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57 金欠の錬金術師③

「んじゃ改めて、だ。槍の発注いいか?」

「構わないぞ、予算はどのくらいある? それで使う素材を決めよう」


 自分の命を投げうって仲間を庇うような男だ。こいつには良い物を持って貰いたい。


「一応これくらいなら……」


 そこに出したのは皮袋に入った金貨だ。500万ダランくらいあるだろうか。


「んー、クラスの連中に渡したような非常識なのは作れないがいいか?」

「憧れが無いとは言えないが、自分には不相応な武器だろうな。」

「最近手に入れたのは、火竜の怒り状態の爪と牙が常識の範囲内では一番いい素材だな。柄の部分をミスリルにするか、オリハルコンにするかで大分変わるけど」

「重さや取り回しを考えると、ミスリルじゃ軽すぎるな。オリハルコンだと嬉しいが」

「この3倍くらいの金が、まあ相場より少し安い程度かな?」


 オリハルコンゴーレムが入れ食いだった頃はオリハルコンの価値が理解出来なかったが、相当高い物だ。今だとオリハルコンゴーレムを倒すのに苦労しそうだから、余り気軽に放出する事が出来ない。


「やっぱ今でも風の魔法主体?」

「そこは変わらないな」

「じゃあ火と風の混合攻撃を出来るようにするか、今の風に特化した武器にするかだな。一応暴風竜を倒した時一緒にいた眷属の飛竜の素材があるからそっち方向に行くことも出来る」

「なるほどな……どうするかな」


 レドックが考え込む。


「あとは両方を乗せた槍も作れるけど、扱いが難しいかもしれないかな」


 二属性武器はどんなに慎重に作っても、取り扱いの難しい武器に仕上がる。扱うにはセンスが必要だ。


「ああ、確かバトルマスターの……」

「南明穂だな。あいつの使っていた手甲は最終的に、左が雷属性で右が神聖属性に落ち着いた」


 セーナの作成の際に血液サンプルを貰った相手だ。バトルマスターはあらゆる武器を扱うことに精通している。

 近距離武器だろうが遠距離武器だろうがお構いなしに扱えるのだ。

 セーナ自身の戦闘の師匠でもある。あいつの実家は空手の道場だから近接戦闘を好んでたし、セーナに空手を仕込んでいた。


「あれ程のセンスが必要か」

「明穂はセンスはあったけど1つの武器から2つの属性を使うより、2つの武器で2つの属性を扱う事を選んだけどな」


 槍となると、2つ同時に扱うというのは現実的ではない。

 レドックが使う槍は片手で扱う手槍ではなく、長槍だからだ。


「自分に扱えるだろうか?」

「ピーキーだからなぁ。それに考えて使い分けないといけない。お前ならそっちは問題ないだろうけど」


 明穂は考えながら戦うのが面倒だからと、両手の武器に分けただけだ。


「引き出すべき属性を瞬間、瞬間で使い分ける事が出来るかが問題か」

「そうだな。それと同時発動」

「火と風の同時発動か。そうだな、それも扱えるようになるべきだな」

「ご希望があるなら別の属性でもいいが? 神聖属性は無理だろうけど標準属性であればお前でも扱えるだろ。雷や氷ならいける、大地もまあ素材を持ってきてくれればいける」

「ん~~」

「悩むなら風や火の単一で作ることも出来るか?」

「いや、実は単一属性で戦うことに以前から限界を感じていたんだ。お前たちや、騎士団の連中と一緒に戦って……戦場からようやく抜け出してソロの冒険者に戻って、な」

「はっきり言うが、何でもできるようになった自分より、それぞれが短所を補う仲間の方が信頼出来るぞ」

「それはわかっているが、お前たちを見た後なんだ。なかなかな」

「だったら育てろよ」

「まだそういう歳じゃない」


 20代前半って言ってたもんね。


「とりあえず、火と風で頼む」

「わかった、じゃあじっくり調べさせてもらおうかな」

「ああ、そういやそうだな。男に体をベタベタ触られるんだった」

「オレも出来るだけやりたくないんだけどな」


 誰にでも使える武器を作るわけじゃない、レドック専用の武器を作るんだ。色々データを取らないといけないんだよ。






「さて、お金は作れたわけだが」


 レドックの武器を作成するのに2週間近くかかりきりになったが、その間は散財しなかったのでお金は極端に減りはしなかった。

 レドックの武具に多少使ったけど、それは必要経費である。


「ダメですよマスター、大金が入っても大金を使っていい理由にはなりません。リアナの計算だと今の量、今までと同じ使い方をすれば2カ月もすれば空っぽです」

「ハイポや劣化マナポの収入でも十分に生活はしていけるだろ。イドがお金を入れてくれてるし」

「生活をしていく分には問題ないですけど、先日の様に散財されてはたまりません。今月使って良い分はこれだけです」


 ダラン銀貨が5枚。


「これ、お小遣いですよね! お小遣いですよねリアナさん!」

「今後、イドさんを含めて冒険者に依頼をかける時にはリアナを通してくださいね? まさかマスターがここまでお金の管理が出来ないとは……教育が必要ですね」

「いらないいらない」


 どこの世界に自分のホムンクルスに教育される主人がいるのだろうか?


