだ。


「んで、砕いた魔石を窯に入れて。赤の水溶液で魔石が完全に沈む程度に注ぐ」

「あんまり使わないんだな」

「すいようえき、まだ作ったことないです」

「だってよ、お師匠様?」

「お前が教えてやれ。この辺の素材にはお前が詳しいだろ?」

「く、この水溶液も頭がおかしい気配がするっ!」

「別に水溶液はいい物じゃなくていいから、ランクC程度でも問題無い」

「ちなみにこれは……」

「火竜の内臓とかが中心」

「Aランクじゃねえか!」

「低くても問題ないんだから高くてもいいんだよ」


 細かい事を言うんじゃない。


「そこに風巻鳥の爪を粉末状にしたこれを投入、量は大体コップ一杯分。これはあとで別の属性を乗せるための定着剤として使うから風属性の強い動物素材であれば何でもいい」


 風巻鳥はこの辺では良く食べられてる魔物だ。低ランクの冒険者でも倒せる魔物だから手に入りやすい。


「雑だな」

「こういうのは自分に合った素材を見つける方がいいんだ」

「なるほど!」

「一理あるがなんか違う気がする」

「ここから魔力を込めながら煮込んで魔石を溶かすんだが。時間がかかるから溶解剤も入れちゃおう。勿体ないなら魔力だけで溶かすだけでもいい。あんまり溶ける力の強いものだと完全に液化するから、強力過ぎる物を使うのもダメだ」


 オレは魔力を込めつつ、混ぜ棒で魔石が溶けるのを待つ。


「すぐとけるです」

「魔力と溶解剤のダブルコンボだからね。更にここにバケツ1杯分くらいの大きさのスライムを1匹投入する。このスライムは魔物の肉を食べさせず、1週間程植物だけ食べさせたスライムだ。植物ならなんでもいいけど根菜は食べさせず、緑色の葉っぱだけの食べさせたもの。葉っぱは雑草でもいいけど毒草はダメ」

「すらいむ!」

「ミーアちゃん、一人でこの錬成をやっちゃダメだからね? 必ず大人と一緒にやるか、錬金術師の資格が取れてからやるんだ」


 投入する直前にスライムの核を取り出してスライムさんには死んでもらう。あくまでも使うのは身の部分だ。


「スライムの魔石は取らなきゃダメなのか?」

「別に問題無いけど、生きたスライムをそのまま加工するのは罪悪感がな」

「そうか?」

「なんとなくわかるです」


 死んだスライムを投入したら、窯を火にかけて中身が焦げない様にかき混ぜる。

 スライムの体が窯の中でドロドロと溶け出し、中の水溶液、魔石の欠片と一緒にどんどんと溶ける。

 均一に溶けきって、水分量が多いが、若干ゼリー状になったところで窯を火から離す。


「ここからの工程が、ちょっと特殊かな」

「ここまでも十分に特殊だと思うぞ? 魔道具用の魔石の加工って削って形を整えて魔法陣を書き込むんとかじゃないのか?」

「ませきをとかすなんて初めてみました」


 え? そうなの?






「ま、まあ次の工程だ。次は緩いゼリー状にしたこの錬成物を、トレイなどの四角くて薄い器代わりになる物に流し込む。器は必ず清潔にすること」

「ふむ、当然だな」

「トレイが重いと大変だから、金属製のものより木製のとかでいいかも。家にある木製のお盆とかでも錬成物が零れなければなんでもいいよ」


 いいながらオレはその見た目は持ち手のないお盆に作成したゼリー状の物を流し込む。


「そんで、冷やす。赤の水溶液を使ってるから冷蔵庫でも2、3日はかかるかな」


 工房に備え付けの冷蔵庫にお盆を入れる。


「ああ、確かに。一度熱された赤の水溶液は冷やすのに時間がかかるね」

「そしてこれが2、3日ほど冷やしたものです」

「用意がいいなオイ!」

「さすがおししょーさまです!」


 お料理番組をしている気分だ。まあ目的は違うが、料理の工程に似てるけどね。


「冷えたら完全なゼリー状になる。そして取り出したこちらを、魔道具の差し口に合わせて作った型で一つずつ取っていく。こう、ぺったんぺったんってね。ミーアちゃん、やってみる?」


「はいです!」


 ちなみにこの型一つで一度に12個取れる。

 ミーアちゃんがぺったんぺったんとクッキー生地から型抜きをするような感覚でいくつもの四角いゼリーを作り出す。

 大きさでいうと、一口チョコみたいなサイズだ。

 合計で200個くらい作れるから大変だ。

 見かねたクリスも自分もやってみたいからと言ってミーアちゃんから型を奪っていた。

 オレはその間に次の準備をする。


「出来たぞ」

「できましたです!」

「はいはい。あまった端っこは次回の錬成の時に混ぜていいからね」

「ああ、なるほどな。こういうのは中々きっちり使いきれないよな」

「クッキーだったらいっしょにやけるですけどね」


 次に用意するのがミスリルの板。それを2枚用意する。


「ミスリルの板。鉄板みたいな感覚で使うものだ。でも鉄や鋼鉄、銀や金はダメ。魔鋼ならいいけど。それの内の1枚の中心部分にこれを並べる。この大きさだと大体30個くらいかな」