「それに先日のドッペルゲンガーの躯の様な希少な素材や、単純に量の必要な月齢樹の蜜のような素材が必要になればすぐに無くなってしまいますよ」

「希少価値はともかく獲りに行って貰うのに時間や危険度の高い素材はなぁ」


 拘束時間と危険手当、それと高ランクの冒険者には単純に依頼料が必要になる。

 強い魔物を討伐するだけであればそこまで極端な金額はかからないが、その上で素材の回収まで依頼をかけるのだ。

 素材の状態まで指定すると、それが可能な冒険者に指名をしないといけないのだ。


「やっぱ自分で獲りに行った方がいいかなぁ」

「冒険者ギルドや町長様のような手段に出られるのは面白くありませんが、正直マスターが採取に直接行かれるよりも安心できます。リアナはあまりお力になれませんから」

「戦闘用じゃないんだから気にする事はないよ」


 頭を下げて視線を落としたから、頭を撫でてあげる。


「お前には世話になっているよ」


 リアナが生まれた時はクラスメート達がいた。その時はクラスメートの10人に対し、回復魔法が使える人間が聖女の白部だけだった。パーティを2つ3つに分けた時の回復役不足は回復アイテムだけでは足りない部分もあった。そこで必要に迫られて用意したのがリアナなのだ。


「お前がいたおかげで助かった命があるんだ。誇ってくれ」

「はい、でもマスター。そんなことでは誤魔化されません。皮袋から手を離して下さい」

「ちっ」


 オレの腕を掴まないでくれ。力はなんだかんだいってホムンクルスだから強いんだから。


「ハイポーションやマナポーション、解毒剤や常備薬以外にも売れ筋になるアイテムを売りに出されればよろしいのではないでしょうか?」


 大人しく皮袋を離して掴まれていた手を撫でる。


「売れ筋になるものあるかなぁ」


 戦争の時に特に需要のあったアイテムはなんだっけかなぁ。


「あの頃は魔法武器と爆弾、ポーションに……魔物の感知アイテムとか、あとはアレか。避妊薬か」

「リアナが特にお手伝いさせて頂いたのは、爆弾とポーションと避妊薬ですね。魔法武器はお手伝いあまりしておりませんし」

「避妊薬はクリスのとこの主力商品になってるから手は出したくないな」


 あいつのところだけで需要が賄えているものだ。わざわざ喧嘩を売るのもいかがなものかと思う。

 一番の客筋である娼館の繋がりもあいつが押さえているだろうし、あまりオレにとってプラスにはならないだろう。


「ですと、爆弾か魔物の感知アイテムですかね?」

「それだと感知アイテムにするかなぁ」


 爆弾は単純に攻撃魔法の使えない人間が、代わりに装備する物だ。

 軍のように統制の取れた連中以外に与えるのは少し怖い。

 魔物の感知アイテム、魔物の種類を完全に特定させて感知するタイプの物であればコンパクトな上に魔力だけで動く、ほぼ恒久的なアイテムになる。

 ゴブリンの接近を教えるアイテムなどがそれだ。

 あらゆる魔物の接近を単純に教えてくれる物となると、恒久的な物を作ると相当な大きさになる。騎士団などの軍が遠征先の駐屯基地やキャンプなどに設置するようなものだ。

 馬車一台を潰して運ぶくらい大きい。

 それをコンパクトにして、腕輪にした物が魔王軍との戦いで役に立ち需要も多かった。

 すべてのパーティに斥候役や魔物を感知できる人間がいるとは限らないのである。

 これがあるかないかで、魔物からの奇襲を防げるかどうかが変わった。命がけの任務に準じる軍の連中に人気があり、姫様達からも多くの数を求められた。


「オレ的には欠陥品なんだけどなぁ」


 そういうのも、この魔道具。

 オレ的には失敗作なのだ。や、失敗作と言うか制作の途上品というか。

 それなのに評価されて悲しい。


「そういえばこれも結局、研究途中で止まってたなぁ」


 腕輪型の魔道具。オレ的には失敗作でも、他の人から見れば違うらしい。

 まず、魔物が近づいたら分かる機能。これは半径30mの範囲だ。コンパクトに作成した関係で範囲が狭くなってしまった。

 姫様の親衛騎士団の連中から言わせると10m程度でも十分だという。30mも遠くから奇襲を受けることが無いからだそうだ。音で知らせると相手にもバレてしまうので、携帯のバイブ機能の様に範囲内に魔物がいれば震える。

 次に魔物の来る方向が分からない事。大型の魔道具では相手の方向や距離が測れるが、この魔道具にはそれが付いていない。

 これも親衛騎士団の連中から言わせると、方向は分からなくても問題無いとのこと。

 作戦行動中であれば、魔物の接近さえわかればあとは自分達で感知するからだそうだ。

 常に魔物の接近に緊張する必要が無くなるので、気が休まるそうだ。

 オレは超人ではない小心者なので、魔物の接近だけでなく方向や距離も知りたかった。

 一応、別付けのスカ〇ター的なアイテムも使って連動させるようにしたけど、そっちは作る手間がすんごいから量産していない。それにみんな魔物が近くにいるかわかればいいとのこと。

 そして何よりも、魔力の消費。

 魔物が近づけば分かるという魔道具の性質上、常に魔力を小さく放出しているので、1週間程度で使用出来なくなってしまう。

 魔力が切れるとただの腕輪だ。中の魔石を交換すれば一応再利用出来るが、強すぎる魔物が近づいたり大量な魔物が近づくと腕輪にヒビが入って壊れてしまうのだ。


「需要あるかなぁ?」

「ギルドで聞いてみたらいかがでしょう。この街では一番の需要がギルドで、二番目が兵士でしょうから」

「そうだな。おっさんに聞いてみるか」

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こんな作品を書いてます。クリックするとそれっぽいところに飛びます
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
― 新着の感想 ―
[気になる点] 暴風竜・・・ヴ〇ル〇ラさんかな?  本人「我とは全く関係無い別の存在であろう?」
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