「また随分と変な物を使うんだな、しかもミスリルの板か。高そうだ」

「魔力の伝導率が良い素材であればなんでもいいんだ。さっきも言ったが魔鋼で問題ない。オレは重いからミスリルを使ってるってだけ」

「並べました!」

「はい、ありがとう」


 四隅にゼリーを潰さない様に支えを置いて、その上にもう一枚のミスリルの板を乗せて挟むように置く。


「緑の水溶液を使って、魔法陣を上のミスリル板に描くんだ。一応複写した魔法陣を用意したからクリスは持って帰ってくれ」


 オレは魔道具である筆に緑の水溶液を付けて、ミスリル板の上に筆を走らせる。

 この魔法陣は何度も何度も書いたので、覚えてしまっている。


「ああ、この工程は知っている。ただ、学校でやっただけで普段はやってないな」

「薬の調合や火薬の調合なんかは窯で混ぜるだけだからな。これは新しく作る魔道具の魔石……錬金術師的に言うと魔核の作成の作業工程だから、魔法の武具やアクセなんかを作る人じゃないと使わない技だな」


 言いながらも、丁寧に筆を走らせる。

 クリスも横で見ながら、魔法陣を覚えてくれるようだ。


「ミーアちゃん、手を出しちゃだめだからな」

「は、はいです」


 高さが合わないから台に乗って覗き込んでいたミーアちゃんにクリスが注意をしつつも体を抑えてくれている。

 この工程では、人の魔力が混ざるのは余り良くない。イドが見に来た時の様に魔封じをしなければならない程繊細な作業ではないが、クリスは一応注意してくれたようだ。


「よし、書きあがり。最後にこの書いた魔法陣の中心にBランク以上で風の属性が強い魔物の魔石をおいて、魔法陣を起動させる」


 今回使うのはウィンドワイバーンの魔石だ。普通のワイバーンは火属性の魔石だが、こいつは風の属性が強い。しかし火の属性も少し持っている。

 魔法陣が緑色に輝くと共に、ミスリル板の間の魔核も緑色に光り輝く。


「なるほど、風属性の魔石の魔力を魔核に移しているのか。すごい技術だな」

「そういうこと。この魔法陣を起動させるのに魔力を使うけど、それ以外では魔力がいらないのが楽でいいな」

「違いない」

「きれいですー」


 ミーアちゃんはまだ魔力の流れを感じ取れないのだろう。色以外の変化には気づかないかもしれない。


「光が消えたら終了。魔核の完成だ。Bランクの魔物の魔石で3回までならこの工程が行える。4回目は魔力が無理で足りなくなる」

「一度に結構な量が作れるんだな」


 なんだかんだで興味津々にメモを取りまくっていたクリスが顔を上げる。


「ああ、魔核の魔力が空になったら魔石と同じように投入すればいい。その時は魔核を赤の水溶液で溶かすだけでいいぞ」

「あれ? そういえばなんでこの工程で赤の水溶液を使うんだ? 僕なら緑の水溶液を使って作成するぞ?」

「それは魔道具本体側の問題だな。魔道具は腕輪、人間の体温を起動キーにしてるんだ」

「体温を?」

「この魔道具を作るにあたって、オンオフ機能が一番のネックになったんだ。緑の水溶液で完全に作ったら、一度起動させたら魔力が切れるまでずっと起動中になってしまう。それこそ街に帰ってきてもね」

「魔道具側にスイッチか何か付ければ良かったんじゃないか?」

「冒険者は戦闘をするだろう? 動き回る前衛の連中なんかが使ってると、戦闘中に振動でオンオフが勝手にされちゃうんだ。それでオフになったまま気づかないなんて事があってね。それで単純に腕輪を付けていればオン、付けてなければオフになるように体温を起動キーにする為に赤の水溶液を使ってるんだ」

「そういうことか。正直どんな造りをしたらそういう機能が腕輪に付けれるのかサッパリだが、オンオフの理屈は理解した」

「流石に魔道具本体の方は教える訳にはいかないからな。まあやる気になるんなら必要なミスリルの板や魔法の筆はこっちで準備してやるから、魔核の作成、考えておいてくれ」

「その魔道具が売れるんならな。それで? その場合はいくら払えばいい?」


 お金の話が出たので、オレは頭を軽くかいた。

次回予告

道長、おせっかいをする!

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おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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